15:王道じゃない、それが俺たちのフラグ
朝靄の残る中、ソーマたちを乗せた馬車はゲシュ町を離れ、王都へと戻ってきた。
無事に依頼をこなし、こうして帰ってこられたのは喜ばしいはずなのに、どこか心の奥に鉛のような疲労感が残っている。
それは体の疲れではなく、精神的なものだった。
馬車の揺れに身を任せながら、ぼんやりと窓の外を眺めていたソーマに、隣のジョッシュが大きく伸びをしながら声をかけてきた。
「いや〜、やっぱ王都の空気は落ち着くな! あの町も嫌いじゃなかったけど、なんかこう……濃かったな、空気が」
ジョッシュの言う濃さが、空気のことじゃなく、あの異質なダンジョンやゴブリンジェネラル、そして背後に感じた何者かの影にあるのだと、ソーマはわかっていた。
「……ああ。俺もだ。でも、こうして無事に戻ってこれてよかったよ。本当に」
自然と漏れた言葉は、紛れもない本心だった。
帰れる保証なんてどこにもなかった。
それでもソーマたちは力を合わせて、命を賭けてこの任務をやり遂げた。
今は、ただその事実に安堵したかった。
だけど同時に、こうして戻ってこられたということは――
ここからがソーマたちの本当のスタート地点なのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドの扉を開けた瞬間、懐かしい喧騒と汗と革の混じった匂いが鼻をついた。
武器を磨く音、笑い声、依頼のやり取りの声。
王都の冒険者ギルドはいつも通りの活気を取り戻していた。
カウンター奥で帳簿を整理していたメルマが、ソーマたちに気づいて顔を上げるなり、ぱっと目を見開いた。
「ソーマさん!? ジョッシュさんに、クリスさんも! 無事だったんですねっ!」
勢いよくカウンターを飛び出し、まっすぐこちらに駆け寄ってくる。
「本当に心配してたんですよ……! ゲシュ町の報告でダンジョンは見つかったけど、ゴブリンジェネラルまでいたって聞いて……!」
「ご心配をおかけしました。でも、任務は無事完了しました」
ソーマがそう言うと、メルマは目を潤ませながらも笑顔になり、安堵したように胸に手を当てた。
「……よかった。本当に、よかった……! ちょっと待っててくださいね、ギルドマスターに報告してきます!」
そのままくるりと踵を返し、奥へと走っていった。
数分後、ギルドマスターの部屋へと案内された。
分厚い書類の山を前にしていたカルヴィラは、ソーマたちの姿を見るなり席を立ち、真剣な面持ちで頭を下げた。
「戻ってきたか、ソーマ君……まずは、本当にすまなかった。たかがゴブリン、そう判断したのは私の落ち度だ。まさかBランク個体のジェネラルまで出現するとは予測していなかった」
「顔を上げてください。俺たちも、あれが普通じゃないってことは感じています。あれは……何かがおかしかった」
ソーマの言葉に、カルヴィラさんはしばし考えるように目を閉じ、そして深くうなずいた。
「……そうか。まあ、よくぞ生きて戻ってきた。ゲシュ町のギルマスから概要は報告を受けている。お前たちはダンジョンの調査、そしてダンジョンブレイクまでやってのけた……」
カルヴィラの目が鋭くなる。
「その功績をもって、正式に君たちのランクを一段階引き上げる。――Cランク昇格、おめでとう」
「……!」
言葉が出なかった。
夢見ていた言葉だった。
だけど、目の前でそう告げられると、実感というより重みが胸にのしかかってきた。
「おおお! やったな、ソーマ!」
ジョッシュがガッツポーズを決め、クリスも柔らかく微笑む。
「ただし――」
カルヴィラさんが声を低くして続ける。
「Cランクからは冒険者チームとして、より責任ある依頼を任されるようになる。君たちには仲間がいる。その仲間を守り、共に歩むことが求められる。そして、もう一つ」
カルヴィラは引き出しから一枚の用紙を取り出し、ソーマたちの前に差し出した。
「パーティー名を決めろ。Cランク以上は組織として登録される。その象徴が、名前だ」
「実は……もう決めてあります」
ソーマの言葉に、ジョッシュがにやりと笑い、クリスも小さくうなずいた。
ソーマもこの名前を決めた時の事を思い出し、うなずきながら、紙に一文字ずつゆっくりと記した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
王都へ戻る馬車の中、ソーマたちはパーティーとしてやっていく覚悟を確かめ合った。
「パーティー名、そろそろちゃんと決めないとな」
ジョッシュが言い出した。
「兄さんが色々案を出してくれましたけど、どうにもピンと来なくて……」
「結局、最後はソーマに託されたってわけだ」
苦笑するジョッシュに、ソーマは静かに一つの言葉を口にした。
それは前世で引き分けに終わった野球中継の時に読んでいた漫画のタイトルにもなっていた言葉だった。
「なぁそれってどういう意味なんだ?」
「……迷う、道を外れる、そんな意味があったような?」
クリスが首を傾げる。
「そう。でもそれだけじゃない。この言葉には、もう一つの意味があると思うんだ。『王道ではない』ってことは――『自分の信じた道を進む』っていう、強い意志の表れでもあると思うんだ」
「信じた道……か」
ジョッシュがぽつりと呟く。
「私も……この名前、好きです」
クリスが静かに微笑んだ。
「俺たちは、謎のギフトを持ちながらも冒険であろうと抗い、クリスは聖女の卵だけど使命に従わない。でも、それって自分の意思で歩いてるってことだろ? だから、俺はこの名前がいいと思った」
「……なるほどそういう事か。うんいいんじゃないか」
「決まりだな。俺たちは……」
ジョッシュが拳を握る。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
【アストレイ】
「意味は王道ではない――自分だけの真念を持ち、道を進む者たち。道を探し、旅をしながら、時に運命に逆らってでも進む。俺たちは、そんな存在でありたいと思います」
「ふっ……悪くないね」
カルヴィラが鼻を鳴らしながら言った。
「よし、それじゃあ【アストレイ】、本日をもってCランクとして正式登録だ!」
後ろで、メルマが満面の笑みで拍手していた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドを出て、三人はおなじみの猪熊亭へと向かって歩いていた。
王都の夜は穏やかで、家々の窓から漏れる灯りが、まるで星のように瞬いていた。
「【アストレイ】か……うん、なんか俺たちらしいよな」
ジョッシュがぽつりと呟く。
「ああ。たとえ道に迷っても、また歩き出せばいい。自分たちの道を信じて」
この世界に来て、いろんなことがあった。
それでも、ソーマはは選んだ。
迷いながらでも、この世界で生きていくということを。
そして――これからは、仲間とともに。
彷徨う者たち【アストレイ】の旅路は、ここからが本番だ。
まだ見ぬ地へ、まだ知らぬ真実へと、ソーマたちは進み続ける。
その歩みに、名前がついた。
それはきっと、ひとつの始まりだった。
赤い枠、一番好きなMSです。
ロボットに日本刀とかロマンの塊じゃないですか。
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