12:砕け、死亡フラグ
怒号、悲鳴、肉の裂ける音——
ゴブリンにとってはまるで地獄絵図のようだった。
「タコ殴りにしてやるよ!」
拳を鮮血で染めたラチーナが吼える。
その声に応じるように、仲間たちが陣形を組む。
Bランクパーティーの実力が、殺気渦巻く広間になだれ込んでいった。
ラチーナの拳が魔力をまとい、次々とゴブリンの頭蓋を叩き割る。
その背を守るカッセルは、メイスで迫る敵を迎撃しつつ、絶妙なタイミングで盾を差し込む。
レスクの両盾を構えての突進は戦車の様に凄まじく、敵の列が崩れ、地が血で染まる。
タオナの詠唱と同時に鋭利な風が疾走し、ゴブリンたちの身体を紙のように切り裂いた。
まさに、圧倒的戦力。
その様子を、後方で結界を解除したクリスのヒールを受けながら、ソーマたちは茫然と見つめていた。
全身が痛み、魔力はほとんど枯渇。
立っているだけで精一杯だ。
ラチーナの声が再び響く。
「ここはあたしたちが抑える! あんたたちはゆっくり休んでな!」
ラチーナの声が響く。
……その瞬間だった。
――空間が、軋んだ。
《【オクトヴィア】の死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》
(ふざけんな……またかよ!)
脳裏を刺すラチーナたちの死亡フラグ。
《破壊対象:『オクトヴィアの死亡フラグ』》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:ゴブリンジェネラルの排除、もしくは包囲の突破してください》
(休んでるヒマなんてあるかよ……!)
「ジョッシュ、クリス! もうひと踏ん張りだ! 俺たちも行くぞ!」
「了解ッ! 魔力はギリッギリだけど、まだ動ける!」
「私も……魔力ポーションで回復しました! やれます!」
ソーマたちは再び立ち上がる。
剣を握り、杖を掲げ、前へ。
その時、黒鉄の甲冑をまとったゴブリンジェネラルが、赤黒い双眸をぎらつかせながら、堂々と中央に歩み出る。
その背後には、鎧をまとったゴブリンナイトたちが整然と列を成していた。
「……ッ、まずい!」
ラチーナが表情を引き締める間もなく、ジェネラルが咆哮を上げた。
その声を合図に、ゴブリンたちが左右から展開、完全な挟撃態勢を取る。
「包囲される……!」
「ジョッシュ、右側の援護を! クリスは俺にブーストをかけた後、シールドでオクトヴィアを守れ!」
「任されたッ!」
「援護します!」
ソーマは剣を構え、真っ直ぐゴブリンジェネラルへと突進する。
「狙うは――ゴブリンジェネラルだ!」
全力の踏み込み。
クリスのブーストの魔力を脚に集中させ、全身を弾丸のように飛ばす。
「うおおおおおおッ!!」
だが振り下ろした剣は、巨斧に弾かれた。
「ぐっ……重たい!」
即座に斧が反撃してくる。
ギリギリで飛び退き、斧が地面を抉った。
「ソーマ、下がれッ!」
ラチーナとレスクが左右から殴りかかる。
だがジェネラルは微動だにせず、斧を振るって攻勢を続ける。
「くっ……タオナ、援護魔法をッ!」
「風刃、直撃させます!」
タオナの風刃が胸部を削るが、甲冑は削れるのみで怯まない。
こいつは化け物か――そんな声が胸に浮かぶ。
それでも、引けなかった。
ソーマたちは、必死に連携し、攻撃を繋いだ。
ジョッシュの魔球が空間を揺らし、レスクの盾が鉄塊の衝撃を叩き、ラチーナの拳が急所を狙い、カッセルがカバーする。
だが、一撃ごとにこちらの戦力が削られていく。
ソーマの左腕も斧の刃先にかすり、血が滴る。
「っ、がはッ……くそ、まだ……!」
倒れそうになる膝に力を込め、再び立ち上がる。
(足を止めるな……手を止めるな……命を繋ぐための戦いだ!)
ソーマは残った魔力を使い死亡フラグへ干渉する。
《了解――死亡フラグへの干渉を開始します》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:左膝関節部、背面の装甲隙間を狙ってください》
(そこだ……!)
「みんな、ジェネラルの左膝と背中だ! そこが弱点だ!」
「了解!」
ソーマが前に飛び出す。
ジェネラルの注意を引きつけ、レスクとカッセルが左右から盾を構える。
ジョッシュの魔球が膝を打ち抜き、タオナの風刃がその隙間に突き刺さる。
ガギィンッという金属音と共に、ジェネラルが膝をついた!
「今だああああああああッ!!」
ソーマとラチーナが同時に跳びかかり、背中に刃と拳を叩き込む。
ラチーナの拳が甲冑を砕き、ジェネラルの呻き声が場に響いた。
そして――
「これで……終われええええええ!!」
ソーマの剣が、首筋に深々と食い込んだ。
瞬間、世界が静止する。
ゴブリンジェネラルの体がグラリと傾き――
ドサリ、と音を立てて倒れた。
《オクトヴィアの死亡フラグが破壊されました》
指揮官を失った群れは統率をなくし、暴れ狂うだけの烏合の衆と化した。
その集団は既に脅威ではなくなった。
「押し返すよ! ここで全部、叩き潰す!」
ラチーナの叫びに呼応し、仲間たちが一斉に前へ躍り出る。
もはやゴブリンたちに抗う力はない。
一体、また一体と地に沈み、やがて戦場に残るのは血と屍だけとなった。
「……終わった……のか?」
誰かが、ぽつりと呟いた。
ラチーナが笑う。
血に濡れた顔に、誇らしげな笑みを浮かべて。
「ふふ……やるじゃないか、あんたたち。最高だったよ」
「はは……腕が震えてるけどな」
ジョッシュが苦笑する。
「でも……生き残れた……!」
クリス、涙をこぼしながら呟いた。
そう、また運命を――フラグを打ち砕いたのだ。
(この力……フラグ。今度こそ使いこなしてみせる。未来を紡ぐんだ――)
ソーマたちは、また一歩、未来へと進み出した。
この作品を作ろうと思った時にはこういう戦い方になるとは思っていませんでした。
ラッキーヒットみたいな感じにフラグ壊した→グエーみたいなノリでした。
書いてるうちにいやそうはならんやろとなってじゃあどうすんねんと必死こいて考えました。
※作者からのお願い
投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!
お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。
ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。




