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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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33:溶ける敵と溶けないフラグ

 空が、唸った。


 裂けるような鋭い羽音が、頭上をかすめていく。

 黒い影が森の木々の隙間をすり抜け、太陽の光を遮って走った。


 ――上空を旋回していたのは、常軌を逸した異形。


 飛行型ジャイアントアント。

 全長一メートル超、鈍く光る黒い甲殻、毒々しいほど透明な羽根。

 それはまるで猛禽のような挙動で、上空から獲物をロックオンしていた。


「おいおいおい……アリって、飛ぶのは女王様だけじゃなかったのかよ!? なんだよこの殺意マシマシな個体はッ!」


 ジョッシュが地を蹴って走りながら、舌打ち混じりに叫んだ。

 バットを握る手にはじっとりと汗が滲んでいる。


「ジョッシュ、上ッ! 二時方向、もう一体来てる!!」


 クリスの警告が飛ぶ。


「くそっ、速ぇな……!」


 飛行型の一体が、羽をしならせ一気に急降下。

 空気が撓んだ。

 風圧が木の葉を吹き上げ、枝々がバキバキと音を立てて割れる。

 ジョッシュが即座にバットを構える。


「後ろッ! 糸、来ますッ!!」


 地を這うようなうねり。

 別方向から、糸吐き型のジャイアントアントが白銀の糸を口から放っていた。

 木々の間に罠のように張られたその糸は、ただの粘着ではない。


「ッ――!」


 ジョッシュが反射的にバットを背後へ振り抜いた。

 ガンッと金属音が響き、糸とバットが衝突。


「なんだコレ……? 捕まえるんじゃねぇ、切ってくるぞ!? 針みてぇな鋭さだ……!」

「その糸に触るなッ! 切れるぞ!」


 ソーマの声が鋭く空を裂く。

 ソーマは一気に跳躍、飛行型アリの真上に躍り出た。


「体は固そうだが……羽ならどうだッ!」


 宙で剣を逆手に持ち替え、一閃――


 ズバァッ!!!


 風を裂いて振り下ろされた斬撃が、飛行型の羽根を切断する。

 斬られた羽が闇のように舞い、バランスを崩したアリが木の幹に激突し、地面へ墜落した。


「よし、一体ダウンッ!」


 だが――次の瞬間。

 もう一体の飛行型が、ソーマの背後に静かに滑り込んでいた。


「ソーマさん、後ろ――ッ!!」


 クリスの叫びが、まるで運命を断ち切る鐘の音のように響いた。

 あまりに劇的、あまりに典型的な死亡フラグ……だが!


「――背中を見せたら狙ってくるなんて、読めてるんだよッ!!」


 ゴォンッ!!


 空気を裂く轟音。

 ジョッシュのフルスイングが飛行型アリの胴体を直撃した。

 ベチャッと潰れた甲殻から、緑がかった体液が爆ぜるように噴き出す。


「いい音したな……ナイススイング、ジョッシュ!」

「ゼルガンさんのバットの威力、ナメんなよ!」


 流れ一気にこちらに傾いた。

 クリスのライトボールを囮に本命のジョッシュの魔球が糸吐き型のアリの動きを止める。

 動きが一瞬鈍った――その隙を逃さない。


「ソーマさん、今ッ!【ブースト】加速補助!」

「任せろッ!!」


 風を裂く突進――


 ソーマの剣が一直線に閃き、アリの首元を貫く。

 刃は甲殻の隙間を狙い、滑るように突き抜けた。

 アリの頭が重力に引かれ、ぐらりと傾いで地に落ちた。


「残るは……片翼の奴、か」


 最後の飛行型は既に飛ぶ力を失い、地面で狂ったように暴れていた。


「じゃあ、とどめといくか……!」


 ジョッシュが再びバットを構える。

 助走をつけ、そして――


「おらぁぁぁッッ!!」


 ドゴォンッ!!


 バットのフルスイングがアリの腹部を完全粉砕。

 甲殻が砕け、肉が潰れ、体液が四方に飛び散る。


 ――数秒の沈黙。

 風すら止まったような静寂。


「……終わりましたか?」


 クリスが慎重に辺りを見回す。

 誰もが息を殺す。

 だが――その静けさの中、違和感が滲んだ。


「……なんか……変だ」


 アリたちの死骸が、泡立ち始める。

 じわじわと、輪郭を失い――まるで溶けるように、黒い泥へと変わっていく。


「な……」


 ソーマが剣の柄で黒い残骸をつつこうとするが、触れる前にそれは液体となり、溶け落ちてしまった。


「アリ型の魔物が、こんな風に溶けるなんて……聞いたことがない」

「新種かと思ってたけど……これ、自然発生じゃない?」


 クリスの言葉に、誰も否定できなかった。

 そして――臭気が立ち込めた。

 焦げた薬品のような匂い、燃えたゴム、腐ったハーブ。

 それでいてどこか甘ったるい様な複雑で人工的な臭気。


「うっ……なにこれ……薬品? 毒? 防腐剤……いや、違う。なんか、()()()()感じ……」

「……自己溶解。()()()()()()()……まるで痕跡を残させないように……」


 地面に、アリの姿はもうなかった。

 残ったのは、黒い染みと、嫌悪を誘う臭い、そして不気味な静寂だけ。


「……虫型魔物の異常発生……ただの自然現象じゃないな。何かが……動いてる」


 ソーマの声に、誰も返せない。


 空気が重たい。

 風が吹いているのに、息が詰まりそうだ。

 森全体が、何かを隠しているように沈黙していた。


「……セクト樹海にいけば、何かわかるのかもしれない……」


 ソーマの剣は、まだ下ろされていなかった。

 彼らは、確かに()()を感じ取っていた。


 ――そしてそれは、まだ姿を現していないだけだった。

 虫を人間サイズにしたら最強はカマキリ説嫌いじゃないです。


※作者からのお願い


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