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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

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25:英雄のフラグ、その正体

 日はすでに西に傾き、街の影が長くのびはじめていた。

 王都の中心地にそびえる冒険者ギルドは、そんな夕暮れ時にも関わらず相変わらずの喧騒に包まれている。

 行き交う冒険者たちの声、酒場の笑い声、受付を囲む列──

 その賑わいをくぐり抜け、ソーマたちは重厚な扉を押し開けた。


「……帰ってきたな」


 ギルドの空気は懐かしく、けれど少しだけ重かった。

 すぐに、受付嬢のメルマがソーマたちに気づき、笑みを浮かべて小さく手を振る。


「お帰りなさい、ソーマさん。任務、お疲れ様でした」

「……あぁ、なんとかね」


 ソーマは短く応え、鞄の中から布に丁寧に包んだ遺品を取り出した。


「それと……これも、届けておきたくて」


 手渡された包みを見たメルマの目がわずかに揺れ、微笑みが消える。


「これは……行方不明パーティーKの皆さんの……ですね」


 声ににじんだ悲しみが、ギルドの喧騒とは不釣り合いな静けさを呼び寄せた。

 メルマは小さく頷くと、包みを大事そうに抱え、そのまま奥の部屋へと歩いていった。


 ──数分後。


「ソーマさん。ギルドマスターが直接会いたいそうです。どうぞ、奥の部屋へ」


 通されたのは、ギルド本部の中でも最も奥にある部屋──ギルドマスター、カルヴィラの執務室。

 扉をノックし、中へ入ると、椅子に腰掛けたカルヴィラが顔を上げる。

 鋭い視線は健在だったが、ソーマたちを見ると、わずかに目元を和らげた。


「……無事でなによりだ。まずは依頼、よくやったな。グレイ草の採取、それとターキン樹海周辺の魔物討伐、どちらも完遂で間違いないか?」

「はい。ただ……Kのパーティーが……」

「報告は受けている。届けられた遺品、確かに彼らのものだった」


 カルヴィラの声は抑えられていたが、部屋に沈んだ空気が満ちていくのがわかった。


「……彼らは最期まで、依頼を果たそうとしていたようです。あの場所で、無念を抱えながらも……」

「そうか……」


 カルヴィラは目を伏せ、一呼吸置いた。


「あいつらは真面目だった。いつも義務を優先し、自分たちを後回しにするような連中だった……そんな最期を迎えるとはな。せめて、ソーマ君たちが見つけてくれたことが救いだ」


 しばしの静寂ののち、カルヴィラの眼差しが鋭く俺に向けられる。


「ところで、ソーマ。君たちは、森の奥深くまで入っていたようだな。……ただの行方不明者捜索依頼にしては、随分と危険を承知で動いていたように見えるが?」

「……それは、鍛冶屋のゼルガンさんから、個人的にトレントの素材を頼まれていまして」


 言った瞬間、カルヴィラの目が見開かれる。


「……なんだと?()()()()の依頼……?本当に、あのゼルガンか?」

「え、ああ……王都の鍛冶屋【悪・即・斬】のゼルガンさんですけど……」


 その名を口にした途端、カルヴィラは額に手を当て、大きくため息をついた。


「……おい、本気で言ってるのか。ソーマ君が、あの人が何者か知らずに受けたのか?」

「え? ただの……無愛想なドワーフの職人ってだけで……」


 カルヴィラは一瞬呆れたようにソーマを見て、それからポツリと呟いた。


「……あの人はな、かつて勇者のパーティーの一員だった男だ。名を馳せた戦士にして、【守護者】ゼルガンの異名を持つ大剣使いだ。パーティーの剣は時には仲間の盾としてパーティーを守り何度も戦場を越えてきた──そういう男だ」


「……は?」


 耳を疑った。

 あの無愛想なドワーフが、そんな人だとは思いもしなかった。


「しかも今は、表立った活動は一切していない。冒険者からの依頼も、ギルド経由ですら断っている。それでも、なお伝説として名が残ってるほどの男だ」


 カルヴィラは椅子にもたれ、唸るように続けた。


「……一体どうして、そんな彼が依頼を出した? ソーマ君は、あの人と知り合いだったのか?」

「いや、姉さんに紹介されて……それだけです。俺のことも特に気にしてない様子でしたし、口数も少なくて……」


 ソーマは苦笑を漏らす。

 確かに、ゼルガンは口も態度もぶっきらぼうだった。

 けれど、あの眼光だけは──まっすぐソーマを見据えていた。


「──あの人はな、()()にしか手を貸さない。見込みがなければ、素材の話すら出さなかったはずだ」


 カルヴィラは、わずかに口元を緩める。


「……英雄からも期待されているんだな」


 その言葉に、胸の奥がふっと軽くなる。

 評価を得たいわけじゃなかったはずなのに、不思議と嬉しかった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 任務の疲れがまだ身体に残る中、ソーマたちは猪熊亭でひと晩休んだ後、早朝からゼルガンの工房を目指した。

 トレントの素材を、渡さなければならない。

 重厚な鉄扉を前に、緊張感が背筋を走る。


「よし、行こうか……」


 ソーマたちが扉をくぐった瞬間、怒号にも似た言い争いが耳に飛び込んできた。


「だから言ってるでしょう!こっちは正式に依頼を──!」

「断る!」


 ゼルガンの怒声。

 そして、聞き覚えのある男の声──


 その場にいたのは、かつてソーマを追放した冒険者パーティー

 ──【栄光への架け橋】のユーサーたちだった。


「……なんで、あいつらがここに……?」


 息を潜めながら、ソーマはゼルガンの工房の奥を見つめた。

 悪を断つ剣なり!


※作者からのお願い


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