37:父の一線と立ちはだかるフラグ
夕日が赤く空を染める頃。
村の入口に立ったソーマたちの前には、信じがたい光景が広がっていた。
「……うわ、これ……キツいな……」
ジョッシュが顔をしかめながらバットを肩に担ぐ。
その視線の先に広がるのは、黒い津波のようにうごめく巨大な虫たち――
ジャイアントアント、ジャイアントビー、ジャイアントスパイダー。
それぞれが通常の虫をはるかに超える体躯を持ち、鋭い牙や毒針を光らせていた。
「少なくとも……五十体はいるな……」
ソーマが静かに目を細め気配を探る。
「でも……あの特別な気配は感じません」
クリス声には、どこか安堵の色も混じっていた。
「その通りだ、お嬢さん」
静かな声が背後から響いた。
ソーマが振り返ると、そこには剣を背負ったケンの姿がいた。
その後ろには、村の警備隊員と、ユーサーたちの姿もあった。
「今回は普通の個体ばかりだ。だから、お前たち――ソーマたちだけで撃退してみせろ」
ケンは虫の群れへと顎をしゃくる。
土の上に剣で一線を引いた。
「ここから先に一匹たりとも通すな。……実力を見せてもらおう」
「え、俺たちだけで?」
ジョッシュが思わず声を上げる。
「できないか?」
ケンの声は静かだったが、そこには明確な試しの意図が宿っていた。
ソーマは数秒だけ静かに目を閉じ、ゆっくりと剣に手をかける。
そして目を開け、二人を見回した。
「……やるぞ、二人とも!」
「おう!」
「了解!」
次の瞬間――
咆哮のような羽音と甲殻の軋む音が響き渡る。
虫たちが一斉に地面を蹴り、こちらへと殺到してきた。
「前衛、俺とジョッシュで受ける!クリス、援護を頼む!」
ソーマが先頭のジャイアントアントへ斬り込む。
重い一撃が甲殻を裂き、黒い体液が飛び散った。
「フルスイングォォッ!!」
ジョッシュのバットが銀色の軌跡を描き、アリの頭部を粉砕する。
跳ね飛ばされた虫が後方の仲間にぶつかり、一瞬だけ敵の陣形が崩れる。
「このまま数を減らしましょう! ライトボール!」
クリスが魔力を高め、複数の光球を空中に展開され虫の群れに襲いかかる。
「甲殻が……焼けてる! よし、いい感じだ!」
ソーマが一体の蜂を斬り伏せながら叫ぶ。
「兄さん、少し引いて! 回復するから……その間援護お願いしますソーマさん! 【ブースト】加速補助」
クリスが詠唱を終えると、柔らかな光がジョッシュを包んだ。
「助かった、まだやれるぜ……!」
バットをぐっと握り直し、再び前線へ飛び込む。
「でも……全然減らない!」
クリスが汗を拭いながら叫ぶ。
「だったら……俺が道を開く!」
ジョッシュが息を吸い込み、足元の地をぐっと踏みしめる。
「魔球ストレート!――持ってけッ、フルパワーッ!!」
魔力を纏った白球が唸りを上げて飛び、まるで風圧の槍のように虫たちを薙ぎ払った。
数体の巨体が空を舞い、木々に叩きつけられて崩れ落ちる。
「魔力は!?」
「まだ平気だ! ポーションで補給済み!」
「よし、押せるぞ!!」
虫たちの動きが徐々に鈍り、数が確実に減っていく。
息を合わせた攻防により、ソーマたちの優位が見えてきた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【ユーサー・インサラム視点】
(……どういうことだ……あのソーマが……)
信じられなかった。
自分が無能と断じ、スキルもないと追放した男が、今や戦場の中心に立ち、仲間を指揮している。
あのクリスティーナが、自分の足で立ち、魔法を放ち、回復をこなしている。
あのジョシュアが、ギフトを戦術に昇華させて戦っている……?
「面白ぇ戦い方だな、あの坊主」
隣に立つケンが腕を組んだまま呟く。
「ただ力任せに振ってるわけじゃねえ……ちゃんと連携とってるし、隙を作らねぇように立ち回ってる。それにあの嬢ちゃんは……」
「あのクリスが戦えてる? ただ後ろで怯えていたあのクリスが?」
「前々からスキルを使わなくてもついてきていたがここまでやれたのか」
「あのジョシュアがスキルを使ってるだと? お遊びじゃなかったのか」
「私達といた時から半年も経っていないのに何があったんでしょうか……」
僕以外のメンバーも久々に見るソーマ達の戦いに驚いている。
戦況は徐々にソーマたちに傾いていた。
虫たちの動きは鈍り、次々と倒れていく。
しかしそのうちの数匹がケンが引いた線を越えてこちらに向かってきた。
「! ここは僕に任せ……」
「戦場全体を見る力はまだまだだが……まぁ及第点だな……」
その瞬間、何が起きたのか分からなかった。
こちらに向かっていた虫は一閃のうちに両断され、地に崩れ落ちる。
(……!? 見えなかった……)
あの時の既視感が脳裏をよぎる。
初めてこの村を訪れた時、虫の大群が村に迫っていたはずが――
目の前に現れたこの男が、すべてを一人で蹴散らしていた。
『なんだ坊主たち? お前らが虫の調査に来た冒険者か? まぁ俺はこの村を離れられんから任せるわ』
そういって村に入っていくこの男を見た時の威圧感は今でも忘れられない。
(この男がソーマの父だと? こんな化け物に育てられたソーマの力を僕は見誤っていたというのか? 僕達の依頼を断ったあの鍛冶屋はこの実力を見抜いていたというのか?)
否――そんな事は、認められない。
認めるわけにはいかないのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「最後の一匹!」
ソーマが駆け出し、光のような一撃でアントを一刀両断する。
一瞬の静寂。
「……終わったか」
ジョッシュが息を吐きながらバットを肩に乗せる。
「……本当に、強くなったな」
ケンが一歩前に出て、重々しく言った。
「だが……数体、こっちに流れてきたな。もっと広く戦場を見ろ。それが今後の課題だ」
「……はい、父さん」
ソーマが剣を鞘に収め、正面からケンを見据える。
「里帰りだけじゃない。虫たちの異常発生の原因を……突き止めに来たんだ」
風が吹き抜け、戦場の静寂にざわめきを呼んだ。
どこか、遠くで。
次の戦いの足音が、確かに聞こえた気がした――
ユーサー達に軽めのジャブ程度のざまぁ要素。
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