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【完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
最終章:大団円?いいえ、未来へのフラグです

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141/153

141:上陸のフラグ

 船の揺れが、腹の底を無慈悲に揺さぶっていた。

 荒れ狂う波に合わせて甲板がぎしぎしと軋み、潮の匂いが肺を満たす。


「……う、うぅ……」

「……ぐ、ぐえぇ……」


 甲板の隅で並んでうずくまる二人。

 ソーマとケンはそろって青ざめた顔で、波に合わせて首をぐらぐらと揺らしていた。


「……なんでだ……アルマ様の薬、飲んだのに……」


 ソーマは虚ろな目で呻いた。

 アルマが手ずから調合してくれた船酔いの薬は、前回の航海では奇跡的な効果を発揮してくれた。

 だが――今回は違った。


「……効いては……いるはず……だ。……ただ……この海……おかしいくらい荒れてる……」


 ケンは必死に言葉を繋ぐが、その直後、また真っ青な顔を押さえて黙り込む。

 聖女の奇跡すら追いつかないほどの荒波。

 甲板を叩きつける波しぶき。

 空を裂くような風。


 それでも――船はびくともしなかった。

 黒鉄の船体は要塞のように安定しており、ドワーフの船員たちは休みなく舵を握り、帆を張り替え、笑いながら声を掛け合っている。


「……なぁ、ソーマ……」

「ん……?」

「俺たち……死にそうなのに……なんであいつら……笑ってやがるんだ……」


 ケンが死にそうな顔で呟き、ソーマも吐き気に顔を歪めながら天を仰ぐ。

 甲板を走るドワーフたちは、むしろ嵐を楽しんでいるかのように豪快に笑っていた。

 そんな中で、ソーマは気付いていた。

 隣のケンが、何度もこちらを見ては口を開きかけ、すぐに飲み込んでいることに。


「……なあ、父さん」

「……ん?」

「言いたいことあるなら言えよ。顔に出てるぞ」


 ケンはわずかに目を泳がせ、視線を逸らした。

 この船旅の間、ソーマはクリスやエルーナと戦略を練ったり、時には笑い合ったりしていた。

 そのたびにケンは、どこか言いにくそうに目を細めていたのだ。


「……別に」

「別にって顔じゃねえ。俺の勘はよく当たるんだぞ」


 ソーマがしつこく食い下がると、ケンはしばし沈黙した。

 そして、ふっと深いため息を吐き――


「……すべてが終わったら話すよ。今は……ダメだ」


 その声音には、いつもの飄々とした父親らしさはなく、重さと迷いが混じっていた。

 ソーマは眉をひそめ、追及しようとしたが、ケンの横顔を見て思い直した。


「……分かった。終わったら、だな。絶対にだぞ」

「……ああ、約束する」


 ふたりは揺れる甲板の上で短く頷き合った。

 それ以上は、吐き気と波が会話を奪っていった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 船旅の間、海の魔物は幾度も姿を現した。

 巨大な触手を持つ海獣。

 鋼鉄のような甲羅を背負った怪魚。

 空から襲い掛かる翼を持つ魔獣。


「撃てぇぇ!」

「魔力炉、全開だ!」


 そのたびに、船の側面から魔導砲が火を噴いた。

 轟音と閃光が海を裂き、魔物を焼き沈める。

 ドワーフたちは声を張り上げながら、まるで日常の延長のように戦い続ける。

 ソーマは吐き気に耐えつつも、その光景を見て胸を打たれていた。


「……すげぇ……あんな化け物を……」

「この船がなかったら……とっくに沈んでたな……」


 嵐を突き抜け、魔物を退け、ついに夜明けが訪れた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 出航から五日目の朝。

 水平線の向こうに黒々とした大地が浮かび上がる。


「……あれが……魔大陸アスノクス……」


 吐き気も忘れて、ソーマは険しい表情で見据えた。

 漆黒の雲が垂れ込め、波が岩を砕き、空気は淀み、地そのものが人を拒むように禍々しい。

 船は、人類が唯一築いた要塞兼港へと接岸しようとした。

 だが――


「な……!」


 船員たちが絶句した。

 港は、既に崩壊していた。

 砕けた城壁、黒煙を上げる瓦礫。

 蠢くのは無数の魔族の群れ。


「また獲物が来やがったぜぇ!」


 魔族たちは翼を広げ、牙を剥き、空を覆い尽くして飛んでくる。


「――来る!」


 ソーマが叫ぶよりも早く、前勇者パーティーの賢者エーメルが静かに杖を掲げた。


「――【テンペスト】」


 凄絶な魔力が迸り、嵐が群れを薙ぎ払う。

 一瞬にして魔族の軍勢は塵と化し、風に散った。

 ドワーフたちは歓声を上げたが、ソーマは背筋に冷たいものを感じていた。


「……これが、前勇者パーティーの力……」


 船は無事に接岸した。だが地上には、まだ無数の魔族が徘徊している。


「任せろ!」


 ケンとランが飛び出す。

 剣と拳が閃き、血風が舞う。


「はあああっ!」

「どけぇぇ!」


 次々と魔族が薙ぎ倒されていく様は、まるで戦場というより舞踏会のように鮮やかだった。

 ゼルガンが冷静に告げる。


「切り札のお前は温存だ、ソーマ。今は無駄に力を使うな」


 ソーマは歯噛みしたが、頷いた。


「……わかりました」


 背後ではドワーフの船員たちが叫んでいる。


「この船は命懸けで守る! 必ず帰ってこい!」


 ソーマは深く頭を下げた。


「……ありがとう。必ず帰る」


 そして、一行は魔王城を目指す。

 彼らが乗り込んだのは、ソーマの前世の知識を基にドワーフたちが造り上げた魔道車だった。

 ごうん、と低く響く音と共に、車体が滑るように走り出す。


「おいおい……なんだこりゃ。馬もいねぇのに走るのかよ!」


 ジョッシュが目を丸くする。

 ゼルガンも怪訝そうに唸り、車輪の動きを見つめる。


「……まあ、アスガンドで魔道列車を造れるなら、これくらいは朝飯前かもしれん。だが――どこでこんな知識を得た?」


 そのやり取りを横で聞いていたクリスが、ちらりとエルーナに目を向けて囁いた。


「……やっぱり、ギフトフラグの思し召しですか……?」


 エルーナは肩を竦めて、ため息交じりに笑った。


「……あんた、ほんっと隠し事ばっかり」


 ハンドルを握るソーマは苦笑し、答えを濁した。


「……時が来たら話すよ」


 黒き大地を駆け抜け、車輪は魔王城へと向かう。

 決戦は、もう目前だった。

 前勇者パーティー入れたおかげでサクサク進みます。


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