28:蹴りたいフラグ
「すいません。先輩のギフトって……なんでしたっけ?」
夕暮れの光が斜めに差す中、ふとした拍子にソーマが切り出すと、トーマは一瞬だけ驚いたように目を見開き、やがて苦笑した。
「……俺のギフトか?忘れたのか?【サッカー】だよ」
トーマの一言に、ソーマは確信する。
前世の記憶。
自分が生きていた、地球という世界。
そこには確かに存在していた――【サッカー】という球技が。
「ギフトに書かれてたのは、それだけだった。【サッカー】って単語一語だけ。……サカってあったから、最初は坂道を延々走ったりしてみたんだよ。体力も付くし、悪くはなかった。けど、結局スキルは何も発動しなかったな」
トーマは肩をすくめて、ため息まじりに笑う。
「でも……それじゃ、作家をやってるのは……?」
「学園卒業してから、何してもピンと来なかった。色んなバイト掛け持ちしながらフラフラしてるうちに、ふとサッカーって響きが作家に似てるなって思ってさ。そこからかな。誰かに何かを伝えるっていうのは、悪くない仕事だなって。気がついたらペンを握ってたよ」
トーマは、照れ臭そうに鼻をかいた。
ソーマは静かに頷く。
そして、ふと瞳を見開いた。
「……分かりました! トーマ先輩、ちょっと冒険者ギルドの訓練所についてきてください!」
「え、ちょ、ソーマ? 何だ急に……!」
「ソーちゃん!? お姉ちゃんに用事があったんじゃないの?」
「姉さんには改めてお礼を言います。また連絡しますから!」
ソーマは振り返りもせず走り出す。
その背を、ジョッシュとクリスが半ば呆れながらも追いかけた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夕陽の照り返すギルド訓練場の中、ソーマはトーマに向き直る。
「先輩。実は俺、スキルが発動したんです」
「え? お前のギフトって【フラグ】だよな……スキルが何か分かったのか?」
「ええ。そしてその力で、先輩の【サッカー】が何か……分かったんです」
「俺のギフトの謎を……お前のスキルが?」
「はい。先輩、魔力でボールを作れますか? 直径二十センチぐらいで、なるべく滑らかな球体を」
「……魔力球、か。やってみるよ」
トーマは掌に集中し、淡い青白い光を宿す。
その光はゆっくりと渦を巻き、しだいに滑らかで丸い球体へと変化していった。
「できた……ぞ」
「よし、そのまま……思いっきり蹴ってください!」
「け、蹴る……のか? これを?」
「はい。助走をつけて、全力で」
トーマは困惑しながらも一歩下がり、深く息を吸う。
そして――一気に駆け出し、右足でボールを思いきり蹴り上げた!
ボフッ!!
空気を裂くような爆音とともに、魔力のボールは一直線に空を走り、訓練場の石壁に激突した。
ズドォォン!!
分厚い石壁に、まるで大砲が直撃したかのような大穴が空いた。
「……なっ、なにぃ!? なんだ今の威力!」
ジョッシュが目を剥き、クリスは口元を押さえて絶句していた。
だが、ソーマは満足そうに頷いていた。
「やっぱり……! それが【サッカー】の力です。ギフトとしてのポテンシャルは、本物ですよ!」
そのとき、トーマの身体がふわりと光に包まれる。
《スキル:シュート が解放されました》
「スキルが……解放された……!?」
「状況が整えば、ギフトは本当の力を発揮するんです。先輩の【サッカー】も、ようやく目覚めたんですよ」
「す、すげぇ……。この威力なら、冒険者としても十分に通用しますよ! 攻撃魔法に引けを取らないレベルだ!」
ジョッシュが興奮気味に叫ぶ。
だが、トーマはゆっくりと首を振った。
「……いや、やっぱり俺はこのまま作家で生きていくよ」
「え? でも、ここまでの力が……」
「分かったんだ。ギフトに頼らなくても、人はやっていけるって、今までの俺の人生が証明してくれたんだ。ギフトがサッカーでも、俺が選んだのは作家。それを、貫きたいんだ」
トーマの目には、ブレのない意志が宿っていた。
「……なるほど。カッコいいです先輩」
トーマがにやりと笑い、続けた。
「……でもちょっと取材させてくれよ、ソーマ。お前が知ってるサッカー、俺に詳しく教えてくれ」
「はい、もちろんです。ルールから戦術、ポジション、フォーメーションまで。教えてあげます」
「助かる」
そのまま二人は、夕暮れの訓練場を後にし、語り合う夜が始まった――
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【少し未来の話:トーマ・カーノ視点】
……あの日が、すべての始まりだった
俺は今、人気作家として知られるようになった。
中でも、俺の代表作『ライメイ・イレブン』
ギフトを駆使して戦う架空のスポーツ【サッカー】を描いた物語だ。
子供だけでなく貴族や魔導士、騎士団の若者たちが夢中になるほどで、この作品は瞬く間にヒットした。
最初はただのフィクションだった。
しかし読者の間で『実際にやってみたい』という声が広がり、王都では模倣ルールによる現実のサッカーが生まれた。
子どもたちが木の実や革玉を蹴って遊び、やがてそれが街全体に広まり、やがて大陸中へと波及していった。
――俺は、結果的にサッカーをもたらした第一人者として歴史に名を刻んだ。
魔法を使う派手なマジックサッカーも、ショーとして人気を得たが、最終的に残ったのは、純粋に足でボールを追いかけるシンプルなスポーツだった。
始まりは、サッカーと作家という、ただの語感の偶然だった。
けれど、そこに俺の意志と、ソーマの知識が重なったことで、未来は大きく変わった。
『ギフトに縛られる必要なんてない。人は誰だって、選んだ道を自分で切り拓ける』
そう、俺は今、堂々と言える。
「みんな――サッカーしようぜ!」
俺たちの蹴ったボールは、今日も空高く舞い上がり、まだ見ぬ未来へと転がっていく――
作者はサッカーはあまり興味がありません。
ワールドカップもニュースで結果知るくらいのレベルです。
でもイナ○レはゲームもしたしアニメも見ました。
後新しくできたエディ○ンピースウイング広島には興味があるのでそのうち子供を連れて行ってみたいと思います。
※作者からのお願い
投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!
お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。
ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。




