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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

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26:傲慢のフラグ、崩れる音

【栄光の架け橋:ユーサー・インサラム視点】


「ここで間違いないはずだ。噂が正しければ──ここが、あのゼルガンの鍛冶屋だ」


 重厚な石造りの路地裏。

 雨風に晒されて鈍く黒光りする大剣には、うっすらと文字が刻まれていた。


 ──《悪・即・斬》


「……これが噂の《悪・即・斬》か。なるほど……確かにただの店とは違うな」


 圧倒的な存在感だった。

 剥き出しの鉄と煤の匂いが漂い、扉の向こうからは金槌の響きが静かに、しかし確かに聞こえてくる。


 かつての勇者パーティーのメンバー【守護者】ゼルガン。

 前勇者パーティーの職人にして鉄壁の盾。

 今では王都の一角で鍛冶屋を営んでいる──という噂を、仲間のアイムがどこからか聞きつけてきたのだ。


「さて、みんな。準備はいいか?」


 僕の問いに、仲間たちがそれぞれ頷く。


「噂のゼルガン殿の装備……期待できそうだ。いい盾ができれば、前線の突破力も段違いになる」


 ジェラウドの声には静かな熱がこもっていた。


「聖女の私に似合う武器はきっと無理でしょうけど……アクセサリーくらいは作ってもらえるかしらね」


 シオニーが軽口を叩くが、その目には真剣さが宿っている。


「気難しい人だという噂です。誰の依頼も受けないとも……慎重に話しましょう」


 エーデルの忠告に、皆が一瞬表情を引き締める。


「ま、将来の勇者パーティーの俺たちの依頼なら、流石のゼルガンも無視はできねぇだろ」


 アイムが自信ありげに笑った。


 僕は深呼吸し、鉄の扉を押し開けた──


 ギィィ……と重い音を立てて開かれる扉。

 途端に鼻を衝くのは焼けた鉄と木炭の匂い。

 そして、鍛冶場の奥からリズムよく響く金槌の音。


 その奥に、男がいた。


 黙々と金槌を振るう、銀髪の鍛冶師。

 その姿に、僕は確信する。

 彼こそ、ゼルガンだ。


「……初めまして、ゼルガンさん!」


 僕は一歩前に出て、はっきりと声を届けた。


「僕たちは【栄光の架け橋】──勇者と聖女候補のパーティーです。あなたの噂を聞き、ぜひとも装備の依頼をと……!」


 カン……カン……


 音が止まり、男がゆっくりと顔を上げた。

 銀髪に煤をまとい、深く光る目がこちらを射抜く。

 言葉にせずとも、彼がただ者ではないことはひしひしと伝わってきた。


「……なんだ」


 その低く短い声には、静かなる威圧があった。


「装備の依頼をさせてください。俺たちは今度高ランクの依頼を受けるつもりです。素材も持参していますし、報酬も十分に用意しています」


 僕は堂々とした態度で申し出た。

 僕たちが今、王都ギルドでもっとも注目されているパーティーであることを示すために。


「まずは、僕の剣とジェラウドの盾。どちらも……最高のものを求めています」

「──断る」


 その返答はあまりにも早く、あまりにも冷たかった。


「え?……ちょ、ちょっと待って。今なんて……?」


 シオニーが困惑する。


「断るって……なぜです? 僕たちがどれだけ努力して──」

「興味がない」


 まるで鋼鉄の壁のように、その一言が打ち砕いてくる。

 アイムが慌てて前に出る。


「俺たちの実力、知らないのか?一年でCランク昇格、将来の勇者、聖女として期待──!」

「それがどうした。俺は、興味がないと言っている」

「なにか気に障るようなことしましたか?」


 カンッ!


 鋭く金槌が振り下ろされ、音が空間を裂く。


「お前たちの装備を作る気はない。理由は、俺の鍛冶屋としての矜持だ。それ以上は聞くな」


 その声には、まるで熱を持たない凍てついた意志があった。


 拳を握る。

 ──こんな仕打ち、納得できるはずがない。

 僕たちは将来世界の危機を救う使命のあるパーティーだ。

 その僕たちの依頼を断るだと? 


「……何でですか。僕たちが、どれだけ苦労して登り詰めたと思ってるんですか」

「だから興味がないと言っているだろう」


 あくまで興味を示さないゼルガンに思わずイラっと来てしまった。


「だから言ってるでしょう!こっちは正式に依頼を──!」

「断る!」


 グラッと、内心が揺らぐ。

 怒りと悔しさが入り混じる。


 僕が一歩踏み出しかけたその時──


「ゼルガンさん、例の素材……持ってきました」


 不意に、背後から声がした。


 振り返る。

 そこにいたのは──ソーマだった。


 僕たちのパーティーから脱落し、無様に落ちぶれたはずの男。

 その彼が、堂々と鍛冶屋の奥へ進んでいく。


「……ソーマ、なぜお前がここに……?」


 問いかけるが、ソーマは答えず、黙って手に抱えていた木材のようなものをゼルガンに差し出した。

 ゼルガンはそれを手に取ると、重さと硬度を確かめるように撫で──


「……悪くない」


 ぽつりと、驚くほど優しい声で言った。


(え? 今、なんて? なんだ……これは……)


 我慢できず、アイムが声を荒げる。


「ちょっと待てよゼルガン。そいつらの装備は受けるのか? 俺たちより格下の……!」

「格下だって?」


 ソーマが顔を上げる。

 かつての弱々しさはそこにはなかった。


「俺たちもCランクだ。……次に会った時、もう笑えねぇって言っただろ?」

「言いましたよね。『見ててください』って。──今、同じ場所に立ってます」


(……は? ソーマ達がCランクになっただと? あれからまだひと月も経っていないのに? 普通は三年かかるCランクにお前たちも上がっただと?)


「ランクが同じでも、実績も実力も僕たちの方が──!」

「黙れ」


 ゼルガンの声が唸るように響き、空気が揺れる。

 僕は一歩、無意識に後退していた。


「そして聞け!誰の装備を作るか──それを決めるのは、この俺だ。以上だ」


 ──揺るがない。

 まるで溶鉱炉の火を宿したような、確固たる眼差し。


「くっ……!」


 唇を噛む。

 言い返す言葉が出てこない。

 だが、ここで食い下がるのは敗北の証明だ。


「せいぜい……無名の小物と馴れ合ってるといいさ。僕たちは──道具に頼らずとも、上へ行ける」


 背を向けた。

 敗北感が背中を焼く。

 後ろで、シオニーとアイムの苛立った声が続く。


「この聖女の頼みを断るなんて、見る目がないにも程があるわね!」

「鍛冶屋で木材だぁ? 腕が鈍った証拠だな!」


 だがそれすら、虚しい遠吠えにしか聞こえなかった。


 ──待ってろゼルガン。


 必ず、お前が僕たちを断ったことを後悔させてやる。

 剣は時に盾となり主を守る!


※作者からのお願い


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