133:破滅と復活フラグ
勇大陸アスヴァル王都、王城大広間。
天井に描かれた壮大な壁画と、石壁に飾られた歴代王の紋章が荘厳な空気を作り出す。
国王アルヴェロの重々しい声が反響し、その場に集う者すべての背筋を伸ばさせた。
「――では、各国の代表よ。我らが集うは世界の存亡を左右する議。忌憚なく語り合ってほしい」
広間は水を打ったように静まり返る。
ソーマは背筋を正し、隣に座るケンとラン、ゼルガン、そして仲間たちの存在を確かめながら、大きく息を吐いた。
(……これが世界会議。ここでの一言が、未来を変える)
鼓動が耳の奥に響き、緊張が否応なく高まる。
最初に口を開いたのは、聖女アルマだった。
白き衣をまとい、金色の瞳に光を宿した彼女の声は柔らかでありながらも、会場の空気を震わせるほどの重みを持っていた。
「……まずは、聖女会議で起こった出来事を共有させていただきます」
その一言で、全員の視線がアルマへと注がれる。
彼女は一度静かに息を整え、言葉を紡いだ。
「聖女候補たちが集ったその場に――魔族以上の力を持つ、謎の三人組が現れました」
ざわ……と場が揺れた。
「三人は、自らをデスヴェル、ヴェリディス、ヴェリクと名乗り、こう言い放ったのです。――『魔王の復活は近い』と」
ざわめきが広間を飲み込み、重苦しい空気がのしかかる。
ソーマの胸に、あの場面が鮮烈によみがえった。
凍りつく空気、圧倒的な力の差、そしてあの余裕すら感じさせる笑み。
アルマはソーマへと視線を送った。
促されるように、ソーマも立ち上がる。
「俺もその場にいました。魔族を下等な存在と言い放つ……奴らの力は、正直底が見えませんでした……」
声を絞り出すようにしても、手が震える。
握り拳に爪が食い込み、皮膚が白くなる。
その告白に、広間は重い沈黙に包まれた。
誰もがソーマの言葉に現実味を感じ取り、顔を曇らせる。
次に声を上げたのは、鋼大陸アスガンドの王ウォーガン。
鍛え抜かれた声は雷鳴のように響き渡った。
「我らも同様だ。最近、魔物の活発化と魔族の出現が目立つ。鍛冶場は襲われ、鉄道すら破壊されている」
彼の言葉に、アルヴェロ王も深くうなずいた。
「我が国でも町や村が幾度も襲撃を受け、被害は拡大の一途を辿っている。だが……それ以上に恐ろしいのは……」
アルヴェロ王は低く吐き出すように言葉を続けた。
「勇者の卵たちが、次々と狙われているという事実だ」
場が一層ざわめく。
そのざわめきを断ち切るように、聖大陸代表の騎士団長バランが重苦しい声を投げかけた。
「聖女の卵も例外ではない。行方不明になった者の数は、すでに二桁。生存の可能性は限りなく低い。討たれた者の中には、名を残すほどの実力者もいた……」
ソーマの心臓が跳ねた。
脳裏にはユーサー、シオニーの姿が浮かぶ。
(……狙われているのは、この世界の未来そのものだ……)
奥歯を噛みしめる音が、やけに大きく響いた。
翠大陸の女王エーメルが静かに言葉を紡ぐ。
その声音には冷たい怒りが滲んでいた。
「我が大陸も同じです。森は荒らされ、魔物の群れが押し寄せています。女王として断言します……この現象の裏に、魔王の影がある」
隣に座るダークエルフの女王ルーナも頷き、さらに低く告げた。
「封印が緩んでいるのは明白。だが問題は……復活の時期が、予想以上に早まっていることだ」
重苦しい空気を切り裂くように、アルヴェロ王がうなずいた。
「まさにそれだ。魔王の復活周期が早まっていることは、以前から懸念されてきた。このままでは、遅かれ早かれ……世界は破滅へと向かう……」
沈黙。
その中で、ケンが静かに、しかし力を込めて言葉を発した。
「……俺たちがかつて魔王に挑んだとき。討ち滅ぼすつもりで行った。だが、奴の前に立った瞬間、直感したんだ。――これは倒せる存在じゃないと」
その声には、かつての絶望と苦悩がにじむ。
ランがそっとケンの手を握りしめ、彼を支えるように頷いた。
ゼルガンが腕を組み、険しい表情で言い足す。
「だから封印するしかなかった。だが次も同じことができるとは限らない……」
広間の空気が張り詰めていく。
誰もが倒せない存在という現実に言葉を失っていた。
――その時だった。
「待ってください」
ソーマが立ち上がった。
声は震えていたが、その瞳には迷いのない光が宿っていた。
「俺に……俺のギフトなら……魔王に対抗できるかもしれません」
全員の視線がソーマに注がれる。
圧迫感に喉が詰まりそうになるが、それでも彼は言葉をつないだ。
「僕のギフトは――【フラグ】です」
ざわ……と広間が揺れる。
聞き慣れぬ言葉に、訝しげな表情が並ぶ。
「俺は、ある事象を『兆し』として目に見える形で捉え、それを破壊することが出来ます。そして……ユーサーから世界を託された時、俺は新しいスキルを手に入れたんです」
ソーマは大きく息を吸い、言い放った。
「――【復活フラグ】というスキルです」
瞬間、空気が凍りついた。
沈黙が広間を包み、誰もが息を飲む。
やがてアルヴェロ王が低く問いかけた。
「それは……つまり、どういうことなのだ?」
ソーマは真っ直ぐに王を見据えた。
「もし魔王の復活そのものがフラグとして存在するなら……俺が、それを破壊できるかもしれない」
広間に緊張の波紋が広がった。
信じられないという目、期待を込める目、不安を抱く目――さまざまな視線がソーマを射抜く。
アルヴェロ王はゆっくりと、しかし重々しく口を開いた。
「……もし、それが真実ならば。お前は――この世界における最後の希望となる」
ソーマは拳を握りしめ、強くうなずいた。
「……俺にできるかどうかは分かりません。でも……やるしかない。この世界が滅ぶのを、ただ見ているわけにはいかないんです!」
静寂の中、その言葉だけが大広間に響き渡った。
こうして世界会議初日の議題は閉じられた。
だが全員の胸には、一つの言葉が深く刻み込まれていた。
――フラグ。
それは希望か、それとも新たな災厄の始まりか。
誰一人、その答えを知る者はいなかった。
この小説を書き始めた時は魔王関連どうするかなんて何も考えてませんでした。
この章に入ってさぁどうしようと悩んだ結果がこれです。
見切り発車よくないなぁ……
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