4:フラグが立つ再会
ギルドマスターに聞いてくると言って走っていったメルマ。
ぽつんと残されたソーマは、椅子に腰掛けながら今夜の寝床について考えた。
……『また笑って迎えてください』なんてカッコつけた手前、数時間で猪熊亭に戻るのはさすがにダサい。
新しい宿を探すにも、この後の話し合いがどれくらいかかるか分からない。
終わる頃には空きがないかもしれないし、受付が閉まってる可能性もある。
頭を抱えた末、ソーマは奥の手に頼ることにした。
懐から取り出したのは、姉からもらった携帯型魔道通信機。
商業ギルドで働く三つ上の姉、リンへメッセージを送る。
『姉さん久しぶり。急で悪いんだけど、今夜泊めてもらえないかな? 用事が済んでから向かうから遅くなるかも。無理なら気にしないで』
送信。
(……返事は、話し合いが終わる頃に来てればいいけど)
『ピロン』
(早っ!?)
慌てて確認すると、画面いっぱいに姉の長文が表示された。
『ソーちゃん久しぶり! 元気にしてた? 最近連絡くれないから、すごく心配してたの! でも頼ってくれて嬉しい! お泊まり大歓迎! 一泊と言わず、ずっといてもいいよ? ベッドは一つしかないけど一緒で大丈夫♡ ご飯も作って待ってるから安心して! 愛してるよソーちゃん♡♡♡』
(……うわぁ……)
ソーマの姉リンは重度のブラコンで、年を追うごとに加速していった。
正直、ソーマはちょっと苦手にしていた。
これが他人だったらいろんな意味で終わっていたので、家族で良かったと心から思っていた。
そんな時だった。
「……久しぶりだな、ソーマ。Cランクに上がったって聞いたぞ」
「……お久しぶりです、ソーマさん」
ソーマに声をかけてきたのは、同級生でギフト研究会の仲間、ジョシュア・アーディンと妹のクリスティーナだった。
学園を卒業してからは別の冒険者とパーティーを組んだと聞いていた。
「ジョッシュ、クリス! 本当に久しぶりだな。今はどうしてるんだ?」
問いかけると、二人はどこか言いにくそうに顔を見合わせた。
ちょうどそのとき、メルマが戻ってくる。
「ソーマさん、お待たせしました。ギルドマスターがお話があるそうです。……あ、ジョシュさん、クリスさん。ちょうどよかった。お二人にも関係のある話ですので、一緒にお願いします」
ソーマたちは顔を見合わせ、ギルドマスターの部屋へと向かった。
メルマに案内され、冒険者ギルドの奥、重厚な扉の前に立ちノックする
「ギルドマスター。ソーマさんと偶然居合わせたジョッシュさん、クリスさんもお連れしました」
「ふむ、ちょうどいい。入ってこい」
扉を押し開けると、整然とした部屋の奥に、一人の女性がどっしりと椅子に腰掛けていた。
銀髪を後ろで束ね、鋭い眼差しを向けるその人こそ――ギルドマスター、カルヴィラ。
かつては戦場を駆け抜け、疾風のように弓を放ち敵を屠った狩人。
今は一線を退いているものの、必要とあれば弓を取ることも躊躇わないという迫力をまとっている。
「こんな時間に悪いな。まあ座れ、肩の力を抜け」
「……はい。お時間をいただき、ありがとうございます」
ソーマたちはソファに腰を下ろした。
カルヴィラは姿勢を崩さず、静かにソーマたちを見据えてくる。
「まずはソーマ君の件から話そう。……こちらの見通しが甘かった。まさかユーサーが、あっさりと結論を出すとはな」
「いえ。俺の個人的な事情です。ギルドマスターにまでご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」
予想外の展開にソーマは困惑する。
どうやらギルドとしてはパーティーの問題を調整する場を設けるつもりだったらしい。
だが、ソーマとユーサーが揃って即決したため、ギルド側の思惑は外れてしまった。
「それでだ、ソーマ君」
カルヴィラは声を落とし、核心を突いてくる。
「これから――どうするつもりだ?」
マールの時みたいに、冗談で誤魔化せる雰囲気ではなかった。
ここで嘘を吐くのは、むしろ失礼になると判断した。
「……正直、冒険者を続けたい気持ちはあります。でも、ギフトの詳細が不明なままなら限界は見えてます。今のままじゃ成長も頭打ちでしょうし、俺を仲間に欲しいと思うパーティーも、そうそう現れないでしょう」
言葉を区切り、深く息をつく。
「ソロで生活していくことはできると思います。けど、それで大成するのは難しい。だから、いっそ見切りをつけてもいいのかなと……実は俺、デザイナーとして商業ギルドにも登録してます。姉が商業ギルドに勤めていて、ツテを借りれば仕事も広がります。いっそ冒険とは縁を切り、地道に実績を積んでいくのもありかなと」
カルヴィラの瞳がじっとソーマの目を射抜く。
それに耐えるように、さらに続ける。
「最終的には実家の道場を継ぐ道も考えています。両親は『継がなくてもいい』って言ってますけど……俺が戻れば、きっと喜んでくれるでしょう」
今のソーマにできる選択肢を、正直に並べた。
フラグが突然役立つ形で発動する――そんな淡い期待にすがるつもりはない。
現実を見据え、歩める道を探すだけだ。
後は、ソーマの本音をギルドがどう受け止めるか。
静まり返った室内で、カルヴィラの返答を待った。
「――やはり、ソーマ君が冒険者をやめるのは惜しいな」
カルヴィラが静かに言葉を落とした。
「ソーマ君のことは、私もずっと気にかけていた。年々早まっていく魔王復活の兆し。そして最近、各地で報告されている魔物の異常行動……その全てを考えると、復活の時は近いのかもしれない」
彼女の声は淡々としていたが、その奥に潜む緊張が伝わってくる。
「君は【フラグ】という、いまだ詳細不明のギフト保持者だ。もしその本質を掴み、使いこなせるようになれば――魔王に対抗する切り札の一つとなり得ると、私は本気で考えている。スキルを使わずとも、【栄光の架け橋】でCランクに食らいついていた実力。それ自体が、君の価値を証明している」
ソーマの胸の奥が揺れる。
まさかカルヴィラが、ソーマの事をそこまで評価しているとは思わなかったからだ。
「そこでだ。メルマとも相談したが……一つ、提案がある」
カルヴィラは視線をソーマから外し、ジョッシュとクリスへと向けた。
「アーディン兄妹。君たちは半年前にパーティーを解散し、二人きりで活動を続けてきた。しかしそろそろ限界を感じていると、メルマに相談したと聞いている。間違いないか?」
ジョッシュとクリスが、小さく頷いた。
ソーマは思わず息を呑む。
二人がそんな状況にあるとは思いもしなかったからだ。
だが、これで話が見えてきた。
カルヴィラがソーマたちをここに揃えた理由が。
「……つまり、俺たち三人で新しいパーティーを組む。そういうことですか?」
「察しがいいな。まさにその通りだ」
カルヴィラの口元が、わずかにほころぶ。
「君たちは同級生で、互いの人となりをよく知っている。ギフトの扱いに悩んでいる点も共通している。だがそれは裏を返せば、同じ苦しみを分かち合える仲間ということだ。――私は、三人でパーティーを組み、冒険者を続けてほしいと願っている」
心のどこかで、その言葉を待っていた。
だが同時に、重みも痛いほど伝わってくる。
たしかに、クリスのギフトは評価が高い。
けれどソーマとジョッシュのギフトは、どちらも詳細不明。
学園時代にギフト研究会へ入ったのも、互いにギフトの謎を解き明かしたいという共通の目的があったからだ。
クリスも兄に倣って一緒に活動していた。
自然と三人で行動することが多かった。
だから、この三人で組むこと自体に違和感はなく、むしろ嬉しい。
だが……
「……俺としては、この三人で組むこと自体に異論はありません。ですが――問題は、その後です」
言葉を探りながら、正直な思いを吐き出す。
「クリスはともかく、俺とジョッシュのギフトはまだ形になっていない。そんな俺たちが、クリスの使命を背負えるかと考えると……自信がないんです。軽々しく組もうなんて、言えません」
そう――問題はそこだ。
クリスのギフトはシオニーと同じ【聖女の卵】。
世界の命運を背負う可能性を秘めたギフト。
その彼女と同じ志を掲げていたユーサーたちにすら、ソーマは選ばれなかった。
そんなソーマが、クリスの支えになれるなんて――思えない。
胸に芽生えかけた希望が、静かにしぼんでいくのをソーマは感じた。
書いてる途中でこうすれば面白くなるんじゃねとついつい思いついてしまった設定を加えた結果、人物設定からやり直すことになったり辻褄合わせる為に今後問題が無いようにその問題に触れなきゃと思ったり、年齢にズレが発生するんじゃねと年表作って確認作業しています。
他の作者さん達は設定全部考えてから物語作ってるんですかね?
とりあえず今後矛盾が出ないようにしっかり管理しないといけないと思いつつどうせ思い付きで設定追加し勝手に苦労するんだろうなと思ってます。
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