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【第五章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第二章:寄り道? いいえ、大事なフラグです

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21:迷い森への旅立ち――静かなるフラグの音

 ソーマたちは、王都を出発する北行きの定期便馬車に揺られ、目的地であるガスト村を目指していた。


 途中に立ち寄ったグルン町は、こぢんまりとした山間の町だったが、予想以上に活気にあふれていた。

 石畳の通りには小さな屋台が並び、焼きたてのパンの香りや、香辛料をたっぷり使った串焼きの匂いが旅人たちの鼻をくすぐる。

 ソーマたちも軽く腹ごしらえしつつ、装備の確認や道具の補充を済ませた。

 屋台で料理ができるのを待っている間に店主がこんな話をしてきた。


「迷い森に行くつもりかい。あそこにはな、道しるべを狂わす風が吹くって話だ。まっすぐ歩いたつもりでも、気づけば同じ場所に戻ってるんだとよ……気をつけなされや」


 おどけたように笑っていたが、その目はどこか真剣だった。

 その晩、ソーマたちはグルン町の宿に一泊し、翌朝早くに再び馬車に乗り込んだ。


 それから半日。

 ついに、ガスト村へとたどり着いた。

 ガスト村は、山の斜面と深い森に抱かれるように存在する小さな集落だった。

 木々の間から差し込む光は柔らかく、空気はどこまでも澄んでいて、吸い込むたびに肺が洗われるような気がする。

 けれど、その清らかさの裏側に、なにか見えない緊張感のようなものが張り詰めているのをソーマは感じていた。


「……空気がちょっと違うね。澄んでるけど、どこか張り詰めてる」


 そうつぶやいたクリスが、森のほうを見ながら眉をひそめた。

 たしかに、静かすぎる。

 風の音ひとつとっても、どこか人を遠ざけるような感触があった。


 馬車を降りると、村の子供たちが興味深そうにこちらを見つめてきた。

 旅装の冒険者が訪れるのは珍しいのだろう。

 だが、その視線の奥にも、どこか影のようなものがあった。


「まずは、薬草採取の依頼主に会おう。確か名前は……エキボスだったな」

「うん、村の診療所を営んでるってギルドの書類にあったよ」


 村の中心にある、木材で丁寧に組まれた建物。

 そこがエキボスの診療所だった。

 軒下には乾燥中の薬草が吊るされ、窓からはかすかに薬草を煮詰めたような香りが流れ出していた。


 扉をノックすると、数秒後に軋んだ音を立てて中から現れたのは、中年の男性だった。

 頬に三筋の傷跡、鋭い目つきと、腰に提げられた草刈り鎌が目を引く。

 どこか戦士の風格を残す雰囲気があった。


「ほう、お前らが今回の依頼を受けた冒険者か。俺がエキボスだ。……グレイ草の件だな?」

「はい。迷い森の奥、ターキン樹海に自生しているという植物ですね」

「そうだ。グレイ草は、朝露を好むんだ。日が昇りきる前の、まだ空気が湿っている時間帯が狙い目だ。葉は三つ葉に似ていてな、青地に黄色い筋が入ってる。そして、触るとほんのり温かい」

「温かい……それって、魔力反応があるってことですか?」

「ああ。魔力を取り込んで、それを体内で精製する性質があるらしい。疲労回復や、軽度の精神混濁に効くとされている。重宝する草だが、採取は危険を伴う」


 エキボスはそう言いながら、机の引き出しから押し葉の標本を取り出して見せてくれた。

 実際に触れてみると、確かに、じんわりと指先に温もりを感じた。


「すごい……これなら確かに、見分けられるかも」

「気をつけろよ。迷い森――ターキン樹海は、地図に頼るな。目印を付けたつもりでも、気づけば消えていたりする。不思議な力が働いてるんだ」


 その言葉には、ただの忠告では済まされない、深い警戒心が滲んでいた。


 診療所を後にしたソーマたちは、村の宿屋に入った。

 建物は年季の入った木造平屋だったが、掃除が行き届いていて、部屋も快適だった。

 女将さんは朗らかな人で、手作りのシチューをふるまってくれた。


 夕食の時間。

 ソーマたちが食堂でくつろいでいると、他の宿泊客――村の漁師や猟師たちの会話が耳に入ってきた。


「……結局、あの冒険者たち、戻ってきてねえのか?」

「ああ、パーティーK。出てから一週間だ。ギルドに報告はしたが、望みは薄いだろう」


 パーティーK。

 ギルドでも話題になっていた行方不明者調査の対象だ。


「すみません、その……パーティーKについて、詳しく教えていただけますか?」


 声をかけると、年配の男性がこちらを振り向いた。


「三人組だった。若い男がリーダーで、名前はミルト。女の子が二人いて、アンジーとエリック。腕は悪くなかったが……迷い森は、初めてだったらしい。薬草採取のついでに森の奥も調査すると言っていたが、それっきりさ」


 女将さんも、手を止めて心配そうに口を挟んだ。


「昔はね、森に入ったまま戻らない人なんて年に数人はいたけど……ここ最近は、もっと多い気がするのよ。なにかが、変わってきてるのかもしれない」


 静かな夜に、重くのしかかるような空気が満ちた。


 けれど、それでも――ソーマたちは、行くしかなかった。


 翌朝、装備と荷を整え、出発準備を終える。


「装備チェック完了。ポーション残量、問題なし」

「森の霧が濃くなる前に行こう。午前中の方が、少しは安全だと思う」

「……よし、迷いの森の入口まで行こう」


 目的は二つ。

 トレントの木材の確保、そして薬草の採取。

 そして可能であれば、パーティーKの痕跡を追うこと。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 一時間後。

 ソーマたちは、ついに迷い森――ターキン樹海の入口にたどり着いた。


 森の境界線は、まるで異なる空間がそこにあるかのような、不思議な気配をまとっていた。

 ねじれた枝が天を覆い、昼間にもかかわらず中は薄暗い。

 風が吹けば葉が揺れ、その音がまるで誰かのささやきのように聞こえる。


「深呼吸して……いこう。俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ」


 そう言って、ソーマたちは一歩、迷いの森の中へと足を踏み入れた。

 最後のセリフ書き終えてから勝手にフラグっぽくなってるなぁと思いつつそのままにしておきます。

 その時の気分で書いてるといつのまにかフラグっぽいセリフを書くようになっています。


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