42:融合の女王と死のフラグ
重く、粘着質な空気が、じわじわと肺を蝕むように空間を満たしていた。
異様な熱気と悪臭、そして圧倒的な意志の存在が、五感すべてを締め上げてくる。
巣穴の中心に鎮座する融合の女王──異形の巨体を持つ虫の女王は、まるで王座のような巣の上から、冷酷に一行を見下ろしていた。
その周囲には、蟻、蜂、蜘蛛、甲虫、羽虫……多種多様な虫たちが不気味な音を立てながら蠢いている。
羽音、脚音、顎を打ち鳴らす音、それらが共鳴し、地鳴りのような圧迫感をもたらす。
「来るぞ……ッ!」
ユーサーの鋭い声が静寂を切り裂いた。
「俺が先陣を切る! ついて来いッ!」
ジェラウドが咆哮し、盾を構えたまま突撃。
虫の群れへと飛び込む。
「気持ち悪いのよ、マジでぇえええっ!! 消えなさいッ! 【ホーリーブレス】!」
「凍てつけ、世界の風──【アイスストーム】!!」
シオニーの聖なる光と、エーデルの極寒の嵐が同時に放たれ、光と氷の奔流が虫たちを焼き尽くし、凍らせ、砕く。
だが──
「ダメだ、減ってねえ……ッ!」
ジョッシュが叫び、迫る虫の群れをバットで叩き潰す。
「数が……異常です。倒しても倒しても、後ろから湧いてくる……!」
クリスが冷静に敵の挙動を分析する。
その表情には、焦りの色もあった。
「特別種まで混ざってる……女王の意思がダンジョンコアに直結してる?」
後方支援に回りながら、クリスは咄嗟にマジックシールドを展開し、仲間を守る。
一方──
「……あれか」
ソーマは群れを切り裂きながら、女王の腹部奥を凝視する。
そこには、脈動する青白い光。
明らかに異質な鼓動が、女王の身体から発されていた。
「……あれ、まさか……ダンジョンコアそのものか?」
構造物に埋め込まれているはずの心臓部が、今や女王と一体化している──異常な事態。
「アイム、確認してくれ! サーチだ!」
「チッ、なんでてめぇの指図……わーったよ。【エリアサーチ】!」
アイムがサーチを放つ。
光の糸が空間を奔り、即座に結果が弾き出される。
「……間違いねぇ。ダンジョンコア、女王の腹に融合してやがる。ど真ん中だ!」
「つまり、あいつを倒さないと終わらないということか……」
ジェラウドが呻きながらも、盾を構え直す。
「ならば──突破するのみッ!!」
ユーサーの剣が稲妻をまとい、ライトニングブレードが発動。
炸裂する雷撃が虫たちをまとめて消し飛ばすが、すぐに壁、天井、床下から新たな群れが湧き出す。
終わりが、見えない──
何か流れが変わるきっかけが欲しい──
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【ジョシュア視点】
「ダメだ……これじゃキリがねえ!」
虫の波に押される。
汗が目に染みる。
筋肉が痙攣する。
魔力も、集中力も、限界に近かった。
俺たちだけだったらとっくに飲まれていた。
だけど、ユーサー達がいてもまだ押し負けてる……!
『魔力じゃなくて、思いを込めてみろ』『威力じゃなく、意味を乗せるんだ。技に、心を刻め』
ケンさんの言葉が、ふと脳裏をよぎった。
『火の玉ストレートって言ってさ。もちろん実際に火が出る訳じゃないんだよ。漢気あふれる超がつくほど素直で真っ直ぐなその球になぞらえて、裏表も捻りも全く無いド直球の事さ』
特訓の時に言っていたソーマの言葉を思い出した。
……ああ、そうだ。
「俺にできるのは──これだけだ!」
咆哮と共に、魔力を右手に集束させる。
肉が裂けそうな灼熱、骨まで焼けるほどの圧。
だが、構わねえ。
「──いっけぇえええッ!!【火の玉ストレート】ッ!!」
叫びと共に放たれた灼熱の魔球が、一直線に飛翔し──
女王の腹部へ直撃。
轟音と共に巣が揺れ、大量の虫たちが黒煙とともに吹き飛んだ。
女王の巨大な脚の一本が、爆発に巻き込まれ──砕け散った!
《スキル:炎の魔球 が解放されました》
「──これが、俺の魂だッ!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ナイスだ、ジョッシュ!!」
ソーマが叫ぶ。
流れが変わった──確かに。
だが……
「すまん、クリス! 魔力、かなり持っていかれた……」
「了解です! マジックポーションを使って、早く回復を!」
魔力回復に下がったジョッシュに飛来する酸の弾をクリスが魔法障壁で弾く。
エーデルが天井の巣を氷で封じ、崩落させる。
だが──その時だった。
女王の腹が、不気味に脈動する。
「また呼びやがったか!? アイム!」
「……チッ、もう一回だ。【エリアサーチ】! 」
再び放たれる探索魔法。
その結果は──
「巣の下層から、未知の反応多数……新種が接近中!」
直後、女王が金属を擦り合わせるような甲高い鳴き声を発した。
それに応えるように、巣の奥から現れたのは──全身を黒い甲殻で覆い、二足歩行する異形の兵士たち。
巨大な腕。
鋭利な爪。
空気を裂く咆哮。
「新種だと……!? こっちはもうギリギリだぞ……!」
そして──
「っ……!」
ソーマの心に、強烈な既視感と共に警報が走った。
脳内を駆け巡る警告――
《アストレイ、栄光の架け橋の死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》
脳裏に一瞬で焼き付いた。
全員の死が、現実味を帯びて迫ってきていた――
この後も繋げると文字数が多いかなと感じたのでここで切ります。
その分次の話の文字数が少なくなりそうなので必死子いて付け足します。
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