4:いい人ほど亡くなるフラグもあるみたいですね
(……俺は何を勘違いしてたんだ。脱退させられるってことは、つまり……良く思われてるわけがないじゃないか。それにしても……あそこまで言うことないだろ……)
俺はただ、旗をどうするかを聞きに行っただけだった。
それなのに……なぜ、あんなタイミングでドアの前で立ち止まり、耳を澄ませてしまったんだろう。
パーティーを抜けるのは決まってるんだ。
俺にはもう関係ない旗なんか、どうなったって構わないはずなのに。
期待なんてしてなかった。
……けど、まさかユーサーが、あそこまで陰で俺のことを言ってるなんて思ってなかった。
最後まで聞く勇気も、呑気に『旗どうする?』なんて聞きに入る度胸も、俺にはなかった。
もう……旗のことなんて、どうでもいい。
荷物は元からいつでも出ていけるようにまとめてある。
さっさとこの宿を出て、冒険者ギルドで脱退の手続きを済ませよう。
今の俺の顔を誰にも見られたくなかった。
どうせ……ひどい顔をしてる。
でも、そういう時に限って、人に出くわしてしまうのはなんでなんだろうな。
「……あら、ソーマちゃん。話し合いは終わったのかい?そろそろお祝いの料理ができたから呼ぼうかと思ってたんだけどね」
出くわしたのは、宿屋【猪熊亭】のおかみさん――マールさんだった。
熊のような大きな体に、どっしり構えた肝っ玉母ちゃん。
娘さんも学園に通いながらギフト【料理】で時々この宿で手伝っているのを見かける。
「……!?ソーマちゃん、そんな顔して……どうしたんだい? 何かあったのかい?」
――やっぱり、顔に出ていたか。
誰にも会いたくないと思ってた。
でも、今までお世話になったおかみさんに、何も言わずに出ていこうとしていた俺……
なんて薄情なやつなんだろう。
せめて、事情だけは伝えておかないと。
「おかみさん……今まで本当にお世話になりました。俺、ユーサーたちのパーティーを抜けることにしました」
「え……?突然どうしたんだい。今日これから、結成一周年のお祝いをするって言ってたじゃないか」
「……おかみさんも知ってるでしょ?俺、スキルが使えないから。1年間なんとかやってきたつもりだけど……今の俺じゃ、ユーサーたちの足を引っ張るだけです。だから……自分から抜けることにしたんです」
――あくまで、自分から脱退したことにした。
今後もこの宿を使うだろう彼らのことを悪く言いたくなかった。
せめて、最後くらいは綺麗に終わらせたかった。
「……これからどうするんだい?」
「他のパーティーを探してみます。ユーサーたちのところでやってきた実績もあるし……まぁ、なんとかなりますよ。いっそ冒険者じゃなくて、デザイナーとしてやっていくのもアリかもっすね。おかみさん、猪熊亭の看板デザイン、俺に任せてくれたじゃないですか。あれ、自信あるんですよ。見かけによらず貯金もちゃんとあって、しばらくは何もしなくても食っていけますし。……ま、王都でユーサーたちに出くわすと気まずいから、別の街に行くか……いっそ他の大陸ってのも……最悪、実家の道場を手伝えば食いっぱぐれませんし。俺の人生、これからですから。なんとかなりますって」
自虐を混ぜて、無理に明るく振る舞った。
そうでもしないと、泣いてしまいそうだった。
「じゃあ、今まで本当にお世話になりました。あ、俺の部屋はちゃんと掃除してありますよ。立つ鳥跡を濁さず、って言うじゃな――」
「この猪熊亭はね!」
おかみさんが、俺の言葉をピシャリと遮った。
「もともと冒険者だった私たち夫婦が、先代に世話になってた宿屋でね。でもその先代夫婦は、魔王復活の時のスタンピードに巻き込まれて亡くなってしまってね……私たちも怪我で冒険を続けられなくなって、先の見えない時に、先代の勇者パーティーの方々が『この宿を引き継いでくれないか』って言ってくれたのさ。それで、初心者の冒険者たちの助けになればって思って、猪熊亭を始めたんだよ」
マールさんは、まっすぐ俺を見て続ける。
「もちろん、死んで戻ってこない冒険者もたくさん見てきたよ。誰もいなくなった部屋を片づけることなんて、何度もあった。でもね、ソーマちゃんは生きてここにいるんだ。……それだけで、十分すごいことなんだよ。自信を持ちな。今まで、本当によく頑張ったね。体にだけは、気をつけるんだよ」
そう言って、おかみさんは俺を、優しく抱きしめてくれた。
(ああ……俺、ちゃんと頑張ってたんだ……見ててくれる人も、ちゃんといたんだ…… ……もうちょっとだけ、あがいてみてもいいのかもな……)
俺は、しばらくの間、その大きな胸を借りて泣いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「まったく……ソーマちゃんみたいないい子を追い出すなんて、あいつらバカだよ。人の価値は、ギフトだけじゃないっていうのにね。困ったことがあったら、いつでも来な。私は、あんたたちの母ちゃんなんだから」
「……その時は、またお世話になります。あ、明日もし“何事もなかったかのように”泊まらせてくださいって来たら、笑って迎えてください。――1年間、本当にありがとうございました」
少しだけ心が軽くなった俺は、おかみさんに頭を下げ、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに行くところまで書くつもりが書いてる途中に思いついた事を追加していったらちょうどいい感じの長さになったので冒険者ギルドへは次回行きます。
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