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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
最終章:大団円?いいえ、未来へのフラグです

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150/152

150:フラグが祈る時

 ――それは、災厄の化身だった。


 魔王を取り込んだヴェリグラトスは、もはや異形の怪物ではない。

 その体表を覆う装甲は溶け、金属と筋肉が蠢く肉塊となっていた。

 血の代わりに黒い瘴気が流れ、骨のように伸びた翼は空間を裂く。

 その眼窩に宿る赤い光は、まるで地獄の灯火。

 ――存在そのものが、災厄そのものだった。


 聖女クリスの放つ光でさえ、完全にはその黒を押さえ込めない。

 それでも、彼女は立ち続けた。

 両手を広げ、祈りを絶やさず、聖光を灯す。

 隣では、アルマが静かにその光を重ねていた。


「……お母さん……!? どうして……聖女の光が……!」


 驚く娘に、アルマは穏やかに微笑んだ。


「……クリス。あなたの祈りが、私を繋ぎとめてくれたの。あなたが聖女として覚醒したから、私もこの光に呼ばれたのよ」


 母娘の二重の光が交わり、瘴気を押し返す。

 その純白は、闇を裂く双つの星のようだった。


 ――二人の聖女。


 その異常を、神々は見逃さない。



「……ありえない」


 ヴェリディスが低く呟いた。


「聖女は一人、創造神の祝福を受ける唯一の器。二人など、存在してはならない!」

「……魔王を歪に取り込んだせいかもね」


 ヴェリクが顔をしかめる。


「この世界の秩序が狂っている。因果そのものが割れているようだ」

「ふふ……だとしても、私たちの優位は変わらないわ」


 ヴェリディスが右手を上げると同時に、

 ヴェリグラトスの翼が大きく広がった。


 黒い羽が嵐のように舞い、空を覆う。

 羽が地に触れるたび、岩が溶け、毒の風が吹き荒れる。

 瘴気の圧が増し、聖女の光が押し返されていく。


「くっ……! 防ぎきれないっ!」


 クリスが悲鳴を上げる。

 エルーナが膝をつきながら銃を構えた。

 蛇嵐機構(ヴァイパーストーム)が高音を鳴らし、蒼い魔力の風を纏って回転を始める。


「――私の全部……もっていけぇッ!!!」


 彼女の指が引き金を引いた。

 光の弾丸が風を裂き、嵐の中を貫通する。

 一発ごとに魔法陣が展開され、炎、氷、雷、風――四属性の弾丸が連鎖的に爆ぜ、ヴェリグラトスの翼を焼く。

 凄まじい反動で彼女の肩が軋む。

 それでも撃ち続けた。


「止まれぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 嵐のような銃撃が黒の羽嵐を削り取り、

 ジョッシュがその隙を突いて突進する。


「今よ、ジョッシュ!」

「任せろォッ!!!」


 彼の竜炎撃棒(ドラグスマッシャー)が赤熱し、地を砕く。

 火柱が立ち昇り、黒い触手を焼く。

 だが――焼いても焼いても、再生が追いつく。

 黒い肉塊が泡立つように再構成され、触手が伸びる。


「チッ、まるで生きた呪いだな……!」

「やはり、魔王の力が混ざっているのです……!」


 アルマが息を呑む。

 ソーマは前線へ飛び出した。

 竜機剣(ドラグニル)を構え、闇を裂くように跳躍する。

 刃が閃き、魔王の黒に斬りかかる――


 が、届かない。

 まるで世界そのものに弾かれたかのように、斬撃が滑る。


 ヴェリグラトスの反撃がくる。

 地を穿つような衝撃波。


「ぐっ……あああああぁぁッ!!!」


 ソーマは吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。

 胸が焼けるように痛み、視界が揺らぐ。


「ソーマさんッ!」


 クリスが駆け寄ろうとするが、尾が迫る。

 アルマが光の盾を展開し、それを受け止めた。


 ――ギィィィィィィィィンッ!!


 激突。

 聖光と闇の波動がぶつかり、空気が震えた。


 二人の聖女が祈りの言葉を重ねる。

 双つの声が共鳴し、光が黒を弾き返す。


 その瞬間――

 ソーマの脳内に、あの声が再び響いた。


《――フラグシステム、再接続します。死亡フラグへの干渉を開始》


 だが、以前と違う。

 無機質な機械音に、微かな温度が宿っていた。


《提示:……耐えてください。あと少しで……彼が――》


「彼……?」


 ソーマが眉をひそめる。

 この声――どこかで聞いたことがある。

 懐かしいような、胸の奥を掴まれるような響き。


《この物語は……終焉に向かっています。しかし、あなたが壊す時――私は、あなたの味方です》


 機械音に似た声が、一瞬だけ人の声に変わった。

 そして、ノイズが弾ける。


「ま、待て……! お前、誰だ……!?」


 叫ぶが返事はない。

 ただ、残響のようにノイズだけが残った。


 現実に引き戻された瞬間、ヴェリグラトスが咆哮する。

 地が裂け、空がねじれる。


「ソーマさん、危ない!!」


 黒い爪が襲う。

 聖光が受け止めるが、完全には防げない。

 ソーマの肩を掠め、血が舞った。


「……ぐ、あ……ッ!」


 膝をつく。

 息が荒い。

 魔力も限界。


 それでも、諦められなかった。

 目の前に奇跡があるのだから。

 母娘二人の祈り。

 仲間たちの命を賭けた戦い。


 ――絶対に、繋げなければ。


「うおおおおおおおおおおッ!!!」


 叫びと共に立ち上がる。

 再び剣を構え、ヴェリグラトスに斬りかかる。


 だが、怪物の突進がそれを迎え撃った。

 翼が地を打ち、空気を爆ぜさせる。


「ソーマッ!」

「避け――!」


 間に合わない。

 衝撃波が直撃し、ソーマの体が宙を舞う。

 壁に叩きつけられ、血が吐き出された。


 ――もう、動けない。

 視界が滲み、意識が薄れていく。


「ソーマさんッ!!!」


 クリスの悲鳴。

 光が彼に伸びる――が、その光も押し返され始める。


 闇が勝る。

 世界が飲み込まれる。


 ――その時だった。


 ズガァァァァァァァァァァンッ!!!


 轟音が鳴り響く。

 ヴェリグラトスの右腕が、突然、斬り落とされた。


「なっ……!?」


 ヴェリグラトスが咆哮を上げる。

 直後、空に幾重もの魔法陣が展開された。

 炎、水、雷、氷、風――無数の属性が入り混じる。

 奔流のような魔法が降り注ぎ、炎の竜が空を焼き、氷の槍が翼を貫く。

 ヴェリグラトスがのけぞり、爆煙の中に沈む。


 その中から、一陣の風。


「おいおい……ずいぶん苦戦してんじゃねぇか」


 その声に、ソーマの瞳が見開かれた。

 砂煙の中から歩み出る、一人の男。

 片手に煌めく刀。

 全身傷だらけ、それでも笑っている。


「父さん……!」


 ケンが無言で手を差し出す。

 その手は熱かった。


「立てよ、ソーマ。最後の仕上げだ。お前がいなきゃ、締まらねぇ」


 その背後には――ラン、ゼルガン、そしてエーメル。


「遅れてごめん!」

「よく耐えたな」

「でも、ここからは一緒よ」


 ソーマの胸に、熱いものが込み上げる。

 仲間の顔が、涙で滲んだ。


「……全く……無茶ばかりして……!」

「お互い様だろ?」


 ケンが笑い、ソーマも笑い返す。

 彼の手を強く握り返す。

 ずしりと重く、確かな生の感触がそこにあった。



「行くぞ、ソーマ」

「ああ。終わらせる」


「行くぞ、ソーマ」

「ああ。終わらせよう」


 二人の視線が交差する。

 その背後で、二人の聖女の光が再び高まる。

 白金の輝きが空を覆い、黒を浄化する。


 双つの奇跡と、仲間の再集結。


 ――終焉の戦いは、ここからが本番だった。


 ヴェリグラトスが吠える。

 世界が震える。

 だがもう、誰も怯えてはいなかった。


「みんな、行くぞ! これが……俺の……俺たちの物語だッ!!」


 竜機剣(ドラグニル)が紅蓮に輝く。

 ケンの刀が閃く。

 エルーナの銃口が唸り、ジョッシュが炎を纏う。

 ゼルガンの大剣が天を裂き、エーメルの魔法陣が輝く。


 そして、二人の聖女の光がすべてを包み込む。


 八つの光が一つの希望となり、

 黒き神を討つための反撃が、今、始まった。

 ここは俺に任せて先に行けと言って主人公を送り出し、主人公のピンチに合流。

 熱い展開ですよね!


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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