122:宴の後に待つフラグ
ギルドでの報告を終え、いつもの拠点――猪熊亭の分厚い扉を押し開けた瞬間、ソーマたちは温かな喧騒に包まれた。
焼いた肉の香ばしい匂い、木製のジョッキを打ち鳴らす音、そして人々の笑い声。
そのどれもが懐かしく、だが今夜は格別の意味を帯びて胸に響く。
「おう、帰ってきたか、英雄どの!」
威勢のいい声が店内に響いた。
熊のように大柄な宿屋の主人ラントが豪快に笑い、分厚い腕を振り上げる。
その隣では女将のマールが目を細め、両手を叩いて迎えてくれた。
「まあまあ、ほんとに無事でよかったよ! しかもAランクに昇格だなんて!」
「えっ……どうしてそれを?」
ソーマが思わず目を丸くすると、ラントはがははと豪快に笑った。
「そりゃあ街中に噂が駆け巡ってるさ! 聖女様と会ったって話も、魔石を納めたことも、聖女会議に出席したってのもな! あの【栄光の架け橋】の後を継ぐんだろ? 誇らしいったらありゃしねえ!」
その言葉に呼応するように、常連客たちが口々に声を上げた。
「ソーマ! 今夜は奢ってくれ!」
「いやいや、俺たちが奢る番だ! Aランクなんて快挙だぞ!」
「ほら、杯を掲げろ! 勇者ソーマとアストレイに!」
あっという間に店内は祝賀ムード一色に染まる。
ジョッキが何度も打ち合わされ、テーブルの上には焼きたての肉、山盛りの野菜料理、特製スープが次々と並べられていく。
クリスは顔を真っ赤にしながら、差し出されたジョッキに戸惑いつつも「ありがとうございます……!」と照れ笑いを浮かべていた。
エルーナは「まあ、当然の結果よね」と口では涼しげに言いながらも、尖った耳がほんのり赤くなっている。
ジョッシュは「お、おう……乾杯」と苦笑しながらも、常連客たちの勢いに押されて次々と杯を重ねていた。
そして――ソーマ自身は。
(……Aランク。確かに誇らしい。でも、浮かれてばかりはいられない)
口に含んだ酒は、喉を潤してくれる。
だが心の奥底に広がるのは、熱くも重たい感覚だった。
【栄光の架け橋】の後を継ぐ存在として選ばれたのは、自分たち。
その期待の大きさを思うと、喜びよりも責任の重さがじわりと心を締めつけていく。
「ソーマちゃん」
ふと、マールがそっと杯に酒を注ぎ足してくれた。
母のような眼差しで彼を見つめ、柔らかに微笑む。
「あなたはずっと仲間を守ってきた。これからも、そうしておやりなさい。それが……Aランクなんて肩書きより、ずっと大事なことさ」
その言葉は、静かに、だが力強くソーマの胸に届いた。
思わず目頭が熱くなり、彼は深く頷く。
「……はい。約束します」
こうして猪熊亭での祝宴は夜更けまで続いた。
笑いと歌声、温かな祝福に包まれながら――ソーマは重責を改めて心に刻んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌朝。
朝日が宿の窓から差し込む中、ソーマは耳障りな着信音で目を覚ました。
魔道通信機が小さく震えている。
差出人は――ギルド受付嬢、メルマ。
「……ただ事じゃなさそうだな」
短い文面には「すぐにギルドへ来てください」としか書かれていなかった。
眠気は一瞬で吹き飛び、ソーマは仲間たちを起こして装備を整えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドの扉を開けると、受付で待っていたメルマが駆け寄ってきた。
「ソーマさん! ありがとうございます! ギルマスがお呼びです。すぐに奥へ!」
彼女の声には焦りが混じっていた。
ソーマたちは頷き、重厚な扉をくぐる。
その奥で待っていたのはギルドマスター、カルヴィラ。
机に肘をつき、真剣な眼差しをこちらに注いでいた。
「来たか、ソーマ。……座れ」
短い言葉に従い、全員が椅子に腰を下ろす。
カルヴィラは机上の封筒――聖女から託された手紙を指で軽く叩き、低く告げた。
「この手紙はすでに王城へ届けた。……そして王は直々に、お前たちと会談を望んでおられる」
「王が……俺たちと?」
ソーマの胸が高鳴った。
国から依頼を受けることはあっても、王に会うなど想像すらしていなかった。
「理由は分かるな。――世界会議についてだ」
カルヴィラの視線が鋭くなる。
その一言に場の空気が一段と引き締まった。
「世界会議は前例のない規模になる。各大陸の王や代表者が一堂に会する。その前に王は、お前たちと直接会い、話を聞きたいと望んでいる」
ソーマは喉を鳴らし、唾を飲み込む。
(……俺が、王と。いや、俺だけじゃない。仲間と一緒に。でも――)
背中にじっとりと汗が滲んだ。
責任の重さが、再び心臓を圧迫するようにのしかかってくる。
カルヴィラはさらに言葉を重ねた。
「王城から迎えの馬車がもうすぐ到着する。すぐに準備しろ。――覚悟を決めろ、ソーマ」
最後の言葉はまるで試すかのように響いた。
「……分かりました」
ソーマは深く息を吸い、はっきりと答えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ギルドを出ると、すでに黒塗りの馬車が石畳の前に停まっていた。
御者が深々と頭を下げ、恭しくドアを開く。
「Aランクパーティー【アストレイ】の皆様。王城までご案内いたします」
仲間たちと共に馬車へ乗り込む。
柔らかな座席に腰を下ろしたが、ソーマの背筋は固く張りつめたままだった。
窓の外で街並みが後ろへと流れていく。
クリスは手を胸に当て、何度も深呼吸を繰り返している。
エルーナは余裕の笑みを浮かべていたが、その耳は落ち着かぬようにぴくぴくと揺れていた。
ジョッシュは腕を組んで無言のまま外を見つめ、口の中で何かを小さく呟いていた。
(……俺たちは、もうただの冒険者じゃない。これからは大陸を背負う立場に立つんだ)
ソーマは拳をぎゅっと握りしめた。
王との謁見、その先に待つ世界会議。
すべては――この馬車の先に待っている。
ここまで王様の名前を考えてなかったので急いで考えました。
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