3:追放パーティーの破滅フラグは立っていない(立たないとは言っていない)
【勇者の卵:ユーサー・インサラム視点】
ソーマが部屋を去ったあと、僕たちは残っていた数人で、今後について話し合いをまとめることにした。
「じゃあ今後の方針としては――現状維持。もし有望なメンバーがいれば、都度勧誘するってことでいいかな?」
「ユーサーの言う通りでいいんじゃない?アイツが抜けて困るのって生活面くらいだし、それもいざとなれば専門のサポーターを雇えばいいだけの話よ。戦闘面は……何も問題ないでしょ。私がどんどん治してあげるんだから」
シオニーが自信満々に言い放つ。
彼女らしい堂々とした態度に、僕は思わず微笑む。
そう――彼女のそういう強気なところに、僕はずっと惹かれているのだ。
「ジェラウド。今後はソーマが引き受けていた分、君に対する魔物のヘイトが増えると思うが……問題ないかい?」
「構わないさ。むしろ、強くなるには望むところだ」
「ふふ、傷跡は残らないようにしてあげるから。思う存分、魔物を引きつけなさいな!」
ジェラウドのまっすぐな向上心には、いつも感化される。
僕も負けていられないと、自然と背筋が伸びる。
「しかし、荷物の管理や雑務を全部自分でやるとなると面倒だなぁ。ソーマ、何気に働いてたんだなって思うわ」
「今まで楽してたってことだね。これからはアイムの戦闘負担も増えるし、いい機会だと思って精進しよう」
アイムも口では軽口を叩いているが、声のトーンから察するに――不満よりもむしろ、期待の方が勝っているようだった。
「エーデル。今後は裏方の管理も一手に引き受けてもらうことになるけど、大丈夫かな?」
「元より私ひとりでも問題なかったので。ソーマさんが“手伝いたい”というから仕事を分けていただけですし。今回のことは、私たちが一層認められるための試練だと思えばむしろ歓迎ですよ」
「……一人いなくなったくらいで“試練”って、少し言い過ぎじゃないかな」
珍しく興奮気味なエーデル。
いつも冷静な彼女の目が輝いているのを見て、僕は確信する
――この仲間たちとなら、今後も大丈夫だと。
ソーマが抜けたことに対する不安は、確かにゼロじゃない。
だけど、それ以上に、これからの可能性の方が大きく膨らんでいると僕は感じていた。
僕たちのパーティー【栄光への架け橋】は、僕が学園を卒業してすぐに立ち上げたものだ。
結成してから、今日でちょうど一年になる。
メンバーは卒業前から僕が時間をかけてスカウトした、選りすぐりの逸材たちだ。
まずはシオニー・レス。
ギフト【聖女の卵】を持ち、ヒーラーとして絶対的な信頼を寄せている。
綺麗な銀のロングヘアーをなびかせ、戦場では光魔法で回復と支援を同時にこなすその姿は、まさに“戦場の天使”そのもの。
少しばかり毒舌だが、それもきっと、自分の弱さを悟られたくないが故の強がりだ。
いずれ僕が勇者となり、魔王を封印した暁には――彼女と共に歩む未来を夢見ている。
次に、パーティーの頭脳・エーデル・ベーデル。
青いショートカットに知的な眼鏡がよく似合う彼女は、ギフト【氷】を操る魔導士。
アタッカーとして前線に立つ一方で、モンスターの情報を分析し、作戦を練る裏方としても優秀だ。
サポート役のアイム・ライアーは、ギフト【察知】を活かし、敵の接近をいち早く知らせる斥候だ。
戦闘時にはナイフや弓で後方支援もしてくれる。
見た目はチャラそうな茶髪の青年だが、実際は真面目で責任感が強い。
盾役として絶対の信頼を置くのが、ジェラウド・シール。
アスヴァル王国騎士団長の息子であり、ギフト【盾】を持つタンクだ。
無口な紫髪の大男だが、誰よりも僕たちパーティーを守る意志は強く、頼もしい存在だ。
そして僕――ユーサー・インサラム。
ギフト【勇者の卵】を持つ、インサラム公爵家の嫡男にして、次代の勇者候補。
雷属性の魔法を主軸にしたアタッカーとして、チームの中核を担っている。
この五人が、今の【栄光への架け橋】だ。
冒険者ギルドでEランクからスタートし、本来なら三年はかかるとされるCランクに、たった一年で到達した。
今、ギルド内で最も注目を集めていると言っても過言ではない。
「それにしても……みんな本当に、ソーマが抜けても問題ないんだね。僕がみんなに相談せず、独断で決めてしまったから不安もあったんだけど……こんなにスムーズに話がまとまるとは思わなかったよ。反対意見や不満の声も多少は覚悟してたからね」
「清々したわ。正直、回復対象が一人減ったのは助かるのよ。本人は『役に立ってます!』って顔してたけど、あれはただの自己満足。謝罪もあっさりしたもんだったし、せめて土下座してもよかったんじゃない?本当に苦労させられたんだから」
「野営の時も、魔除けの魔道具があって俺の察知スキルもあるってのに、律儀に寝ずの番とかしててさ。非効率にも程があるよ」
「ギフトの価値だけで見れば有望だったかもしれんが、戦いに実力が伴わないなら足手まといでしかない。守る対象が増えるだけなら、いない方がマシだ」
「皆さん、少し厳しすぎでは……でも、私も驚きました。ソーマさんをパーティーに誘ったのもリーダーでしたし、誰よりも期待していたのはユーサーさんだと思っていました」
――は? 僕が? ソーマに……“期待”してた?
「いやいや、そんなわけないだろう。誤解も甚だしいよ。ソーマ以上に努力してた同級生なんていくらでもいたし、むしろ卒業時点で誘いたかった有望株は他にもたくさんいた。ただ、人数を増やしすぎるのもバランスが悪いし、そこは僕なりに見極めたつもりだ。
僕が期待していたのは――ソーマの“ギフト”だけだよ。
あのギフト【フラグ】ってのは、あの伝説の先導者・ヴァンと同じものだって噂があったからね。ヴァンのように、この僕――未来の勇者の傍らで活躍してくれることを願ってた。でも、見事に期待外れだったね。
いや、唯一評価するなら、あの“旗”かな。あれは良かったよ。最初は『そんなの作ってる暇があるなら、別のことした方がいい』って思ってたけど、見た目の完成度も高かったし、宣伝効果はあった。
……ひょっとしたら、彼のギフトは戦闘系じゃなくて、旗作りだったのかもしれないね。今後また旗が必要になったら――その時だけは声をかけてあげてもいいかもしれないな」
……おっと、いけない。気持ちが昂るとつい話が長くなるのは、僕の悪い癖だね。
「僕の話はこの辺にしておこう。ついでと言っちゃなんだけど、みんなもソーマについて何か思うところがあるなら、今のうちに話しておこうよ。膿は早めに出し切るに限るからね」
そう言って、みんながソーマの話をし始めるのを横目に、僕は静かに深呼吸をして気持ちを整える。
すると、ふと目の端に映ったのは、扉の方をチラチラ見ながらニヤニヤしているアイムの姿だった。
「アイム、どうしたんだい? ずっと扉の方を気にしてるけど」
「ん? あぁいや、別に大したことじゃないんだがな……ここに来る前に、話が長引きそうだと思って食堂に寄ったんだよ。そしたらおかみさんが、俺たちの結成一周年を祝う料理を作ってくれてるって言うから、そろそろ出来てる頃合いかなって思ってさ。気になって気になって、もう腹が鳴りそうでな」
「それは素敵だね。さすがは先代勇者も太鼓判を押した宿屋のおかみさん、気が利くなぁ。……じゃあ、そろそろ話も切り上げて、僕たちの新しい一歩を祝いに行こうじゃないか。美味しいご馳走でね」
「よっしゃ。じゃあ俺、ちょっと様子見てくるわ。準備が整ってたら呼びに来るから、みんなは食堂へ向かう準備でもしててくれ」
そう言い残して、アイムは軽快な足取りで部屋を出て行った。
僕たちも、その気配に背中を押されるようにして立ち上がり、それぞれ出発の支度を始める。
本当に、おかみさんには感謝しきれないな。
こんな心のこもったサプライズ、嬉しくないはずがない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【アイム視点】
(――いやぁ、人の悪口を堂々と並べ立てるってのは、やっぱり最高に面白いな。人の不幸は蜜の味、なんて誰が言い出したか知らねぇが、まったくその通りだわ)
俺は心の中でニタニタと笑いながら、鼻歌まじりで廊下を歩く。
あそこまでボロクソに言われて、本人がどう思ったかは知らねぇけど……
(それにしても、あいつもタイミング悪く聞き耳なんて立てちまって。察知持ちのこの俺様に気づかれねぇとでも思ったのかね。なにしに来たのかは知らねぇが、結局最後まで聞き続ける根性も、堂々と入ってくる勇気もなかったらしい)
何も言い返せず、ただ背を向けて去っていったあいつの姿を思い出し、思わず鼻で笑う。
(さっきまではおかみさんと何か話してたみたいだが……もう宿屋からは出て行ったらしいし、問題はねぇだろ)
俺様の視線は、もう過去なんかじゃなく、目の前にある肉と酒。
そっちの方がよっぽど重要ってもんだ。
(さてさて、ご馳走タイムだ。腹ペコな勇者様が待ってるぜ、おかみさん!)
そう心の中で叫びながら、俺は期待に胸を膨らませて、食堂へと足を速めた。
基本的には努力家で実力も人気もあるいいパーティーなんです。
こいつが勝手に長く話をする悪い癖って言うから作者の筆が進んだだけなんです。
最終的に彼らをどの程度の破滅具合にするかは現在未定です。
落ちぶれ程度で自然にフェードアウトでも敵に寝返りでも物語の本筋には大きく影響しないはずなので流れで決めます。
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