121:栄光を継ぐフラグ
ギルドの大扉を押し開けた瞬間、懐かしい喧騒がソーマたちを包み込んだ。
ざわめく冒険者たちの声、酒と料理の香り、依頼掲示板の前で言い争う者たち。
アスヴァルに戻ってきたのだと、ようやく実感が胸に満ちてくる。
「ソーマさんっ!」
真っ先に声をかけてきたのは受付嬢のメルマだった。
髪を揺らしながら小走りに駆け寄り、頬を紅潮させている。
「おかえりなさい! 皆さん、ご無事で本当に良かったです!」
「ただいま、メルマさん。まあ、なんとか帰ってこれたよ」
ソーマが苦笑すると、仲間たちも軽く頭を下げる。
エルーナは優雅に微笑み、クリスは胸に手を当てて会釈し、ジョッシュは片手を挙げて軽く笑った。
「調査も一段落して、年も明けましたから……ギルドの依頼を再開しているんです」
「そうか……また依頼が動き出すんだな」
ソーマは一息つくように呟いた。
だが同時に、内心で緊張も高まっている。
平穏が戻ったわけではない。むしろ嵐の前触れに過ぎないのだ。
「ところで……」
メルマはふと眉をひそめ、抱えていた書類をぎゅっと握り直す。
「ソーマさんたちからは、魔石納品の依頼報告がありますよね? それと……聖女様から何か預かっている、と聞いていますが?」
「――はい!」
ソーマは荷物袋を漁り、報告書と聖女から託された封筒を取り出した。
ずっしりと重みを感じるそれは、ただの紙切れではない。
世界の均衡を左右するかもしれない――重責を宿した手紙だ。
「すぐにギルマスへ報告しないと……!」
メルマに導かれるまま、奥の廊下を進む。
緊張で喉が乾き、靴音がやけに大きく響いた。
重厚な扉をノックすると、低い声が返ってきた。
「入れ」
扉の向こうにいたのは、革張りの椅子に腰掛けるギルドマスター、カルヴィラ。
「よく戻ったな、ソーマ」
カルヴィラの声には威厳が滲んでいた。
ほんの一瞬だけ柔らかな笑みを見せるが、すぐに真剣な表情へ戻る。
「聖女会議での出来事は、もう世界中の話題になっている。魔物だけでなく、魔族の動きも活発化している。……ギルドとしても依頼を再開せざるを得なかったのだ」
「……やっぱり、そうですか」
ソーマは手紙を差し出しながら頷く。
カルヴィラはそれを慎重に受け取り、重々しく封筒を見つめた。
「聖女直筆の手紙か……。王国に届けるのは我々の責務だ。必ずや大切に届けよう」
「お願いします」
ソーマの声に、仲間たちも頭を下げる。
カルヴィラは一瞬目を伏せ、深いため息を吐いた。
そして、表情をさらに険しくして口を開く。
「……そしてもう一つ、大事な報告がある。【栄光の架け橋】についてだ」
その名を聞いた瞬間、場の空気が一気に重苦しく沈む。
ソーマも、クリスも、ジョッシュも思わず息をのんだ。
エルーナでさえ、真剣な表情に変わっている。
「アスエリスにて調査した結果……ユーサー、シオニー以外のメンバーの遺品が確認された」
「っ……!」
ソーマの胸が激しくざわつく。
「ユーサーは死亡。シオニーは聖大陸にて拘留中。……実質的に【栄光の架け橋】は解散だ」
カルヴィラの言葉が突き刺さるように響いた。
ギルド屈指の名を誇り、誰もが憧れたパーティー。
その終焉。
ソーマは拳を握りしめる。
(……あの【栄光の架け橋】が……終わったのか)
憧れ、目標、超えるべき存在。
それが、こうも呆気なく幕を下ろすなど――信じがたい。
「……そう、ですか」
かすれる声で呟くソーマ。
クリスも唇を噛みしめ、ジョッシュは静かに目を伏せている。
そんな沈黙を破ったのは、やはりカルヴィラだった。
「だが――その意志を継ぐ者が必要だ。だからこそ、我々は決断した」
カルヴィラの鋭い視線がソーマに突き刺さる。
「お前たち【アストレイ】をAランクに昇格させる。異論はないな?」
「っ……!」
驚愕に目を見開くソーマ。
背後で仲間たちも一様に息をのむ。
Aランク。
それは一握りの精鋭だけに与えられる称号。
大陸を代表する存在として認められる証だ。
「俺たちが……Aランクに?」
「当然だ。お前たちが成した功績、そして聖女会議で示した勇気。それに見合うだけの力を持っている。否応なく、だ」
カルヴィラの声音は厳しい。
だがその奥には、確かな信頼の色が宿っていた。
ソーマは深く息を吸い、仲間たちを見回す。
クリスは揺れる瞳で不安と期待を映し、エルーナは誇らしげに微笑む。
ジョッシュは黙って頷き、強い眼差しを向けていた。
(……そうだ。俺たちはここまで歩んできた。仲間と共に、幾多の戦いを乗り越えてきた。ならば――)
ソーマは迷いを断ち切るように顔を上げた。
「分かりました。【栄光の架け橋】の意志を……俺たち【アストレイ】が継ぎます」
その言葉に、カルヴィラの口元がわずかにほころぶ。
「よく言った。その覚悟を忘れるな。お前たちは、もう次代を担う者だ」
ソーマは胸の奥に熱を感じていた。
過去の英雄たちが築いた栄光を受け継ぎ、次の時代を切り開くのは――自分たちなのだ。
ギルドの壁に掲げられた依頼票が、今まで以上に重く、そして誇らしく見えた。
栄光の架け橋嫌いじゃないんです。
こんな結末にしておいて何言ってんだと思うけどほんとなんです。
※作者からのお願い
投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!
お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。
ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。




