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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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118/149

118:重なるフラグ

 夜は明けた。

 長く、重く、そして苦い夜が――ようやく。


 ソーマは、客室のベッドの中で目を覚ました。

 天井を見上げると、昨夜の出来事が鮮明に蘇り、心臓がどくんと跳ねる。


(……結局、あれから……)


 クリスと交わした、初めての口づけ。

 不意打ちでも、衝動でもなく、互いに引き寄せられるように重なった唇。

 柔らかい感触はまだ鮮やかに残っている。

 あの後、二人は顔を真っ赤にして慌てて距離を取り合い――


「あ、あの……」

「……そ、それじゃ……おやすみなさい……」

「……ああ……おやすみ……」


 顔を真っ赤にして、クリスは慌てて部屋を出て行った。

 扉が閉まる音を聞きながら、ソーマはベッドに倒れ込み、しばらく動けなかったのを覚えている。


(……あれが夢だったらいいのに、なんて思ったけど……いや、夢じゃない。確かに――俺は……)


 胸の奥が、熱くて苦しくて、それでいて切ない。

 嬉しさと戸惑いと、どうしていいかわからない不安と。

 ソーマは頭を振り、重たい息を吐き出してベッドから立ち上がった。


 朝食の場。

 食堂の長いテーブルに並ぶ四人。

 焼きたてのパンの香りが漂い、温かなスープからは湯気が立ち上っていた。


 だが、ソーマの舌には味がほとんど届かない。

 隣に座るクリスが気になって仕方がなかった。


(……昨日のこと、クリスはどう思ってるんだ……? 後悔してたり、してないよな……?)


 恐る恐る視線を送る。

 ちょうどその時、クリスもこちらを見てしまった。


「っ……」


 ぱっとお互いに顔を背ける。

 耳まで赤く染まり、スープをすする音さえぎこちない。


 沈黙が場を支配する。


「いやぁ、昨日の戦いはマジでやばかったな!」


 空気をまったく読まないジョッシュが、豪快に肉をかじりながら笑った。


「でもなんとか切り抜けたんだ、すげーよな! 俺たち、ちょっとは強くなったんじゃないか?」


 彼の明るさに救われる一方、ソーマとクリスの頬の赤みはますます濃くなる。


 その様子を、エルーナはじっと見つめていた。

 口元にはわずかな笑み。

 からかうでも、問い詰めるでもなく――ただ()()()()()()ことを示すように。


 視線に気づいたソーマは、慌てて背筋を正した。

 しかしエルーナは何も言わず、スープをひと口飲み、意味深に微笑んだだけだった。


(……やばい。エルーナにバレてる……?)


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 食事を終えた一行は、聖女アルマの待つ謁見の間へと向かった。

 白大理石の床に、朝の光がステンドグラスを通して差し込み、虹色の光が広がる。

 けれど、その美しさを楽しむ余裕は誰にもなかった。


 玉座の前に立つアルマの顔は、昨夜よりもさらに疲れて見えた。

 その瞳には、深い悲しみが色濃く宿っていた。


「皆さん……。まずは、この度の戦い、ご苦労さまでした」


 弱りながらも凛とした声。

 それは感謝と同時に、痛ましい現実を伝えるものだった。


「しかし……結果として、勇者候補に最も近かったユーサーを失い……聖女候補であったシオニーも、しばらくは拘留されることとなります」


 静寂。

 重い言葉が、一人一人の胸に突き刺さる。


(……ユーサー……。最後の言葉……『後は頼んだ』……)


 ソーマは拳を握り、奥歯を噛みしめる。

 あの血に染まった光景が、何度も脳裏に蘇った。


「……今の状況では、彼女が聖女に選ばれることは……おそらくないでしょう」


 アルマの表情が曇る。

 誰もが視線を落とした。


 そして、重苦しい空気の中、アルマは毅然とした声を響かせる。


「魔王の復活の時は、確実に近づいています。ゆえに、私は各大陸の王をアスヴァルに集め、世界会議を開くことを提案いたします。人の手で結束しなければ……抗う術はありません」


 張り詰めた言葉に、一行の表情が一層引き締まる。


「……ソーマさん」


 名を呼ばれ、ソーマは前に出る。


「はい」

「この手紙を、アスヴァルへ届けていただけますか? 各国の王へ招集するための文です。あなたなら……信じて託せます」


 差し出された手紙。

 それは重く、責任そのものだった。

 ソーマは深く頷き、両手で受け取る。


「……必ず届けます」


 その声は震えていたが、そこに宿る決意は揺らぎなかった。


 こうして、一行は聖大陸を発つことになった。


 港に響く出航の鐘。

 潮風と共に、船の帆が大きく広がる。

 岸辺で見送るアルマは、静かに手を合わせた。


「どうか……ご無事で。世界の行く末を……託します」


 その瞳には、一瞬だけ懐かしさの色が浮かんだ。

 ソーマはその眼差しに、自分に誰かを重ねていると感じた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 船上。

 大陸が遠ざかり、海は茜色に染まっていく。


 甲板に立ち、ソーマは欄干に寄りかかっていた。

 寄せては返す波の音を聞きながら、胸の奥で言葉にならない想いを繰り返す。


(……ユーサー……シオニー……。俺にできることは、本当にこれでいいのか……?)


 夕日が沈む。

 その横に、軽やかな足音が近づいた。


「こんなところで黄昏てるなんて、らしくないわね」


 声をかけたのは、エルーナだった。

 髪が海風に揺れ、艶やかな横顔が夕陽に照らされている。


「……エルーナ」


 彼女は微笑を浮かべながら、少し茶化すように言った。


「ねぇ、昨日の夜……クリスと何かあったでしょ?」

「っ……な、何も……!」


 ソーマは慌てて顔を逸らす。

 だが耳まで真っ赤になっているのを、隠しようもなかった。

 エルーナはくすりと笑い、ソーマの胸元に近づく。


「……ふふ、やっぱり。図星ね」


 彼女の瞳が真っ直ぐに射抜いてくる。

 挑発にも似た、でもそれ以上に揺るぎない決意を秘めた光。


 そして――エルーナは背伸びをして、ソーマの唇に触れた。


「……っ!?」


 柔らかく、しかし挑むような口づけ。

 驚きで硬直するソーマの心臓は、激しく跳ねた。


 唇が離れる。

 エルーナは微笑んで囁く。


「……負けないからね」


 その言葉と共に――


《エルーナとの恋愛フラグが発生しました――破壊しますか?》


 甲板に響く波音の中で、ソーマは息を呑んだ。

 彼の旅路は、想定以上に複雑なフラグに彩られ始めていた。

 あんなことがあった後だし流石に最後までやってはないです。

 ここへ来てラブ要素が一気に加速しました。

 もう1話書いて色々あった第6章は終わります。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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