2:パーティー追放は新しい物語の始まりフラグ
「ごめん、ソーマ。君には──このパーティーから、抜けてもらう」
クエストを終え、宿屋で一息ついた直後だった。
パーティーリーダーのユーサーはそう言い、一枚の紙を差し出した。
黒髪の青年──ソーマ・フラハは、その言葉を飲み込みきれずにいた。
わずかに遅れて反応し、平静を装って問い返す。
「今さらどうして? ここまで一年、うまくやってきただろう?」
ユーサーの隣で、眼鏡をクイッと上げたのは頭脳担当の魔法使い、エーデル。
「そんなことも分からないんですか? 前衛、回復、斥候、タンク、攻撃支援。ソーマさん以外全員、明確な役割があります」
口ぶりは冷たく、まるでソーマだけが輪から外れた存在のように言い放つ。
「俺だって戦ってるし、身の回りのサポートでも役に立ってる……フラグだって──」
「またそのフラグとやらか……」
割って入ったのはユーサーだった。
表情は穏やかだが、声に揺るぎはない。
「君が前から言っているそのフラグ――僕たちには発動しているのかすらわからない。ソーマ、正直に言ってくれ。君はギフトを使いこなせているのか?」
ユーサーはソーマの目を見る。
そこには指揮官としての冷静さと、決断の覚悟が混ざっていた。
「僕たち【栄光への架け橋】は、いずれ復活する魔王を封じるために活動している。今が勝負どころだ。ギフトを使いこなせない君を、この先も連れていく余裕はない」
ため息混じりに続けたのは回復役のシオニーだ。
「アンタがやってることって誰でもできるのよ。剣を振って、素材拾って、雑務こなしてるだけ。 フラグってのもあるのか怪しいもんだわ」
エーデルは冷静に眼鏡を押し直し、事務的に告げる。
「脱退手続きはソーマさんの方でお願いします。脱退届にはリーダーのサインを書いてあります。私たちは今後の方針を話し合いたいので」
既成事実のように淡々と進む。
誰もが次へ目を向けている——ソーマ以外は。
ソーマは声が出なかった。
『今まで、世話になった』――その一言がどうしても出ない。
言ってしまえば、本当に終わる気がしたから……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
この大陸では十歳になると教会で神からギフトを授かる。
剣や魔法など戦闘向けのもの、鍛冶や錬金など生産向けのもの──形はまちまちだが、誰もが何かしらの力を持つのが常識だった。
ギフトを理解し使いこなせば、スキルが開花する。
王国はそれを育成するために学園制度を整え、封印されている魔王復活に備えていた。
ユーサーは勇者の卵、シオニーは聖女の卵。
卵は複数人おり、魔王の復活に合わせて、ふさわしい者が勇者、聖女に昇格するギフト。
王国が期待を寄せる、いわば本命たちだ。
──そんな中で、ソーマに与えられたギフトは【フラグ】
神父すら首をかしげた、意味不明な名称。
スキルと言えば、出るのはただ一文。
《フラグが発生しました》
──脳内に現れる謎の通知だけ。
その表示は決まってピンチのときに現れ、ソーマはそれを合図に周囲に注意を促してきたがユーサーたちは気に留めなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【栄光の架け橋】はCランクに昇格し、これから任務はさらに激化する——だからこそ、ユーサーは迷わず決断を下した。
「ソーマがいつも努力しているのは知っている。だが今は妥協できないんだ。僕たちは前に進む」
ユーサーの声に迷いはなかった。
覚悟を決めるべきはソーマだと告げる口調だった。
「……分かった。ここまで一緒にいてくれて、ありがとう。ユーサーたちの邪魔にはならない。魔王を封じるその日を応援してるよ」
それだけ言うと、ソーマは小さく一礼して脱退届を受け取った。
部屋を出ると、廊下の先には夕焼けが差し込んでいた。
暖かな光が差し込む。
しかし、その光は今のソーマには冷たく、遠い。
(さて、これから、どうするか)
落ち込んでいる暇はない。
確かに、今のソーマには何もない。
だが生きるしかない。
ギフト【フラグ】──まだ分からないことだらけ。
けれど、意味があるはず。
神様が与えたものに、無意味なものなどないと信じて……
「……必ず、使いこなしてみせる。このフラグを」
誰にも聞かれないように小さく呟き、ソーマは脱退届にサインをした。
終わりじゃない。
むしろ、ここからが始まりだ。
ソーマ・フラハの物語は、ここからだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「今後のことか……どうするか、考えないとなぁ……」
荷物をまとめ終えたソーマは、ぽつりと独りごちた。
最後にもう一度、宿屋の部屋を見渡す。
その視線が止まるのは──壁に立てかけられた、大きな旗。
それはユーサーたち【栄光への架け橋】を象徴する旗だった。
ソーマはギフト【フラグ】を授かった時、フラグ=旗だと思い付き、色々な試行錯誤をしてきた。
旗を武器代わりに振ってみたり、応援のために掲げてみたりした。
学園のイベントでは装飾用の旗を自作し、文化祭では『宣伝旗』なるものを生み出した。
その宣伝効果は抜群で、実際に商業ギルドの目にとまり、思わぬ大金を手にしたこともある。
旗に学園生活を懸けてきたといっても、過言ではなかった。
学園ではギフト研究会に所属し、ソーマの様な謎のギフト持ち同士でギフト研究に時間を費やした。
ギフト【鑑定】を持つ姉にも鑑定してもらった。
表示された説明文は──『フラグを管理する』。
旗を管理するという意味がわからなかった。
ソーマがここまで旗にこだわる理由がギフト【旗】を授かった伝説の英雄ヴァンの物語があるからだ。
勇者と聖女を支え、常に戦場で旗を掲げ、仲間を導いたと言われる存在。
ソーマもまた、そんな導き手になりたかった。
だからこそ、学園でも、クエストでも、率先して仲間を支えた。
剣や体術は田舎の道場で父や母に叩き込まれたもの。
ギフトがなくても、最前線で戦い抜く自信はあった。
ある日クエストの最中にスキル【フラグ通知】が解放されたがその効果は『フラグが発生しました』という謎の通知が表示されるだけ。
その瞬間、旗はただの思い込みに過ぎなかったと知った。
学園時代に全力でやってきたことが、無意味だったように思えた。
それでも、この旗だけは違う。
パーティーに入ってから、ソーマ自身のイメージを形にして全力で作り上げた渾身の一枚だ。
中央に描かれたのは栄光へと続く壮大な橋。
夜空に瞬く星々と、その先に広がるまばゆい光。
金色を基調に、背景は清らかな青。
縁には気高さを示す金の装飾を施した。
完成したとき、ユーサーは『この僕にふさわしい旗を作ってくれたな』と褒めてくれた。
(これ……持って行っていいのか?)
これはソーマが自腹で作ったものだが、パーティーの象徴として掲げてきた旗。
このまま残せば、きっとソーマが抜けた後も彼らが使うだろう。
いや……もしかすると二度と広げられることはないかもしれない。
けれど、捨てられてしまうのは嫌だった。
最後の挨拶も兼ねて、ソーマはこの旗についてユーサーに聞いてみることにした。
追放の一言から物語を始めると決めていました。
まだ出てきていないし今後そこまで書くつもりがあるか作者にもわからんないキャラの名前考えてる時に「Aの名前とBの名前をこういう風にすればこういう事にできるやんけ、わし天才か」と勝手にウキウキしてます。
主人公もこっちにした方が名前の響きが良い気がするとかまだ出てきてもいない父親の名前をこの設定追加したからこうするとおもろいやんけとコロコロ変わりました。
思い付いてすぐ行動するのってたまに怖いねって話です。
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