表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/149

116:崩れ落ちるフラグ

 血飛沫が弧を描き、大聖堂の床石を濡らした。

 その中心で、ユーサーの胸を貫き、心臓を食い破って現れた黒蛇が、禍々しく身をうねらせる。

 鱗は鮮血と肉片にまみれ、月明かりを反射して不気味に赤黒く輝いていた。


「ユ、ユーサー……!」


 シオニーの悲鳴は、喉を裂くような絶望に満ちていた。

 彼女の両手からほとばしる回復魔法が、必死にユーサーの胸を覆う。

 その隣に駆け寄ったクリスもまた、祈りを込めるように詠唱を紡いだ。


「大地の慈愛よ……命を繋げ……!」

「世界樹よ……どうか……彼に息吹を……!」


 二人の魔力が交わり、温かな光が裂けた肉体を包む。

 だが――


 傷口は癒えるどころか、黒蛇が残した毒によってさらに広がり、赤黒い泡を噴き出していく。

 それはまるで、彼の命を食らうように逆流し、体内を焼き尽くしていくようだった。


「……だめ……止まらない……!」


 クリスの額に玉のような汗が流れ、詠唱の声が震える。


「お願い……お願いだから……死なないで……!」


 シオニーは涙で視界を滲ませ、震える指を必死に止めぬよう魔力を注ぎ込む。

 けれど、その光は細く、頼りなく、今にも消えてしまいそうだった。


 その声に応えるように、ユーサーの瞼がかすかに揺れた。

 焦点の合わない瞳がシオニーを映し、唇が微かに動く。


「……シオ……ニー……」

「ユーサーっ!」


 掠れた声が確かに届き、シオニーは嗚咽を漏らした。

 ユーサーは苦痛の中で、それでも弱々しく笑みを浮かべた。

 そして――今度はソーマを見据える。


「……ソーマ……」


 その呼び声に、ソーマは息を呑む。

 ユーサーは震える唇で言葉を紡いだ。


「……あとは……頼んだ……お前しか……」

「やめろ! そんなこと言うな! まだ助かる! 俺たちが……絶対助けるから……!」


 ソーマは必死に叫び、拳を握り締める。

 だが、ユーサーの体からは、温もりが少しずつ抜け落ちていく。


「……世界を……守って……くれ……」


 最後の願いを託すように言葉を残し、ユーサーの瞳から光が消えた。


「いやああああああああッ!!」


 シオニーの絶叫が、崩れかけた大聖堂に木霊する。


 ソーマは拳を床に叩きつけた。

 血が滲んでも構わない。ただ悔しさと怒りを吐き出すように。


(くそっ……こんな結末、俺は望んでない……! なんで……なんでなんだよ!)


 その時――


 ユーサーの亡骸の傍らで蠢く黒蛇の後ろに、闇を纏った女がゆらりと現れた。


「……あなたが悪いのよ、()()


 その声は甘やかに響きながらも、氷の刃のように冷たかった。

 深紅のドレスをまとい、赤い瞳を妖しく光らせる女。


「……操真? なんで……俺の名前を……!」


 ソーマは凍りつく。

 彼女は確かに()()()ではなく、()()と呼んだ。

 ――この世界で誰も知るはずのない、前世の名を。


 女は艶然と微笑み、指先で蛇を撫でた。


「すべての元凶はあなた。あなたがあの時……余計なことをしなければ……」

「すべての元凶……俺が……?」


 ソーマの胸に鈍い痛みが走る。

 忘却の奥に押し込めていた何かが、呼び覚まされるような感覚だった。


 その時――空間が歪み、二つの影が現れる。

 ひとりは漆黒のローブに身を包んだフードの男。

 もうひとりは――アスガンドの鉱山で見た、あのゴーレムを操る子供。


「……外の虫どもも片付けられたか。思ったより抵抗があったな」


 フードの奥から低い声が響く。


「でも、仕方ないわね。今回はここまで」


 女が肩をすくめる。


「クク……遊びは十分だ。もう撤退しようぜ」


 子供が小さく笑った。


「待て!」


 ソーマは剣を構え、声を張り上げる。


「逃がすか……お前たち、一体何者だ!」


 三人は足を止め、ゆっくりと振り返った。


 フードの男が、静かに名を告げる。


「私の名は――デスヴェル」


 女が妖艶に微笑み、続いた。


「私は――ヴェリディス」


 子供が不敵に笑い、最後に言う。


「僕は――ヴェリク。忘れんなよ」


 三つの声が重なり、冷たく響き渡る。


「魔王の復活は近い。抗っても無駄だ、人間よ」


 そう告げ、空間が裂ける。

 三人は闇に飲まれるように消え去った。


 残されたのは、血に沈むユーサーと、泣き崩れる仲間たちだけ。


 ソーマは歯を食いしばり、拳を震わせる。


(操真……なぜ今……俺の名前を……)


 胸を突き破る疑問と怒りに呑まれそうになったその時――


 ソーマの視界に、赤いウィンドウが点滅した。


《シオニーの死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》


「なに……!?」


 シオニーはユーサーの亡骸を抱きしめ、虚ろな目で呟いていた。


「……ユーサー……私も……すぐ……行くから……」


 手に握られた短剣が、月光を反射して光る。


「やめろ……シオニーッ!」


 ソーマは咄嗟に意識を集中させ、スキルを操作する。

 だが、ただ死亡フラグを壊すだけでは意味がない。

 彼女を縛っているのは――ユーサーへの恋慕。


「……だったら……!」


 ソーマは震える息を吐き、恋愛フラグの通知をオンにした。


《シオニーの恋愛フラグが発生しました――破壊しますか?》


 表示されたフラグを見つめ、ソーマは拳を握りしめる。


「……すまない……!」


 決意と共に、ソーマはシオニーを抱きしめる。


《シオニーとユーサーの恋愛フラグを破壊しました》


 瞬間、シオニーの瞳から光が消え、短剣が床に落ちる。

 糸の切れた人形のように、ソーマの腕に崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……っ……!」


 ソーマの視界が滲み、膝が折れる。

 フラグ破壊の反動が全身を焼き尽くすように襲ってきた。

 気絶したシオニーを抱き締めながら、ソーマは震える声で呟いた。


「……絶対に……誰も……もう失わせない……」


 その誓いは、崩壊した聖堂の静寂に、深く沈んでいった。

 第6章ボス戦終了です……


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ