23:フラグでスキル解放
苔むした巨体が、ゆっくりと姿を現した。
トレント――木の精霊が変異し、魔物と化した存在。
通常の魔獣よりも遥かに高い魔力反応と耐久力を誇る。
その巨体は、森の古木すら小枝に見えるほどに巨大で、地面を踏みしめるたびに、重く鈍い振動が空気を震わせた。
「くっ……っ!」
「……でかい……!」
ソーマたちは即座に陣形を整え、全身の神経を研ぎ澄ませる。
トレントの眼窩は空っぽだというのに、確かにこちらを見ている。
視線のような何かが、皮膚を這う感覚。
――ゴォオオオ……!
森全体を震わせる咆哮。
その直後、トレントが太い腕を振り上げた。
樹の質量とは思えないほどの速さと精度――!
ソーマたちの動きを見極めるかのように、精密に――そして確実に殺しにかかってくる。
「散開ッ!」
次の瞬間、大地が破裂したような轟音と共に、トレントの腕が振り下ろされる。
土と枯葉が爆煙のように舞い上がった。
「……ッ、助かった。罠まで仕掛けてくるなんて……!」
トレントの攻撃は単なる暴力ではない。
敵の動きを予測し、そこに罠を張る高度な知性がある。
「ジョッシュ、魔球で援護を頼む!」
「了解!特訓の成果、見せてやるぜ!」
「クリス、補助と防御を頼んだ!」
「任せてください――【ブースト】加速補助、展開!」
ソーマは剣を構え、トレントの正面へと突進する。
狙いは――眼窩。
空洞であるそこが、構造上の急所のはず。
だが――
トレントの右腕が横薙ぎに振るわれ、ソーマの突進を遮る。
その正確な迎撃に、咄嗟にバックステップでかわすも、体勢が乱れる。
ドォン!
ジョッシュの魔球がトレントの胴体に直撃。
黒煙が立ち上がる――が、トレントは微動だにしない。
「……効いてない!?」
焦げた表皮の下には、さらに層を成す分厚い樹皮が。
まるで鉄樹、半端な魔法では通じない。
「もっと奥に通さなきゃダメか……!」
何か、あと一手でも力があれば……!
《了解――死亡フラグへの干渉を開始します》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
(なっ……!まだ死亡フラグは出ていないはず……?いや、このままだと時間の問題だった。スキルが先回りして介入を始めたのか……!)
《提示:ジョシュアとクリスティーナのスキルを解放します》
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【ジョシュア視点】
どうして、俺は……いつもこうなんだ。
仲間は前に進んでいるのに、俺だけが取り残されてる気がしてた。
クリスは支援を、ソーマは最前線で攻撃を、俺は……何をしてる?
あの日、訓練場で何度も投げ込んだ球。
理屈も、理想も、すべて頭にはあった。
だけど……本番じゃ力が入って空回りするばかりで。
教わるだけで、何も返せなかった。
みんなの背中を、ただ見てるだけで――
(……ダメだ、まただ。また俺は、何もできずに終わるのか……?)
喉が渇く。
心が縮こまる。
だけど今、確かに見えた。
あの巨体に、恐れず立ち向かう二人の姿が――
逃げたい自分を殴り飛ばすように、拳を握りしめた、その瞬間。
《スキル:魔球カーブ が解放されました》
(……このタイミングで!?特訓の成果が……いや、これは……俺が、自分の限界を越えようとしたから――!)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【クリスティーナ視点】
どうして、私はこんなにも無力なんでしょうか……
刃にもなれず、盾にもなりきれず……
仲間を“守る”ことしかできない私は、本当に誰かを救えているのでしょうか。
戦場では、守るだけでは間に合わないことがある。
あのときもそう。
私が一歩でも攻められていれば、あの怪我は防げたかもしれない。
怖くて仕方がなかった。
攻撃すれば、反撃される、傷つける、私が踏み込むことで何かが壊れるんじゃないかって――
でも、今目の前にあるのは、命を奪いに来る化け物。
怯えてる時間なんて、ない。
私は、ソーマを、兄さんを、誰も、死なせたくないんです――!
《スキル:ライトボール が解放されました》
(……この光は……私の中にも、戦う力があるって……証明してくれるの?)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
スキルが介入した直後、クリスからいつもと違う魔力が解き放たれた。
「私にも任せてください! 光よ! 【ライトボール】」
クリスが放つ魔法陣から、純白の光球がいくつも射出される。
球状の光はふわりと舞い、そして一斉にトレントの関節部を撃ち抜く。
――ジュウゥゥンッ!
蒸気が上がり、関節部の可動が一瞬だけ鈍った。
「クリス! 攻撃魔法を……!」
「今です! 今しかありません!」
「クリスに負けてらんねぇ! 俺もいくぜ――見せてやる、新技だッ!」
ジョッシュが渾身の力で腕を振りかぶる。
「【魔球カーブ】――発動ッ!」
――シュウゥゥン!!
魔球が放たれた瞬間、空気が圧縮されるような音が走る。
一直線に飛び出したかと思えば、空中で急激に軌道を逸れ――
「……後ろからッ!?」
トレントの背面に魔球が命中!
樹皮が裂け、焦げた樹液が噴き出した。
「効いた……!?じゃあ、次は――!」
ジョッシュが連投する。
今度は真っ直ぐ――ストレートだ!
ズガァアアン!!
トレントの眼窩に直撃し巨体がぐらりと揺れる。
「いまだッ!!」
ソーマは魔力を足に集中し、ブーストの加速で空を斬るように突進する――
――バシュッ!!
剣が閃光のようにトレントの眼を貫いた。
ゴゴゴゴ……ッ!
巨体が、ゆっくりと――確実に――崩れていく。
《アストレイの死亡フラグが破壊されました》
静かにスキルが表示するメッセージ。
――トレント、討伐完了。
「……はぁ、はぁ……」
「し、死ぬかと思った……!」
「魔球カーブ、すごかったです。見事な命中でした」
息を切らしながら、ソーマたちは倒れたトレントの残骸を前に声を交わす。
「ジョッシュ、ぶっつけ本番とは思えないキレだったぞ」
「いやー……緊張で手汗ヤバかったけどな。クリスも、攻撃魔法まで……」
「さっき、突然スキルが……でも、嬉しいです。私にも戦える力が」
(……やはり、俺のスキルの影響なのか。もしこの力が仲間にも作用するなら、これは想像以上に……いや、後で検証が必要だな)
「さて、素材の回収に移ろうか」
「グレイ草、まだ周辺に残ってるかもしれませんね」
「あの遺品の確認も忘れずにな」
死の運命を切り裂いたソーマたちは、次なる目的へと歩みを進める。
――希望という名の方向へ。
テンポ重視で戦闘させています。
あくまでバット製作の過程の話と判断しています。
(単純に作者に戦闘描写を書くスキルが無いだけです……)
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