表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第七章:同窓会? いいえ、真実のフラグです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/149

137:血と愛が紡ぐフラグ

 再び戻った王城の一室は空気は張り詰め、誰も口を開けないまま沈黙が落ちた。

 やがてアルマが立ち上がり、深く頭を垂れる。

 その姿は聖女としての威厳をかなぐり捨て、ただ一人の母として罪を背負う女のものだった。


「……ごめんなさい。本当に……ごめんなさい」


 その震える声は、胸を締めつけるほど痛切だった。

 クリスもジョッシュも言葉を失い、ただ呆然とその姿を見つめる。


「どうして……」


 沈黙を破ったのは、クリスのかすれた声。

 その声音には怒りよりも、裏切られた深い悲しみが滲んでいた。


「どうして私たちを……孤児院に捨てたんですか」


 アルマの肩が震え、組んだ両手を胸の上でぎゅっと握りしめる。

 目には涙が溜まり、こぼれ落ちる寸前で止まっていた。


「……昔、ひとつの悲劇がありました」


 低く落ちる声。アルマは遠い過去を振り返るように言葉を紡ぐ。


「ある聖女が……子を産みました。ですが、その子は魔族に人質に取られ……聖女はわが子のために命を落としたのです」


 ジョッシュが驚愕に目を見開く。


「聖女の……命が……?」

「ええ。その瞬間、魔王の封印が解け、復活を許してしまった」


 アルマの声が震える。


「――聖女の命が失われると、魔王の封印は解けてしまう。そして逆もまた然り。魔王の封印が解けると、聖女は命を落とす……。これは決して公にはされない、忌まわしい因果です」


 部屋に重苦しい空気が流れた。

 エルーナが息を詰め、声を震わせる。


「……そんな……じゃあ、アルマ様が子どもを産んだと知られていたら……」

「はい。また同じ悲劇が繰り返される。魔族は必ず狙うでしょう。……私はそれを恐れました。だから……あなたを、孤児院に預けるしかなかったのです」


 クリスは歯を食いしばり、拳を震わせる。


「……結局私は……厄介者だったってことですか」

「違う!」


 アルマが力強く否定した。


「あなたは……私の命よりも大切な存在でした。だからこそ、私は……あなたを守るために、自分の傍に置けなかったのです」


 必死の言葉に、クリスは揺れ動きながらも顔を背ける。

 その時、静かに口を開いたのはバランだった。


「……その頃、私にも子が生まれていた。ジョシュア、お前だ」

「……っ!」


 ジョッシュが息を呑む。


「聖女様が子を託すのなら、護衛が必要だ。……私はそう判断し、自らの子も共に託した。クリスティーナ様を守るように、と」


 ジョッシュの脳裏に、幼い頃孤児院で手渡された手紙の一文が蘇る。

 ――『妹を守れ』

 ジョッシュは強く目を閉じる。


「……そうか。だから……あの言葉が書かれていたのか」


 ジョッシュは深く息を吸い込み、はっきりとした声で言う。


「俺は……まだ全部納得できたわけじゃねぇ。でも……俺がクリスの兄であることは変わらねぇ。あの時の言葉は……これからも守り続ける」


 その力強い宣言に、クリスは思わず兄を振り返る。

 瞳が揺れ、安堵と戸惑いが入り混じった光を宿していた。

 アルマは涙をこらえながら、さらに続ける。


「……二人を預けた神官は、私とバランが唯一心から信頼できる人物でした。彼は私たちにすら預け先を明かさず、接触も絶った。だから……成長した二人が目の前に現れても、すぐには気づけなかったのです」


 嗚咽を飲み込み、言葉を絞り出す。


「聖女会議で出会った時、あなた方は愛称で名乗っていた。『クリス』と『ジョッシュ』……それだけでは確信できなかった。けれど――今回フルネームを聞いたとき、すべてが繋がったのです。……そして思ったのです。いずれ魔王が復活すれば、私は死ぬ。ならばせめて……真実だけは、自分の口で伝えたいと」


 部屋に、誰も声を発せぬ沈黙が広がった。

 それを破ったのは、クリスの震える声だった。


「……でも……私は……」


 迷い、戸惑い、苦しみに押しつぶされそうな声音。

 ソーマが静かに歩み寄り、クリスの目を真っ直ぐに見つめた。


「クリス。さっき言ったよな……自分は誰にも必要とされていないって」


 クリスは肩を震わせ、唇を噛む。


「でも、それは違う。アルマ様は……お前を想ってた。守るために……自分を犠牲にしてでも」

「……でも、捨てられた事実は……消えない」

「そうだな。消えはしない。けど……その奥にあった愛情を、信じてみてもいいんじゃないか」


 ソーマのまっすぐな言葉に、クリスの瞳が潤む。

 頬を伝う涙を拭おうともせず、クリスは小さく頷いた。


「……信じても……いいのかもしれない。少しずつ……だけど」


 その瞬間、アルマは顔を両手で覆い、嗚咽を漏らした。

 バランは黙して何も言わず、ただ彼女らを見守り続けた。


 ――一つの真実が明かされ、血に刻まれた因果が繋がった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 その夜。

 猪熊亭の自室に戻ったソーマは、机に肘をつきながら深い息を吐いた。


(魔王討伐の決定……アルマ様の真実……クリスとジョッシュ……全部、一気に押し寄せてきた……)


 混乱を整理しきれず、ただ静かに天井を見つめていると扉を叩く音がした。


「……どうぞ」


 扉を開けたのは、クリスだった。

 灯りに照らされた横顔は、まだ赤みを帯びている。


「ソーマさん……入ってもいいですか」

「もちろん」


 クリスはそっと部屋に入り、扉を閉めた。

 そして、迷いなくソーマの正面に立つ。


「……さっきは、本当にありがとうございました。ソーマさんを信じて、アルマ様の話を聞いて……よかった」


 ソーマは柔らかく笑みを浮かべる。


「俺は何もしてない。ただ、一緒にいただけだ」

「……でも、それが……力になりました」


 クリスは一度視線を落とし、そして意を決したように顔を上げた。


「……あの時。私を追いかけてくれた時……『大切だから』って言ってくれましたよね。……あれって、どういう意味なんですか?」


 澄んだ瞳が、逃げ場を与えない。

 ソーマは胸の奥が熱くなるのを感じた。


(……逃げるな。もう迷わない)


 ソーマは深く息を吸い込み、クリスの肩に手を置いた。


「――そのままの意味だ。クリスは俺にとって……かけがえのない、大切な人なんだ」


 クリスの目が大きく見開かれる。

 頬が赤く染まり、唇が震える。


「ソーマ……さん……」


 次の瞬間、ソーマは彼女を強く抱き寄せ、唇を重ねた。


「……っ……」


 小さな吐息がもれる。

 やがて彼女も目を閉じ、そっと応える。


 夜の静寂に包まれながら、二人は互いの心を確かめ合い――

 やがて、一つになった。

 おめでとう!


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ