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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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36/112

36:実家回の安心はフラグでした

 ソーマたちが実家の道場の門をくぐったのは、午後の陽がゆるやかに傾き始めた頃だった。


 木造の門に揺れる白地の暖簾。

 畳と木材の匂いが混じった懐かしい空気。

 打ち込みの音が風に乗って微かに聞こえてくる。

 ソーマは足を止め、深く小さく息を吐いた。


「……帰ってきたな」


 懐かしさと緊張がないまぜになった表情。

 二人はそんなソーマを見守るように立っていた。


 玄関を開けると、台所から包丁の音がピタリと止まる。

 次の瞬間、エプロン姿の女性がこちらを覗き込んだ。


「……ソーマ!」

「母さん。元気そうだな」


 ソーマの母ランは両手に持っていたまな板と包丁を慌てて置き、笑顔で駆け寄ってくる。

 変わらぬ優しさと温もりがそこにはあった。


「元気そうなのはあんたの方じゃない。随分とたくましくなったわね……!」


 ランの視線がソーマの後ろに移る。


「そっちは? ……ま、可愛いお嬢さんもいるじゃない。ようこそいらっしゃい。こんな田舎の道場だけど、ゆっくりしていってちょうだい」


 仲間たちが一斉に頭を下げる。


「私はソーマさんとパーティーを組んでるクリスと言います」

「俺は兄のジョッシュです。お世話になります」

「今、お父さんは道場で教え子たちに稽古をつけてるの。行ってごらん。きっと喜ぶわ」

「なるほど、そっちか。様子見てくる」


 ソーマは頷き、廊下を静かに歩いて道場の方へ向かった。

 扉の隙間から覗いた光景に、ソーマは無意識に息を止める。


 掛け声、踏み込みの音、木剣が空気を裂く音。

 汗と気合のぶつかる、緊張感に満ちた空間。

 ――まさに、修行の場だった。


 その中央に、ソーマの父ケンの姿があった。


 白髪だが広い背中と、研ぎ澄まされた殺気をまとった気配。

 年齢を感じさせぬ鋭さがそこにあった。

 ソーマはゆっくりと道場の扉を開け、一歩を踏み出した。


「……帰ったぞ、父さん」


 ケンの教え子たちが一斉に振り返る。

 その視線の先、ケンは微かに口元を緩めた。


「ソーマか」

「久しぶりだな。依頼でこっちに寄ることになってさ……ちょっと父さんに聞きたいことがあって」

「話は後だ。まず、お前の腕が鈍っていないか確かめる。そこにいる十人、まとめて相手してみろ」


 言葉の刃は鋭く、容赦がない。

 ソーマはふっと笑みを浮かべる。


「十人か。ずいぶん盛大な歓迎だな。……まあ、準備運動にはちょうどいいか」


 空気が一変する。

 教え子たちが次々と構えを取り、間合いを詰めてくる。

 ソーマは構えも取らず、ただ腰に手を当てて立っていた。


「さあ、誰からでもいい。遠慮せずかかってこい。……こっちは早く終わらせて聞きたい事があるんでな」

「――舐めるなよ」


 最初に動いたのは、細身だが鋭い目をした青年だった。

 踏み込みと同時に、木剣が唸りを上げて振り下ろされる。

 だが――


 カッ!


 ソーマの体が揺れると同時に、その剣は空を斬った。


「悪くない動きだ。でもな――」


 身を沈めたソーマが、相手の懐に素早く入り込む。


「読みが浅い」


 肩口を打ち抜かれた青年が、呻き声とともに畳に倒れる。

 そこからは、一気だった。

 二人目、三人目が連携を取って襲いかかるが、ソーマは空間ごと操るように間合いを滑り抜け、逆にその動線を利用して連撃を封じていく。


「バラけて!囲んで攻めろ!」


 誰かの声が響く。しかし――


「……もう遅い」


 縦横無尽に駆け回るソーマの動きは、既に場を掌握していた。

 木剣は寸止めで喉元や脇腹を突き、必要以上に傷つけることなく、それでいて完膚なきまでに制していく。

 次々と教え子たちが倒れ、やがて最後の一人となった少年が、震える膝を押さえながらも構えを崩さない。

 ソーマは、ただ一歩、静かに踏み込む。


「来い」


 その声に、少年は歯を食いしばって突き出すように踏み込む。

 ――瞬間、ソーマの体が横に滑り、手刀が肩口に添えられた。


「……まいりました」


 少年が膝をつくと、道場がしんと静まり返った。


「ふぅ……魔物相手と違って、こっちは気を遣うな」


 ソーマが木剣を下げ、背を向けた瞬間――


 ヒュッ!


 空気が裂ける音が背後から迫る。

 瞬時に後方へ跳んだソーマの視界に、木剣を構えたケンの姿。


「っ、父さん……!」

「甘い」


 ケンの一撃が、次の瞬間には目前に迫っていた。

 ソーマは剣で受け、横に跳ねる。


「戦いは一対一とは限らん。教えたはずだろう」

「いや、このタイミングでくるのは反則だろ……!」

「油断したお前が悪い」


 二人の激突が始まる。

 木剣が交差し、畳が軋む。

 ほんの数秒にも満たない時間の中に、幾十もの攻防が折り重なる。

 激しい剣戟の末、両者が距離を取る。


「……やっぱり強いな、父さんは」

「まだ未熟だな。だが――少しは強くなったようだな」


 ケンが微かに笑みを浮かべる。


「模擬戦、終了だ」


 道場に安堵の空気が流れ、教え子たちが一斉に肩を落とす。

 ソーマは深く息を吐き、額の汗を拭った。


「……ただいま、父さん」

「ああ。帰ったならまず風呂だ。それから飯。ランも待ってる」


 家族の時間がようやく戻ってくる――そんな穏やかな空気が流れかけた、その時だった。

 村の警報が、けたたましく鳴り響く。


「……何だ?」


 外から駆け込んできたのは、村の入口でも見かけた見張りの青年。


「ケンさん、いるかい! またアリどもが来やがった!」

「またか……」


 ケンはすぐに木剣を背に背負い直し、ソーマたちへと振り返る。


「――ちょうどいい。お前らの力、今度は実戦で見せてみろ」


 父の命に、ソーマがニヤリと笑う。


「了解。準備運動は終わった。今度は本番だな」


 こうしてソーマは、再び剣を握り、村の戦場へと向かうのだった。

 ケン父さんは年を取って白髪というよりは白い髪というイメージです。


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