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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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38:フラグの余韻、湯けむりに消えて

 戦いの終わりを告げる風が、しんと静まり返った村を静かに吹き抜けていた。

 地を揺らす羽音も、鋭く空気を裂く甲殻の跳ねも、今はもうない。

 虫たちの襲撃を退けたソーマたちは、全身の疲労と汗を洗い流すため、道場の風呂へと向かっていた。

 木造の広々とした湯殿は、教え子たちが一斉に入っても狭く感じないほどの大きさ。

 天井の梁には湯気がゆらゆらと漂い、灯りの反射が柔らかく湯面を照らしていた。


「ふーっ…… 極楽極楽……」


 湯に肩まで浸かり、ソーマは心の底から安堵の吐息を漏らした。


「やっぱ、こういう時の風呂は格別だねぇ。戦いの後は、なおさら沁みる……」


 隣で同じく湯に浸かるジョッシュも、目を細めて湯けむりの向こうを見上げた。

 その穏やかな空気を破るように、風呂場の戸ががらりと開く。


「おっ、思ったより広いじゃん。てっきり田舎なら温泉くらいあるかと思ってたけど」


 軽い口調で入ってきたのは、アイムだった。

 湯気の中を迷いなく歩き、躊躇なく湯に足を入れるその姿に、ジョッシュは眉をひそめる。


「……よく来たな、お前」

「何が?」


 アイムは涼しい顔で肩まで浸かり、頭の後ろで手を組んでくつろぎ始めた。


「いや、来るなとは言わないけど…… ユーサーとジェラウドは遠慮してただろ? 普通は空気読むもんじゃない?」

「アイツらが入りたくなかっただけだろ? なら関係ない。気まずいのは向こうで、俺じゃないし」


 さらりと放った一言に、ジョッシュは唸るようにため息を漏らす。


「……相変わらず、メンタルだけは鋼だなお前」


 ソーマは黙ってその様子を見つめていた。

 アイムの飄々とした態度には、どこか人を試すようなところがある。

 俺とユーサーの間に溝があることも知っているはずだ。

 それでも、まるで何もないかのように湯に浸かる神経の太さ。


(普通、来るか……? こういう時に)


 気まずさも遠慮もない、まっすぐな態度。

 呆れすら感じるその肝の据わり方に、逆にソーマは少し感心してしまう。


「……まあ、風呂まで気を張るのも疲れるしな。今は休ませてもらうよ」


 ぽつりと漏らしたその言葉は、どこか虚をつくように穏やかで、湯気の向こうへと消えていった。

 その背に敵意も棘もなく、ただ静かに熱を受け入れているだけのような気配がある。

 ――それでも。

 ソーマの胸には、かすかにざらつくものが残っていた。


(……ユーサーたちとのこと、ちゃんと話さなきゃな)


 父さんは、彼らの素性を知らない。

 ただの冒険仲間と思っている。

 近いうちに説明しなければならない。

 ソーマは、その想いを小さく胸に押し込んだ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 風呂から上がったソーマたちは、タオルで体を拭きながら道場の居間に戻る。

 クリスたち女性陣は家の方の風呂を順番に使っていたようで、居間には一足先に彼女たちが揃っていた。

 そこに待っていたのは、ランの手料理。

 部屋の奥から立ち上る香ばしい匂い。

 テーブルの上には所狭しと並ぶ皿の数々。

 焼きたてのパン、香草の香り漂うシチュー、地元の野菜と肉をふんだんに使ったグリル料理。

 湯上がりの胃袋を刺激する芳香に、自然と腹の音が鳴る。


「さあさあ、いっぱい食べてね! うちのソーマがお世話になってるんでしょ?」


 にこやかに笑うランの声は、ユーサーたちの事情など何も知らない無垢な響きを持っていた。


「うおっ、このグリルうまっ! 肉が口の中で溶けるじゃん!」


 ジョッシュが夢中でフォークを動かしながら感動の声を上げる。


「このスープ、根菜の甘みがすごい…… ランさん、後でレシピ教えてもらっていい?」


 クリスも満足げに微笑み、口元を拭いながら言った。

 奥では、ユーサーたちも静かに箸を進めていた。

 その所作は控えめで、他人のようでもある。


「にぎやかだな…… 昔は教え子たちで賑やかだったが、今はランと二人きりだ」


 ケンがぽつりと呟き、ランが隣で小さく笑った。

 やがてソーマは、食べ終えた皿を端に寄せ、真剣な表情を浮かべる。


「この機会に、今回の件について話しておきたい。父さん、虫たちが現れるようになったのって、いつ頃からだった?」


 ケンは杯を口元で止め、わずかに目を細めた。


「……二ヶ月前だ。最初は今日みたいな普通の個体だけだったが、異変が起きたのは一ヶ月ほど前からだ」

「異変?」

「そうだ。一ヶ月前から変わった奴らが現れ始めた。見た目も動きも明らかに違うやつらが現れた。それに、数が……増え続けてる。今じゃ週に四度は来る」


 ジョッシュが顔をしかめる。


「週四……?  そりゃヤバいだろ」

「迎撃は、父さん一人で?」

「基本的にはな。ただ、何度かランも出ている」

「え、ランさんが?」


 ジョッシュが驚いた声を上げると、ケンはにやりと笑う。


「ランはな、拳だけで十分戦える。体術なら、俺は一度も勝ったことがない」

「……マジで……?」

「道場で教えてる体術の基本も、ランが組んだ型なんだよ」


 ぽかんとする仲間たちの反応をよそに、ソーマは話を戻す。


「虫たちが現れる方向に、何か共通点は?」

「ああ。来るのは決まって南東の方角──村の外れから広がるセクト樹海の奥からだ」


 ソーマは軽く目を伏せ、指先でこめかみを押さえた。


「やっぱり、そうか……。セクト樹海って、かなり広かったよな?」

「広い。入り組んだ地形だし、地図も古くてな。俺一人で調査に行っても構わんが、その間に村が襲われたら守りきれん」

「それなら──予定通り、俺たちで行く。今のままじゃ、村がもたない」


 ソーマの言葉に、ユーサーが静かに頷いた。


「もちろんだ。元々僕たちだけで向かうつもりだった。だが、今日の戦いを見る限り──君たちも加わって構わない」


 そして、ふとグラスを口に運び、目を細める。


「ただし──君たちのパーティーと共に行動するつもりはない。広い樹海だ。手分けした方が効率がいいし、面倒を見ている余裕はないからね」


 一瞬、場の空気が凍りついた。

 そしてソーマの頭の中で、スキルウィンドウが展開される。


《【栄光の架け橋】の死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》


(……やっぱ、そう来るか)


 ソーマは無言で、静かに視線を伏せた。

 少しはあんたたちを認めてやってもいいんだからね!

 でも一緒に行動するのはお断りよ!


※作者からのお願い


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