19:バット製作フラグ発生
数十分後、ソーマたちは商業ギルドの裏手にある細い路地を抜け、小さな鍛冶屋の前に立っていた。
建物は石と木で組み合わされた、無骨で重厚な造り。
壁には長年の煤がこびりつき、年季の入った扉はその歴史を物語っている。
まるで鍛冶そのものが息づいているような、そんな空気があった。
入口には『悪・即・斬』と彫られている大剣がありこれが鍛冶屋の名前なのだろう。
恐る恐る扉を押し開けると、すぐに金属が打ち鳴らされる音と、むっとした熱気、そして獣のような、あるいは焼けた木のような重い匂いが一気に押し寄せてきた。
「うわっ……!」
思わず顔を背け、軽く咳き込む。
だが、その一瞬の隙に、鋭い視線が奥から飛んできた。
「誰だ……って、リンの紹介か。だったら、まあ入るがいい」
奥の作業台から現れたのは、全身筋骨隆々の――ドワーフだった。
腰まで伸びた灰色の髭に、すすけた皮のエプロン。
肩口に火の粉が舞ってもまるで意に介さず、がっしりとした腕で鉄槌を握る姿は、まさに職人そのものだった。
背丈は小柄なドワーフ族には珍しく人間族の俺と同じ位なのだが、その鋭い目と全身から滲み出る迫力は、どんな大男にも劣らない威圧感を放っていた。
「俺の名前はゼルガン。お前が、バットとやらを作ってほしいって奴か。――よし、まずは話を聞こうか。どんな代物だ?」
「はい。ええと、まず長さは――これくらいで、重さは片手で振り抜けるくらい。でも両手で持てる太さがあると嬉しいです。しなりがあって、強く打ち出せるような……」
「……つまり、剣でも棍棒でも槍でもない――しなる打撃武器ってことか」
「そう、それです!」
「ふむ……面白いな。普通の武器屋じゃまず扱わいだろうな。前例もないし、作り甲斐がないと判断される」
ゼルガンは顎に手をあてながら、じっとソーマの説明を噛み締めている。
そして、ふっと笑みを浮かべた。
「だが――作れなくはない。ただし、条件がある」
「条件……ですか?」
「ああ。お前が求める性能を満たすには、普通の木材じゃまるで話にならない。鋼をしのぐ密度と弾性、それを兼ね備えた素材が必要だ」
そう言って、ゼルガンさんはカウンターの奥から木の欠片を取り出した。
「見ろ、これがトレントって魔物の木材だ。こいつを削って芯材にすれば、お前のバットってやつも、実戦に耐える代物になる」
「トレント……って、あの森に潜んでるっていう……?」
「そう。トレントは魔樹の魔物だ。姿を見せず、木に擬態し、獲物が近づくのを待ち伏せる。しかも、硬い、重い、動きも速い。正直、お前らならギリギリだろうな。しかもただトレントの枝じゃだめだ。ある程度の耐久性を求めるならトレントの胴体が必要だな。この辺で手に入るもんで、これ以上の素材はねぇはずだ」
ゼルガンの視線が鋭くなった。その言葉には、明らかな試す意図が込められているのが分かった。
だが、それでも――
「でも、やってみます。素材が手に入るなら、行きます。俺、欲しいんですよ。最高のバットが」
ソーマの言葉に、ゼルガンの目が見開かれ、そして一気に顔が崩れた。
豪快な笑い声が、工房の中に響く。
「フッ……いい目をしている。そうでなければな」
笑いながら、ゼルガンは炉の脇から丸めた紙を取り出し、作業台に広げた。
そこには、詳細な地形と、複数の印が記された地図。
「王都から町を二つほど超えた北の村の近くに、迷い森って呼ばれるターキン樹海と呼ばれる領域に、トレントの縄張りがある。そこへ行って、トレントの胴体を持ち帰れ。それができたら、俺がバットと……」
ゼルガンはニヤリと笑い、言葉を続けた。
「杖も作ってやる」
「杖?」
「そっちの娘、魔法使いなんだろう? トレントの素材は魔力との親和性が高くてな。扱いやすく、発動速度も上がる。最高の素材だ」
「えっ、わ、私の分まで……? 本当に、いいんですか?」
隣にいたクリスが、驚きと感動を隠せない表情で声を上げた。
ゼルガンは力強くうなずき、拳を突き出してくる。
「行ってこい、坊主。最高の素材を持って帰ってきたら――俺がこの世に一振りだけの武器を、作ってやる!」
ソーマも無意識に拳を合わせていた。
「ありがとうございます。絶対、持って帰ってきます」
こうして――
ソーマの武器調達は、思わぬ形で素材調達の冒険へと変わった。
次なる目的地は、北方の迷い森。
その奥に潜む、危険な魔獣トレント。
でも、それでもソーマたちは行く。
この世界で、ジョッシュだけのバットを手にするために――!
実際バットで魔物殴ると耐久力ってどんな感じなんですかね。
魔物素材と魔力込めたら頑丈になったっていう設定で乗り切ろうと思います。
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