表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/107

24:遺されたフラグ

 森の奥深く──


 静けさに包まれた中で、ソーマたちはトレントの根元に埋もれた荷物を一つ一つ掘り起こしていた。

 腐葉土に埋もれていた革製のカバンは、土と湿気にまみれ、ところどころ破れている。

 長く放置されていたのは明らかだった。


「……やっぱり、そうか」


 独りごちるように呟いた声は、誰に届くわけでもなく、ただ木々の隙間から漏れる風にかき消された。

 取り出した比較的新しめカバンの中には、傷ついた装備の欠片や、血の跡が染みついた布きれ、そして……冒険者ギルドのカードが数枚。


 そのひとつひとつに刻まれていたのは、数日前から行方不明となっていたパーティー【K】のメンバーの名前だった。


「……くそっ……!」


 ソーマに悔しさがこみ上げる。

 

(もっと早くここに来ていれば。俺のスキルで、死亡フラグを壊せていれば……もしかしたら助けられたかもしれない……もしもなんて、幻想にすぎないか……)


 剣の鞘、焦げ跡のあるローブ、そしてまだ手入れが行き届いていた盗賊の短剣──どれも彼らの生きた証だった。


 さらに見つかったのは、癖のある筆跡で綴られた小さなメモ帳。

 ページをめくると、グレイ草の採取ルート、周囲の魔物の特徴、そして最後のページにはこう記されていた。


『……トレントの気配、濃くなってきた。注意すること。戻ったら宿の女将さんに蜂蜜ケーキを頼もう。ミルトがまた食べたがってたから』


 それを見た瞬間、胸の奥が締めつけられた。

 

(彼らは最後まで……ギルドからの依頼を全うしようとしていたんだ)


「……せめて、君たちのこと、伝えるよ」


 ソーマはギルドカードと遺品を丁寧に包み、袋に収めた。

 重みはほとんどなかったのに、その袋は肩に鉛のようにのしかかっていた。


 森での依頼は、まだ終わっていなかった。


 グレイ草の採取、そして周辺の魔物の討伐。

 ソーマたちは必死に任務に集中した。

 手を動かし続けていなければ、気が狂いそうだった。


「……ここにも痕跡があるな。通ったのは、3日か……4日前」


 倒木の陰、残された足跡。

 すぐに獣に消されてしまいそうなほど薄い痕跡を見つめる。

 Kのメンバーたちは、ギリギリまで任務をこなしていたのだろう。


「バカだな……逃げてりゃ、生きて帰れたかもしれないのに」


 だけど、ソーマも同じ立場だったらきっと、同じように最後までやり遂げようとしただろう。

 それが──冒険者という生き方なのだと。


 すべての依頼を終え、ソーマたちはガスト村へと戻った。

 夕暮れの村は静まり返り、空は茜色に染まり始めている。


 まずは、依頼主であるエキボスの元へグレイ草を届けた。

 頑丈な腕を組んで立つその男は、ソーマが袋を差し出すと無言で中を確認し、短くうなずく。


「……十分だ。依頼はこれで完了だ」

「また何かあったら、頼んでください」


 多くを語らないのがこの村の流儀。

 だが、たった一言の中に、確かな信頼と労いがあった。


 そして──足を向けたのは、Kのパーティーも泊まっていた宿屋。

 木の扉を開けると、女将が明るい笑みで出迎えたが、ソーマの手にある包みに気づいた瞬間、その表情が翳った。


「……まさか。何か……わかったのかい?」


 ソーマは言葉に詰まりながら、静かに包みを差し出す。

 女将は、震える手でそれを受け取った。

 包みを開いた瞬間、彼女は声もなく膝から崩れ落ちた。


「やっぱり……ダメだったのね……」


 ぽろぽろと涙を流しながら、包みの中のギルドカードに指を触れる。


「本当に……いい子たちだったのよ。毎朝、元気に挨拶してくれて……お礼もちゃんと言える、まっすぐな子たちだった……あの子たちの部屋、まだ片付けてなくて……」

「……ごめんなさい。俺達が……もっと早く依頼を受けていれば……」


 女将は首を横に振った。


「あなたのせいじゃない。あの子たち、自分で選んでここに来たんだもの……それに、知らせてくれて……ありがとうね」


 その言葉に救われたような気がしたけれど、心の中の罪悪感は、そう簡単には拭えなかった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 夜──宿の部屋で、ソーマは一人天井を見つめていた。


 星空が窓から見える。

 あの星たちの中に、彼らの魂もあるのだろうか。


「……あんたたち、どこかで見てるか?」


 静かに呟いた言葉は、夜の静寂に溶けていった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 翌朝。

 ソーマたちは馬車に揺られ、王都への帰路に就いていた。

 背後には森が広がり、淡く朝霧が漂っていた。

 揺れる馬車の中、何度も振り返りそうになるのを必死でこらえた。


「……せめて、忘れないでいよう」


 誰にも知られず、語られずに終わっていく命がある。

 だが、その記憶を、志を、残す者がいる限り──彼らは決して無意味ではない。


 王都までの道のりは長い。

 けれどソーマは、その時間の中で、彼らの想いと共に、自分の進むべき道を見つめ直していこうと思った。


 背負うものがあるなら、それに応えるだけの強さを持たなければならない。

 そう、誓いながら──ソーマたちは、次の物語へと進んでいった。

 いやあ…トレントは強敵でしたね。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ