138:交錯する愛のフラグ
窓から差し込む柔らかな陽光に、ソーマはゆっくりと目を覚ました。
寝返りを打つと、視界に飛び込んできたのは、隣ですやすやと寝息を立てるクリスの姿。
ほどけた髪が枕に散らばり、白い頬には安らかな赤みが差している。
(……本当に……ひとつになったんだな……)
胸の奥が熱くなる。
昨夜、二人は言葉だけではなく、心と体で互いの想いを確かめ合った。
前世でも経験がなかったこと――その全てを、彼女と分かち合ったのだ。
「……こんな幸せで、いいのか……」
嬉しさと恥ずかしさ、そしてこれからの責任の重さ。
あまりの感情の渦にソーマは天井を見上げ、思わず顔を覆う。
「……ソーマさん……?」
小さな声が耳に届く。
隣のクリスが、まだ寝ぼけ眼のまま、彼を見つめていた。
「お、おはよう……クリス」
「……おはようございます」
その声はまだかすかに震えていて、昨夜の余韻を物語っていた。
互いの視線が絡み合い、頬が一斉に赤く染まる。
「昨日は……その……」
「……はい。良かったです。すごく」
照れ隠しのように微笑むクリス。
その一言に、ソーマの胸は一気に熱を帯び、思わず彼女をぎゅっと抱きしめていた。
「……ソーマさん……」
「俺も……良かった。ありがとう、クリス」
二人はしばらく、言葉もなく温もりを確かめ合った。
それは戦いの前の一時の安らぎであり、これから背負うものへの誓いでもあった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
準備を整え、食堂に降りると、すでにジョッシュとエルーナが朝食を食べていた。
二人はこちらを見て、一瞬だけ目を細める。
ジョッシュはにやりと笑い、エルーナは小さく息をつく。
(……気づかれてる? いや、まさか……)
ソーマは内心焦るが、二人は特に何も言わなかった。
ただ、テーブルの空気が微妙に違っていたのは、決して気のせいではない。
「……なんか、視線が怖いな」
「だ、大丈夫です。きっと気のせいです」
クリスも頬を赤らめ、視線を逸らした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
その後、正式に魔王討伐の布陣が決定した。
ソーマたち【アストレイ】と、前勇者パーティー。
残りの冒険者や騎士団は、何かあった時の控えに回ることとなった。
決戦は一か月後。
その間、鋼大陸アスガンドから来たドワーフたちが武具の製作を進める。
ソーマたちは前勇者たちの下で、さらなる鍛錬を積む日々に入った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
エーメルはエルーナの魔力を鍛える訓練を行っていた。
「あなたの魔力は魔法としては出力できない。ただあなたのギフトを通してなら発動できるのね。ならより魔力を伝えるには、流れを制御するのです」
「う、うん……! でも……っ、今まで感覚でやってたから全然制御できない……!」
銃を構えつつ魔力を練るエルーナの手に、エーメルはそっと自らの手を重ねる。
「焦らないこと。あなたは私の娘。必ずできる。……エルーナ、これは世界を救うための力。母として、女王として……あなたを導きます」
「……母さん……! 絶対、やり遂げる!」
アルマはクリスの聖女としての力を引き出す修練を行っていた。
「聖女の力は奇跡。けれど奇跡は願うだけでは起きません。強く、清く在ろうとする意志があってこそ」
「……私に、そんな資格があるんでしょうか……」
俯くクリスの頭を、アルマは優しく撫でた。
「あるわ。あなたは私の娘だから。……それだけじゃない。あなたは人を想い、守ろうとする。だから力が宿るの」
「……! 私……信じてみたい。自分を、そして……母さんを」
「ええ。クリスティーナ、あなたならできるわ」
そのほほえましい光景を見ながらソーマはケンとランの猛特訓を受けていた。
「遅ぇ! 剣筋が甘ぇぞ! 力任せじゃ魔王は倒せねぇ!」
「考えるの! 仲間がどう動くか、敵がどう仕掛けるか――それを想像して動くのよ!」
ソーマはケンに剣を弾かれるとすぐさまランが拳に纏ませた魔力弾を飛ばしてくる。
「くそっ……ちょっとは休ませろ!」
「戦場に休憩なんてねぇ!」
「死にたくなければ頭を使うのよ!」
「……っ、やるよ! やればいいんだろ!」
汗にまみれながらも、仲間たちの成長を見て、ソーマは胸の奥で嬉しさと焦りを同時に抱いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
訓練ばかりでは体がもたないと設けられた休息日。
明日からも続く特訓に備えてソーマが一人、ベッドに寝転がっていると静かなノックが響いた。
「……誰だ?」
「私」
扉を開けると、月明かりに照らされたエルーナが立っていた。
「……入ってもいい?」
「あ、ああ」
部屋に入るなり、彼女は真剣な眼差しでソーマを見つめる。
「……ソーマ。クリスと……やったでしょ?」
「っ!? な、なにを……!」
動揺するソーマ。
エルーナはくすりと笑い、だがその瞳は本気だった。
「図星ね。……なら、私ともして」
「な、何言って……」
言葉を最後まで言わせず、エルーナはソーマをベッドに押し倒し、唇を奪った。
「私だって……ソーマが好き。先を越されたくなんてなかった。だから……上書きしてあげる」
「お、お前……そんな……」
「安心して。消音の魔道具、ちゃんと持ってきたから」
挑むような熱に、ソーマは観念するしかなかった。
「……俺はまだ初心者だ。下手くそだからって文句言うなよ」
必死に言葉を探すソーマに、エルーナは首をかしげる。
「ねえ、ソーマ。私、何歳だと思ってる?」
「……エルフだから……見た目よりずっと年上かと……」
「違うの。私はハーフエルフ。大人になるまでは人間と同じ。……私もあなたと同い年」
その言葉に、ソーマは息を呑む。
「……エルーナ……」
「だから……同じ立場よ。私も、ソーマと一緒になりたい」
その夜、二人は何度も情熱を重ね合った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌朝、食堂に現れたエルーナは、どこか艶やかな雰囲気をまとい、対照的にソーマは疲労困憊の様子で椅子に沈み込んでいた。
その対比を一目見て、クリスはすぐに悟った。
彼女は息を整え、毅然とエルーナを見据える。
「……エルーナ。改めて宣言します。――一番は譲りません」
エルーナは挑戦的に微笑み返す。
「望むところよ」
両者の間に火花が散る。
額を押さえたソーマは、心底ため息を吐いた。
(……本当に俺、大丈夫なのか? 魔王討伐より前に、心臓が持たないかもしれない……)
こうして、一行はそれぞれの想いを胸に、決戦への道を歩んでいくのだった。
なんかソーマが一気にクズになったな……
別視点でもう一つ爆弾落としたら様々な謎が明かされた第七章は終わりです。
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