145:前世の武器フラグ
――魔王城の内部は、生きていた。
壁は黒く脈動し、血管のような紋様が赤い光を流している。
足を踏み出すたびに床がわずかに沈み、どこかの鼓動と同調しているようだった。
金属の焦げたような臭いと、濃密な瘴気が肺を焼く。
「……これが魔王城の内部か」
ソーマが呟く。
回廊は果てが見えず、延々と続く闇が彼らの視界を飲み込んでいた。
天井からは黒い液体が滴り、時折、耳障りな機械音のような軋みが響く。
「俺たちが来た時より……不気味になってやがるな」
ケンが警戒しながら低く呟いた。
「魔王の封印が解けかけてるだけでなく強くなっている……その影響かもしれませんね」
アルマが祈るように手を胸に当てる。
張り詰めた沈黙。
その静寂を破ったのは、エルーナの声だった。
「来るよ――前方から多数の反応!」
竜眼照準で周囲を索敵していたエルーナの声に全員が反応する。
ソーマが剣を構えた瞬間、闇を裂いて轟音が鳴り響く。
影が爆ぜ、魔族たちが飛び出した。
その群れの中に――見覚えのある形状があった。
「……あれ、なんだ?」
ジョッシュが目を細める。
ひとりの魔族が肩に巨大な筒を構えていた。
金属製の円筒。
後方には噴出口のような穴。
ソーマの脳裏に、かつての世界の戦場映像が閃く。
耳に蘇る爆音、光、衝撃、破壊の連鎖。
(まさか……あれは――!)
ソーマは反射的に叫んだ。
「アルマ様! 全員の前に防御魔法を!!」
アルマが詠唱を完了する刹那、筒の口が閃光を放つ。
――ドォンッ!
爆音と共に炸裂する炎弾。
空気が焼け、衝撃波が押し寄せ、アルマの結界が震えた。
「くっ……な、なんですか、これは!?」
クリスが悲鳴に似た声を上げる。
ソーマは即座に判断した。
「バズーカだ! 要は……爆発を撃ち出す兵器だ! エルーナ、銃口を撃ち抜け!」
「了解――っ!」
蛇眼銃が唸りを上げ、閃光を吐く。
弾丸が空を裂き、金属の筒の先端を正確に撃ち抜いた。
――次の瞬間。
爆音が巻き起こり、火球が咲く。
内部の弾が誘爆し、魔族ごと爆散した。
「あれくらいの穴なら余裕よ……!」
エルーナが息をつく。
しかし、休む間もなく別方向から影が飛び出す。
棒を振り回す魔族。
だが、それは普通の棒ではなかった。
三つの節が鎖で繋がれている。
「――三節棍だと!?」
ソーマが驚愕する。
魔族の武器が唸りを上げ、ジョッシュのバットを弾き飛ばす。
「うおっ!? こいつ、動きが速ぇ!」
さらに背後から――唸る金属音。
ガリガリガリ……ギギギギギギ!
見ると、別の魔族の手には回転する刃。
油と金属の匂いが混じる――チェーンソー。
さらにもう一体は両腕に鉄管を抱え、先端から炎を吐き出す。
地を焼き、壁を舐める赤熱の舌。
「火炎放射器……だと!?」
ソーマは叫ぶ。
「おい待て! それ全部、この世界にはないはずの武器だろ!? 誰が持ち込んだ!?」
ランが振り返り、混乱を隠せず叫ぶ。
「ソーマ、どういうこと!?」
「説明してる暇はない! アルマ、防御魔法を! ジョッシュ、前に出るな! あの炎は鎧ごと焼く!」
熱波が押し寄せ、空気が歪む。
アルマが防御結界を再展開し、轟炎を押し返す。
「ソーマ! どうする!?」
「危険すぎる、近接は不利だ! ――エルーナ、蛇嵐機構を使え!」
エルーナが頷き、蛇眼銃にソーマの知識を基にドワーフたちが完成させた銀色のアタッチメントを取り付けた。
光を帯び、銃身が唸る。
金属が回転し、六門の銃口が展開された。
「――蛇嵐機構、起動。目標、殲滅する!」
次の瞬間――轟音。
暴風のような弾幕が吐き出され、無数の魔力弾が前方を薙ぎ払う。
光の雨が走り、爆裂音が連続して響く。
まるで嵐が地を這うように、敵を飲み込み、引き裂く。
魔族の身体が次々と光に呑まれて崩れ落ちていく。
「うわっ……! これ、すげぇ……!」
ジョッシュが唖然と呟いた。
ソーマが叫ぶ。
「エルーナ、魔力の消費は大丈夫か!?」
返ってきた声は、揺るぎないものだった。
「大丈夫。お母さんが残ってくれたんだもの……私が、その分まで戦うから!」
その瞳は、夜の闇よりも強く輝いていた。
ソーマの胸に熱いものが込み上げる。
(強くなったな、エルーナ……)
その時、ケンが前へ飛び出した。
「よし、俺の出番だな!」
彼の手には一振りの刀――ソーマの知識をもとにゼルガンとドワーフたちが鍛え上げた魂の結晶。
白銀の刃が月光のように煌めく。
「行くぞ――!」
ケンが踏み込み、斬撃が閃く。
一瞬の間に三体の魔族の首が落ちた。
風が切り裂かれ、静寂が戻る。
「……こいつは軽いのに、切れるな。まるで空気ごと裂いてるみてぇだ」
ケンが刃を振り払い、感嘆の息を漏らす。
ソーマは微笑みながらも、心の奥では別の感情が渦巻いていた。
(バズーカ、チェーンソー、火炎放射器、三節棍……どれも俺の前世でしかありえない。偶然じゃない。誰かが前世の知識を知っている。俺と同じように――)
思考の奥に、あの三人の顔が浮かぶ。
だが考える暇はない。戦いは続く。
「よし……ここを突破する!」
ソーマが叫び、仲間たちが頷いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
最後の魔族をソーマが斬り伏せる。
火花と瘴気が散り、静寂が戻る。
「……これで道は開いたな」
ソーマが剣を納め、深く息を吐いた。
疲労が全身を重く包む。だが、誰ひとりとして歩みを止めない。
彼らの目の先には――魔王の封印が待つ最深部。
その奥に潜む真実を、まだ誰も知らなかった。
前世の武器が押し寄せてくる。
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