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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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39:壊すべき死亡フラグ

「——別行動を提案する」


 その一言で、部屋の空気が一変した。

 湯けむりに満ちていた和やかな空気が、まるで冷水をぶちまけられたかのように引き締まる。

 先ほどまでの戦勝の興奮も、くつろぎも、全てが一瞬でかき消された。


「……別行動って、つまり、俺たちとは行動しないってことか?」


 ジョシュアが眉を寄せ、低く問い返す。

 ユーサーはまるで当然のことのように頷いた。


「君たちの力を否定するつもりはない。ただ——戦術的に非効率だ。僕たちのテンポと、君たちのやり方は噛み合わない。無理に合わせる必要はないだろう」


 その声は冷静だった。

 だが、そこには理屈だけでは説明できない何かが滲んでいた。


 ——見下されている。

 強者として、敗者を切り捨てる者の、あの乾いた視線。


 ソーマは言葉を失った。

 胸の奥がざわつく。

 忘れたはずの痛みが、脈打つように蘇る。


『清々したわ』『非効率』『足手まといでしかない』『期待外れだ』


 言われた。

 確かに言われた。

 あの時も、同じだった。


 笑っていたはずの仲間たちが、掌を返したように背を向けて去っていった。

 声もかけずに。


 あの時の、あの温度——

 これは、追放の時と、まったく同じだ。


 けれど。

 今、目の前で、死地へ向かおうとしている彼らを見過ごすのは——それは、違う。


《破壊対象:【栄光の架け橋】の死亡フラグ》

《構造解析開始……因果ポイントを特定……》

《提示:【栄光の架け橋】を説得してください》


「……その判断、早すぎないか?」


 声が震えていた。

 けれど、それでもソーマは言わずにいられなかった。

 ユーサーは目を細める。

 まるで些細な雑音を聞き流すように。


「判断が遅い方が、戦場では致命的だ」

「でも……」


 言いかけて、ソーマは拳を強く握った。


 口にしていいのか。

 知られれば、()()になるかもしれない。けれど。


「——その判断、間違っている」

「は? なに言ってんの?」


 シオニーが眉をひそめ、あからさまに不快そうな声を出す。


「……フラグが俺に教えてくれているんだ」

「アンタまだそのフラグとかって言うのにこだわってるの? 私たちは、遊びじゃなくて任務をしてるのよ?」


 重苦しい沈黙。

 それを最初に破ったのはユーサーだった。


「……そんなフラグとかいう訳の分からないもので、僕たちの行動を制限しないでほしい」

「違う。……フラグは存在する! そして——」


 自分でも驚くほど、声に熱がこもっていた。

 喉が焼けるようだった。


「このまま俺たちが別れて行動すれば、誰かが死ぬんだ!」


 言葉を継ぐたびに、過去が胸に蘇る。


 見送った背中。

 止められなかった叫び。

 あの時、何もできなかった後悔。


 ——あれを、もう二度と繰り返したくない。


「俺は……()()()()んだ。目の前の、死を。絶望を。未来を」


《了解――死亡フラグへの干渉を開始します》

《構造解析開始……因果ポイントを特定……》


 その時――


 ギシ、と椅子が軋む音がした。

 静寂を裂くように、ケンが立ち上がった。


「……その辺にしておけ」


 低く、だが怒気を孕んだ声。

 部屋の空気が再び変わる。


「どんなに強かろうが、勝手に行くのは構わねぇ。けどな——」


 ケンは一歩、ユーサーに近づいた。

 威圧するでもなく、けれど確かな迫力を携えて。


「死ぬかどうかなんて、数字じゃ測れねぇだろ。戦術書に、お前の死ぬ未来が書いてあるのか?」


 ユーサーの表情が、わずかに揺れる。


「……読めるなら、誰も死なねぇ。お前に読めるのか? その未来ってやつが」


 その問いに、ユーサーは答えなかった。


「なら、一緒に動け。それが条件だ。……嫌なら、今すぐ王都に帰ってもらっても構わねぇ」


 沈黙――

 水が滴る音だけが響いた。

 やがて、ユーサーは静かに目を閉じた。


「……わかった。一緒に行動しよう。ただし——命令系統は、別にさせてくれ」


《【栄光の架橋】の死亡フラグが破壊されました》


 ソーマは小さく息を吐いた。

 ほんのわずかだが、未来は、変えられた。

 ユーサーたちが出ていった後、残ったのは、静けさと——どこか切なさを含んだ空気だった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 夜――

 静寂に包まれた縁側に、ソーマは一人腰をかけていた。


 星が滲む夜空を仰ぎながら、考えるのはさっきのやりとり。


「……迷ったけど、言ってよかったのか……?」


 つぶやいた声が風に溶けた、その時。


「ソーマ」


 後ろから、ランの声がした。

 振り返ると、ケンとランが肩を並べて立っていた。

 二人は黙ってソーマの隣に腰を下ろす。

 ソーマはゆっくりと口を開いた。


「……俺、追放されたんだ。ユーサーたちのパーティーから。理由は——スキルが分からなかったから」


 ランが息をのむ音がした。


「そんな……」

「何度試しても、意味が分からなくて。訓練も、実戦も、繰り返して……それでも、駄目だった」


 声が震えていた。


「結果、見捨てられた。足手まといだってさ。あの時と同じ、何も変わらなかった」


 ケンは深く頷く。


「だから、あいつらと気まずかったのか。……そういうことか」


 しばしの沈黙ののち、ケンが言った。


「ソーマ、ちょっと聞きてぇことがある」

「ん?」

「さっき、俺があの坊主に言い返したとき……不思議な感覚があった。言葉が自然と出てきた感じだ。俺は黙っているつもりだった。でも、俺の意志じゃなかった……気がする。変な()を感じた」

「力?」

「お前が、何かしたんじゃねぇか?」


 ソーマは目を見開き、そして、観念したようにうなずいた。


「……俺のスキル、ようやく発動したんだ。まだ完全じゃないけど……死に関わる運命を、壊す力らしい」


 ケンは目を細め、黙って聞いていた。


「俺のスキルがきっかけになって父さんに干渉したんだと思う……」

「……なるほどな」


 ソーマは苦笑を漏らす。


「運命を変える……ってことは、裏を返せば、()()()()()を壊しているってことでもある。俺のせいで、何かがズレていくかもしれない」

「それでも、止めたかったんだな?」

「……ああ。俺は、もう見たくない。誰かの背中を。失っていくのを」


 その言葉に、ランがそっとソーマの手を握る。


「それでいいのよ。あなたが、あなたの信じる未来を選ぶなら。例えそれが運命に逆らう道でも、私は——私達は誇りに思うわ」


 ソーマは、少しだけ微笑んだ。


 そして、再び空を見上げる。

 星は、変わらず瞬いていた。


(——俺は、壊したい。この死を。未来を絶たれるその瞬間を。例え運命に背いてでも。それが、誰かの未来を守ることになるなら——)


 夜風が静かに流れ、小さな誓いを夜空へ運んでいった。

 まだ楽には逝かせません。


※作者からのお願い


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