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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第三章:虫の知らせ? いいえ、抗うべきフラグです

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31:馬車の旅とフラグの検証

 朝靄の残る街道を、一台の馬車がゆっくりと進んでいた。

 まだ夜の名残を抱いた空には淡い紫色が溶け込み、日の出前の冷たい空気が馬車の帆布をくぐって内部へと忍び込む。


 馬の蹄が小石を踏むたび、カツ、カツ……と控えめな音が静寂を裂き、馬の吐く白い息が、朝の冷気に溶けるように空中でふわりと漂う。

 馬車の中には、まだ微睡みの余韻が残っていた。


 御者台には明るい表情の青年アラダが座り、しっかりと手綱を握っていた。

 ビルト町出身の彼は、王都への交易を生業とする若き商人だ。

 荷台では妻のゼオルが慣れた手つきで荷物の固定を確認している。

 彼女はファルケ町の出身で、商人として各地を回るアラダと恋に落ち、やがて夫婦となった。

 今では共に王都とファルケ町を結ぶ街道を往復する、小さな商隊のような存在である。


 そんな彼らの馬車の荷車の中には、武器と防具を携えた三人の若者——ソーマ、ジョッシュ、クリスが乗っていた。


「いやあ、なんかそれっぽくない? こういう馬車の旅ってさ」


 ジョッシュが荷台の揺れに身を任せながら、どこか楽しげに呟いた。


「護衛依頼って、いかにも冒険者って感じですよね。アラダさんたちもすごく優しいし、いいスタートになりそうです」


 クリスは軽く伸びをしながら笑顔を浮かべる。

 まだ肌寒い朝の空気が、クリスの頬を紅く染めていた。


「まぁ、ファルケ町までは特に何事もないとは思うけど油断せずに行こう」


 ソーマは腰の剣に視線を落とし、冷静に言った。

 その目には、確かな自信と、それに伴う慎重さが宿っている。


 出発の二日前。

 ソーマたちは新たな装備を受け取って以降、それぞれの能力の検証を試していた。

 魔力の調整、スキルの使い方、連携の確認……全てはこの実地での任務のためだった。

 そして今、その成果について、馬車の中で自然と話題が広がっていた。


「そういえばさ、ソーマ。あれから【フラグ】のこと、何か掴めた?」


 ジョッシュがふと話題を変えた。

 ソーマは少し黙ってから、静かに答えた。


「うん。少しずつだけど、理解できてきた部分がある」

「やっぱ、気になるんだよなぁ。そのフラグ破壊ってやつすごい便利だし」


 ジョッシュの瞳が興味で輝く。


「今のところ、俺が()()()のは死亡フラグだけだ。つまり、俺のギフトが干渉できるのは()に関わる因果だけらしい」


 前世でフラグと言えば死亡フラグ以外にも有名どころで言えば生存、恋愛、勝利、負け等色々あった。


「……なんか、それだけで十分すぎる気もします」


 クリスが目を丸くしながらも、どこか切なげに呟く。


「たしかに強い能力だけど、万能ってわけじゃない。まず、フラグが視えるのは()()()()()()だけ。見えていない人のフラグは感知できない。たとえば、この前の王都の亡くなったパーティーの話……出発の日に彼らを見かけたが彼らの死亡フラグは、俺にはまったく見えなかった」

「つまり、ソーマの目に入ってないとダメってことか」


 ジョッシュが頷く。


「基本的には、ギフトが提示する条件を満たせば破壊できる。でも、条件が難しいとか、間に合わないとか、そういうときには……俺の魔力を使うことで、ある程度()()()破壊する事が出来るんだと思う」


 ソーマはそう言って、手のひらをじっと見つめた。

 ()()という名の絶対を、打ち砕く力。

 だがそれは代償を伴う力でもある。

 魔力の消費、精神的負荷、そして——結果を変えてしまうことの責任。


「じゃあ、ソーマさんの魔力、ほんとに大事ですね。なるべく温存しておかないと……」


 クリスが真剣な眼差しで言う。


「そのへんのバランスは、俺なりに見極めていくつもりだよ。ありがとう、クリス」


 ソーマは微笑みながら答えた。


「そういえばこの前教えた新しい変化球、どんな感じだ?」


 ゼルガンのバットを手に訓練所でスイングの練習をしたりした流れでジョッシュに新しい変化球を伝授していたのだ。


「うん。でも、あれさ……理屈は分かるんだが、身体がついてこないっていうか、脳が追いついてねぇんだよな」

「新しい変化球が増えるのもいいと思うが、まぁ今は使える変化球の精度を極める方がいいと思うよ」


 ジョッシュは苦笑しながら、右手を軽くかざした。

 ふわり、と空中に浮かぶ小さな光球。

 ジョッシュの魔球の核——魔力の操作は確実に上達している。


「でもな、球のサイズを一定にするよう意識することで、魔力の密度が上がって威力もグンと上がるんだ」

「そのぶん消費も増えるけどね。うまくバランス取らないと、すぐガス欠になっちゃう」


 クリスがクスクス笑いながら言った。


「そうそう。クリスの【ライトボール】も、サポートとしてはかなり優秀だな。照明、目くらまし、牽制……使い方次第で化けるスキルだ」


 ソーマが続ける。


「えへへ、ありがとございます。私も、目くらましからの連携、試してみたかったんです。ジョッシュの魔球と組み合わせたら、面白いかもしれませんね」

「よし、じゃあ次の戦闘では、合図出すから頼むぜ!」


 ジョッシュが親指を立てて笑う。

 和やかな空気が、馬車の中をゆったりと流れる。

 訓練の成果、スキルの進化、そして仲間との連携。

 それらすべてが、ソーマたちの成長を支えていた。


 すると、前方を見ていたアラダが声をかけてきた。


「そろそろ最初の休憩ポイントだ。今日は野営、明日の昼にはビルト町に着く予定だよ」

「了解です!」


 三人は声を揃えた。

 旅の始まりを告げる空が、少しずつ明るさを増していく。


 目指すファルケ町は、まだ先。

 けれど、揺れる馬車の中で交わされた会話と笑顔は、確かに冒険の第一歩を刻んでいた。


 ——その先に待つ運命がどれほど過酷でも、この仲間となら、乗り越えていける。

 そう信じられる確かな絆が、彼らの胸の奥に灯り続けていた。

 王都から目的地のヒュッケ村迄は馬車で途中町に立ち寄りながら何事もなければ一週間かからないくらいの日程の距離感。

 何事もなければね。


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