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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
最終章:大団円?いいえ、未来へのフラグです

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143/149

143:門番のフラグ

 黒き大地を貫くように聳え立つ魔王城が、ついにソーマたちの前にその姿を現した。

 漆黒の尖塔は空を突き破り、濁った雲を突き抜けるほど高く、まるで天そのものを侵食しているかのようだった。

 壁面は黒曜石のように鈍く輝き、そこからは見えぬはずの瘴気が滲み出し、周囲の空気を腐らせていた。


 ただそこに存在するだけで人の心を圧し潰す威圧感。

 胸の奥を氷で締め付けられるような感覚に、誰もが自然と息を呑んだ。


「……でけぇな」


 ジョッシュが喉を鳴らし、乾いた笑いを漏らす。

 それも無理はなかった。

 見上げる城壁は山脈のように連なり、目に見える高さは軽く数百メートル。

 門は巨人すら容易に通れるほどの大きさで、人の理性では測れぬ常識外れのスケールを誇っていた。


「こんなの、城なんてもんじゃないわね……」


 エルーナが小さく呟き、銃を抱え直す。

 彼女の声は強がりに聞こえた。


「……ここが最終決戦の舞台、か」


 ソーマは息を吐く。

 胸の奥で高鳴る鼓動を抑えようとするが、逆に速まるばかりだった。


 ――その門前に、ただ一体の魔族が立っていた。


 黒い甲冑を纏い、異様に長い腕をぶら下げた人型。

 赤く光る瞳がこちらをじっと射抜いている。

 周囲を徘徊していた魔物たちですら、その存在を恐れるかのように距離を取り、誰一人近寄ろうとしなかった。

 その姿は、まさに『門を護る者』にふさわしかった。


「……一体だけ?」


 エルーナが眉をひそめ、照準を合わせる。

 彼女の疑問に、ソーマも無言で頷いた。

 普通に考えれば、魔王城の門を守るのは軍勢や堅固な防衛設備のはずだ。

 だがここにいるのはたった一体の魔族。

 逆に考えれば――それだけで充分ということなのだろう。


「警戒を怠るな」


 エーメルの低い声が響く。

 全員が緊張で息を詰める中、ソーマが一歩前に出た。


 その瞬間、魔族は口の端を吊り上げ、歪んだ笑みを浮かべた。

 そして、地の底から響くような声で告げる。


「――我は門を護る者。何人たりとも、通すことは許されぬ」


 それだけ言うと、ゆっくりと爪を構えた。


「なら、力ずくで行かせてもらうわ!」


 エーメルが即座に詠唱を開始する。

 空気が震え、雷の魔力が唸りを上げる。

 エルーナも蛇眼銃(バジリスクサイト)を構え、魔力を流し込むと、鋭い眼光で引き金を絞った。


 ――轟ッ!


 雷光と弾丸がほぼ同時に魔族を襲った。

 直撃。

 誰もがそう確信した。


「やった……!?」


 だが、次の瞬間。

 エルーナの目が見開かれ、声が裏返った。


「え……なに、これ……!?」


 確かに当たったはずの一撃が、まるで空を撃ち抜いたかのように魔族の身体をすり抜けていた。


「なっ……!?」


 ジョッシュが叫ぶ。

 その刹那、魔族の長い爪が閃いた。


 ソーマは咄嗟に前へ飛び出し、剣を構えて受け止める。

 甲高い衝撃音が響き、手に痺れが走る。

 ――防いだ。そう思った。


 だが。


「……っ!? なんだ、これ……!」


 数秒の遅延を経て、全く同じ斬撃が別方向から襲いかかってきた。

 確かに受け止めたはずの攻撃が、時差を置いて襲ってくる。

 ソーマは弾き飛ばされ、地面を激しく転がった。


「ソーマッ!」


 エルーナが悲鳴を上げる。

 必死に地に剣を突き立て、ソーマは身体を支えた。

 理解した。

 これは防御を失敗したわけでも、攻撃が速すぎるわけでもない。

 ――理そのものが、歪められている。


「……この感覚……まさか……」


 胸の奥で嫌な既視感が広がる。

 ソーマは知っていた。

 これはかつて、前世で何度も目にした現象。


 ――当てたはずの攻撃が当たらない。

 ――避けたはずの攻撃が当たる。

 オンラインゲームの世界を荒らした、あの現象。


「……ラグ……!」


 吐き出すように言葉が漏れる。

 回線の遅延によって生じる不条理。

 それを、この魔族は意図的に再現しているのだ。


「……そうだとしたら……これは、本当にやばい……!」


 ソーマは仲間に警告しようと息を吸った。

 だが、魔族は一歩前に出るだけで、その威圧が場を支配した。


「汝らの刃も、魔法も、我には届かぬ。全ては遅れ、全ては崩れる」


 低く冷たい声が胸を凍らせる。

 ソーマは全身に冷や汗を滲ませた。

 知らなければ――防いだと思った瞬間、誰もが命を落とす。

 それほどに危険なギフトだった。


「みんな、こいつの攻撃は――」


 声を上げかけた時、隣の巨躯が前に出た。


「ソーマ、下がれ」


 ゼルガンだった。

 彼は静かに剣を構え、その瞳は猛獣のように鋭く光っていた。

 誰よりも冷静で、誰よりも揺るぎない気配を纏っている。

 魔族は嗤った。


「剣も、遅れる。汝の刃も届かぬ」


 ゼルガンは答えない。

 ただ、無言で剣を振り上げた。


 その剣は――アスガンドのゴーレム戦で壊れた変形剣ではない。

 魔王との決戦のために、ドワーフたちが総力を挙げて作り上げた新たな武器だった。


 剣の表面が液体のように揺らめく。

 まるで金属そのものが生きているかのように形を変え、瞬く間に巨大な刃へと変貌していく。


「……これは……!」


 ソーマが呟く。

 ドワーフの技術とアスガンドでのみ生産される流体金属から生み出された新たな力。

 これは今までの様な守るための剣ではない。

 ただ斬るためだけに作られた、純粋なる攻撃の化身。


 魔族が爪を振り上げ、空間に歪みを走らせる。

 ラグの波が広がり、未来の斬撃が幾重にも蓄積されていく。

 避けられぬ遅延攻撃。

 だが――ゼルガンは動じない。


「……ここは通させてもらう」


 低く唸るような声。

 次の瞬間、流体金属の剣がさらに肥大化し、城門をも両断せんばかりの大剣へと姿を変えた。


 振り下ろされた一撃。

 空気が爆ぜ、空間を覆っていた遅延の揺らぎごと魔族の身体を一刀両断した。


 ――甲冑が砕け散る音。

 ――血すら残らぬ絶命。


 魔族は悲鳴を上げる暇すらなく、その存在を絶たれた。


 ただ一振り。

 あまりに鮮烈で、仲間たちは言葉を失った。


 流体金属の剣は再び縮み、通常の大きさへと戻る。

 ゼルガンは静かに剣を収め、深い吐息をついた。

「ふっ……門番がやられたか」

「あいつは四天王の中でも最弱」

 これくらいのテンポで最終章は進みます。


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