27:再会と謎が交差するフラグ回
ゼルガンの背後で、ユーサーたちの足音が遠ざかっていく。
ソーマたちと同じ様にどこかで噂を聞きつけて装備を依頼しに来たようだった。
「俺たちが言うのも何なんですがよかったんですか?あいつら俺たちよりもよっぽど将来性ありますよ?」
ゼルガンは答えなかった。
それよりもその手に渡した素材を持ち上げ、しばし黙考するように見つめた。
「……いい素材だ。よく生きて持ち帰ったな」
その一言が、何よりも胸に染みた。
あの死地の森で、仲間と共に命を賭けて得た素材。
それが、確かに認められた気がした。
スッ……シュッ、スッ……
測定用の棒が空気を切る音が、静かな工房に微かに響いた。
ジョッシュは真剣な面持ちで棒を両手に構え、慎重に何度もソーマの言った通りに振っている。
その動作一つひとつに集中しながら、丁寧に軌道を確認していた。
対面するゼルガンは、無言でその様子を見つめていた。
彼の目は、まるで一分の隙も見逃すまいとする職人のそれ。
振り方、握りの角度、手の開き具合──ジョッシュの体格や筋肉の動きに至るまで、その視線は鋭く観察を重ねていく。
「……ふむ。やはり、バットとやらの握り方は一般的な構造では合わんようだな」
ゼルガンは眉間にシワを寄せながら、メモ帳にペンを走らせる。
手際は早いが、目は真剣そのものだ。
表情からは感情を読み取りにくいが、彼の視線はジョッシュの体格、手の厚み、指の長さまで的確に捉え、職人としての目で見抜いている。
「ジョッシュ君、少し手を広げてみてくれ」
「えっ、こ、こうですか?」
ジョッシュが少し戸惑いながら手を広げると、ゼルガンはじっと観察し、頷いた。
「うむ……。これならグリップの形状は若干湾曲させた方が良いな。重心も、少し手前に寄せるべきだ。
──君専用の武器として、最適な形に仕立てるつもりで調整しよう」
「せ、専用……! すごい……!」
目を丸くし、まるで宝物をもらったように感動するジョッシュ。
その純粋な反応に、ソーマも思わず微笑んだ。
ゼルガンの手は止まらない。
工具を巧みに操り、木材の歪みを確認し、バランスを緻密に調整する。
まるで、武器に命を吹き込むような動きだった。
(あの人、本当にすごいな……)
見ているだけでわかる。ゼルガンは本気で、ジョッシュの力を信じてくれている。
ふと、ソーマは気になっていた疑問を口にした。
「ゼルガンさん、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「どうして俺たちの依頼を受けてくれたんです? ギルドの依頼でも滅多に動かないって聞いてたのに……」
その問いに、ゼルガンの手がぴたりと止まる。
そして、静かに顔を上げてソーマを見る。
「……ああ。それはな──リンに頼まれたからだ」
「姉さんに……?」
思わずソーマの声が裏返った。
驚きに目を見開くジョッシュ。
ゼルガンは続ける。
「そうだ。あの娘が久しぶりに連絡してきてな。『俺の目で見て、判断してほしい子たちがいる』って。
だから、工房を開けて待っていたんだ──お前たちのことをな」
静かに語られるゼルガンの言葉には、どこか懐かしさのような、深い信頼が滲んでいた。
「……待て、今姉と言ったか?」
「えぇ。商業ギルドのリンは、俺の姉さんです」
ゼルガンの目が一瞬、大きく見開かれる。
その瞳に、驚きと、何かを思い出すような光が宿った。
「なるほどな……ならば……少しは納得がいく。あの娘が『頼む』なんて言うから何かと思えば……」
ゼルガンは天井をちらりと見上げ、ぽつりと呟いた。
「……姉に似て、まっすぐな目をしている。ジョッシュもそうだ。お前たちのような若者になら……力を貸す意味がある」
その言葉は、決して軽くなかった。
職人として、誰にでも道具を与えるわけではない。
信じられる者にだけ、力を貸す──それが彼の信条なのだろう。
「……これからも、お前たちの依頼なら受けよう。必要な時は、また来い」
ゼルガンの声は、ソーマたちの心に響いた。
ソーマの胸がじんと熱くなる。
ジョッシュも深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
その後、クリスの杖についても希望を聞いたゼルガンは、簡単な寸法を測ると頷いた。
「今日はこれでいい。完成したら連絡を入れる。一週間もかからん」
最後にふっと笑ったような気配を残し、ゼルガンは奥へと戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「姉さんの頼みならって……一体、何があったんだろうな」
工房を出てからの帰り道、ソーマはぽつりと呟いた。
「リンさんって、本当にすごい人なんだね……」
ジョッシュの言葉に、ソーマは少し照れくさそうに笑う。
けれど、表情にはどこか嬉しそうな安心感が滲んでいた。
そのまま一行は、リンにお礼を伝えるため商業ギルドへと足を運んだ。
中央通りを抜け、ギルドの受付でリンを呼び出してもらうと、奥の扉から見覚えのある人物と一緒に現れた。
「……あれ? ソーマか?」
活発そうな短髪の男性がこちらに気づき、軽やかに駆け寄ってくる。
「えっ……もしかして、トーマ先輩!?」
「やっぱり! ソーマ、久しぶり! 学園以来だな!」
その男──トーマ・カーノは、かつてギフト研究会に所属していたリンの同級生であり、ソーマにとっても懐かしい先輩だった。
「先輩、今は王都に?」
「ああ。今は小説家をやらせてもらってる。『蹴りたいお前』って作品でデビューしたら、予想外にヒットしてな。今日は俺の担当でもあるリンに次回作の打ち合わせをしてもらってたところだ」
「『蹴りたいお前』私も読みました! 色んな職場に派遣される主人公と、クレーマーとのやり取りがリアルで……でも、背景を知ると胸が熱くなるんですよね……」
クリスが目を輝かせて語ると、トーマは少し照れくさそうに笑った。
「おっ、ありがとう。そう言ってもらえると、頑張った甲斐があるな。それにしても、ソーマ。冒険者でCクラスになったって聞いたぞ?リンがめちゃくちゃ嬉しそうに自慢してきた」
「え、えぇ……色々ありましたがなんとか……」
「何言ってんだ。俺だってギフトに頼らず作家になったんだ。ソーマだって十分すごいよ」
その言葉に、ソーマはふと、昔の記憶がよみがえる。
当時、トーマのギフトは誰にも判明していなかった。
ギフト研究会でも、何度も検証したが謎のまま卒業していった。
──でも、今のソーマになら分かる。
前世の記憶を持つ今のソーマになら……あの時分からなかったトーマのギフトの正体が──
昔はラノベよく読んでいましたが今はネット小説しか読んでいないなぁ。
好きな漫画の種類は4コマ漫画です。
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