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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第七章:同窓会? いいえ、真実のフラグです

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136:兄妹のフラグ

 世界会議が閉幕した王都の空は、昼間の緊張から解放されたかのように、やわらかな黄昏色に染まっていた。

 石畳を行き交う人々の足取りも、どこか軽やかだ。

 だが、その裏で――歴史を揺るがす決定が下され、決戦に向けて歯車が動き出したことを知る者はごく一部に過ぎなかった。


 ソーマたちもようやく会議から解放され、猪熊亭へ戻ろうとしたその時――


「クリスさんに、ジョッシュさん。……少しお時間をいただけますか?」


 澄んだ声が背に届いた。

 振り返れば、聖女アルマがそこに立っていた。

 普段の彼女は常に人を包み込むような微笑を絶やさない。

 だが今は――その表情は硬く、深刻な影を宿していた。


「……俺たちに?」


 ジョッシュが眉を寄せる。

 アルマは小さく頷き、続けた。


「はい。あなた方に、大切なお話があります。……もしよろしければ、ソーマさんとエルーナさんもご一緒に」


 その声音には拒むことを許さぬ重みがあった。

 ソーマとエルーナは顔を見合わせ、すぐに頷く。


「分かりました。一緒に伺います」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 案内されたのは王城の奥まった一室。

 壁には余計な装飾もなく、ただ静けさだけが満ちている。


 そこに待っていたのは、聖女アルマと――騎士団長バラン。

 いずれも険しい表情で、室内に漂う緊張は息苦しいほどだった。


 椅子に腰を下ろしたアルマが、深呼吸を一つ。

 張り詰めた空気の中、先に切り出したのはクリスだった。


「……大事な話っていうのは、なんですか?」


 アルマは両手を組み、祈るように胸の前で握りしめる。

 長い沈黙ののち、ゆっくりと問いかけた。


「……あなた方のお名前は――クリスティーナとジョシュアで、間違いありませんね?」


 クリスとジョッシュは目を見合わせ、戸惑いながらも答える。


「……ええ。でも普段はクリス、ジョッシュで呼ばれています」

「孤児院に預けられた時、手紙に名前が書かれていたって……院長先生から聞きました」

「やはり……そうでしたか」


 アルマの表情が曇る。苦渋の色がそのまま顔に滲み出ていた。

 バランが一歩前に出て、口を開きかけた。


「聖女様、やはりここは――私の口から……」


 だがアルマは首を振り、彼を制した。


「いいえ。これは、私が背負うべき罪です。……逃げてはいけない」


 そして――深く息を吐き、言葉を紡ぐ。


「クリスティーナ。……あなたは、私の娘です」


 静寂が、鋭い刃のように空気を切り裂いた。


「……は?」


 クリスが息を呑み、固まる。

 信じられない、と全身で訴えていた。

 アルマは視線を逸らさず、さらに告げる。


「そして――ジョシュア。あなたは……バランの息子です」


 その場にいた全員の呼吸が止まった。

 ソーマも、エルーナも、思わず声を失った。

 だが当事者である二人に走った衝撃は、比べ物にならなかった。


「な……なにを、言ってるんですか……?」


 クリスの唇が震える。


「そんな……だって……私達は兄妹で、孤児院で育って……! それが……本当の親って……!」


 ジョッシュも信じられないといった顔で首を振った。

 アルマは涙をこらえきれず、それでも必死に言葉を重ねた。


「事情が……あったのです。説明させてください。あの頃は……」

「やめて!」


 クリスの叫びが部屋を震わせた。


「いまさら……そんなこと言われても! 私たちを捨てたくせに……! どんな事情があったって……私たちはいらなかったんでしょう!?」

「ちが……!」


 アルマが手を伸ばす。だがクリスは一歩引き、振り払うように叫んだ。


「いまさら……母親だなんて……!」


 駆け出すクリス。


「待ってください!」


 アルマの声が追うも、その背は振り返らなかった。


「クリス!」


 ソーマが立ち上がる。

 その肩をジョッシュが掴んだ。


「……頼む。妹を……追ってくれ」


 エルーナも真剣な眼差しで言った。


「ソーマ。私の時みたいに……クリスの心を支えてあげて」

「……分かった!」


 ソーマは一息に駆け出した。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 王城の廊下を抜け、中庭へ。

 噴水の前に――クリスが立ち尽くしていた。

 肩が小刻みに震えている。


「……クリス!」


 呼びかけると、振り向いた瞳には怒りと悲しみが渦巻いていた。


「……なんで追ってきたんですか」

「クリスの事が……大切だから……放っておけるわけないだろ!」


 ソーマの声が夜気に響く。

 クリスは唇を噛み、目を逸らす。


「……ずっと思ってたんです。捨てられた私は誰にも必要とされてないんだって。だから自分に自信なんて持てなくて……ずっと怖かった。信じたいけど……私なんかが信じていいのかって」


 吐き出される弱音。

 その声は、幼い少女のように震えていた。


「なのに……今さら『娘だ』なんて。……もう遅いんです!」


 ソーマはしばらく黙って見つめ――やがて静かに口を開いた。


「……エルーナも、同じだった」

「……え?」

「エルーナもずっと、親に捨てられたと思って生きてきた。孤独で、自分を責めて……」


 クリスの瞳が揺れる。


「でも、真実を知った時……彼女は信じることを選んだ。事情は複雑だったけど……エーメル様は本気で彼女を想っていた」


 噴水の水音だけが響く。


「アルマ様も同じだ。……あの顔は、苦しんで、悔やんで、それでも真実を伝えようとしていた。クリスだって本当は分かってるはずだろ?」


 クリスは唇を噛み、肩を震わせた。


「……もし……本当に、私を思ってくれていたなら……」

「だったら――直接聞けばいい。どうして預けたのか。どうして黙っていたのか。……全部、確かめればいい」


 ソーマは真剣な眼差しで告げた。


「逃げていい理由なんかない。俺たちは仲間だ。……だから、一人で抱え込むな」


 その言葉に、クリスの目から涙がこぼれた。


「……ソーマ……さん……」


 彼女はソーマの胸に顔をうずめる。

 その震えは、次第に弱まり――やがて静かに息を整える。


「……分かりました。一緒に戻ってくれますか?」

「ああ。もちろんだ」


 二人は並んで歩き出す。夜の王城へ、再び。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 部屋に戻ると、アルマは深く俯き、バランは無言で壁に背を預けていた。

 クリスの姿を見たアルマが顔を上げる。


「クリスティーナ……」


 その声に、クリスは震える唇で応える。


「……まだ全部を信じられたわけじゃありません。でも……聞かせてください。どうして私を……」


 その瞳には、怒りだけでなく――確かに『知りたい』という想いが宿っていた。

 ソーマは安堵の息を吐き、背後でジョッシュが妹を見守る。

 こうして――長く隠されてきた、もう一つの家族の真実が、いま語られようとしていた。

 爆弾投下。

 こちらもまぁあるあるなので予想できた人はいると思います。

 出来れば一気に真実を明かしたかったのですがちょっと長くなったので分割しました。


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