114:裏切りの旗に潜むフラグ
大聖堂を震わせる戦いの渦中――
シオニーのかすれた叫びは、確かにソーマの胸に届いていた。
「……お願い……! 誰か、私を……止めて……! 誰か……ユーサーを……助けて……!」
その声は泣き声にも似て、哀願にも似ていた。
冷たい光弾を放ちながら、その奥に隠された心は必死に抗っている。
ソーマは迫る斬撃を受け止めながら、胸の奥に熱を覚えた。
(そうだ……シオニーも、ユーサーも……本来なら仲間を裏切るわけがない。あいつらは誓っていた……絶対に仲間を守り抜くって……!)
そう思った瞬間、脳裏にひとつの不吉な記憶が蘇る。
(……裏切りフラグ!)
ソーマは短く息を呑んだ。
(俺はあの通知を切っていた……! だからシオニーを見かけた時も気づけなかった……!)
血と叫びが飛び交う戦場の最中、ソーマは内に潜むスキルを叩き起こすように意識を集中させる。
瞬間、視界の端に無機質な文字が浮かんだ。
――〈裏切りフラグ通知:ON〉
「……ッ!」
わずかな点滅。
その直後――赤黒いアイコンが視界に警告として浮かび上がった。
《シオニーの裏切りフラグが発生しました――破壊しますか?》
「……やっぱりか……!」
ソーマは奥歯を強く噛みしめる。
だが同時に新たな表示が走る。
《構造解析開始……因果ポイントを特定中……》
「チッ……時間がかかる……!」
その隙を逃さず、ユーサーの剣が稲妻を伴い振り下ろされた。
雷鳴のような衝撃が響き、ソーマは竜機剣を構え引き金を引く。
剣の柄に収められた弾倉の魔弾が一つ砕ける。
その魔力が刃に纏わりつき、青白い光が奔流となって溢れ出す。
「サンダーエッジッ!」
ユーサーの稲妻の一撃と、魔弾に込められた雷の魔力を纏った竜機剣の斬撃が激突した。
雷と雷が衝突し、轟音と爆風が大聖堂を揺るがす。
爆ぜた魔力の火花が床を焼き、天井のステンドグラスを粉々に砕いた。
「ぐっ……! まだ……耐えられる!」
痺れる腕を必死に押さえ込みながら、ソーマは後退せず立ち向かう。
(解析が終わるまで……絶対に倒れるわけにはいかない!)
その直後、ユーサーが距離を取り、雷を纏わせた掌を突き出した。
青白い稲光が奔り、矢のように一直線にソーマへと襲いかかる。
「……なら、こっちもサンダーバレット!」
ソーマは竜機剣を銃に変形させ、引き金を引く。
雷の魔弾が発射され、稲光を撃ち落とす。
爆裂する光の渦の中で、互いの力が拮抗する。
するとユーサーは剣を構え直し、雷の奔流を纏わせた。
剣を薙いだ瞬間、閃光が奔りソーマに襲い掛かる。
「……ッ、こっちだって!」
ソーマは竜機装の左腕を前に突き出した。
「シールド、展開!」
竜の紋章が刻まれた六角形の障壁が腕部から広がり、雷撃を正面で受け止めた。
衝撃で床が裂け、聖堂の柱が軋む。
雷光が壁を焼き焦がしながらも、シールドは必死にそれを押し返す。
「ぐぬぅぅ……! 押し負けるかよッ!」
ソーマの全身に竜の魔力が流れ込み、盾が強く輝いた。
雷光が弾かれ、稲妻が四方に散って壁や天井に突き刺さる。
「ソーマ! 大丈夫!?」
背後からエルーナの声が響く。
彼女もまた蛇の魔物を撃ちながら、必死にソーマを見守っていた。
「……そうだエルーナ! 竜眼照準でユーサーを見てくれ!」
「え……? どういうこと!?」
「いいから! あいつの体……いや、身につけてる物を視てくれ!」
エルーナは頷き、片眼鏡でユーサーを観察する。
竜眼照準が赤く輝き、彼女の瞳にユーサーの姿が鮮明に映し出された。
「……これは……!」
エルーナの声が震える。
「……不気味な魔力が……マントに集中してる……! あれは……」
ソーマもユーサーの背を見据える。
青いマントが風に翻り、その布地に刻まれた模様が目に入った。
「……それは……!」
視界に焼きついたのは――かつて自分が作り、仲間と誇りを分かち合った【栄光の架け橋】の旗。
(……捨ててなかったのか……)
胸が熱くなる。
追放し道を違えた後も、それをマントに加工してまで纏っていたユーサー。
その事実に、こみ上げる想いがソーマを満たした。
「……やっぱり、お前は……! 仲間を捨ててなんかいない!」
ソーマの瞳に力が宿る。
「ユーサー! その旗が証拠だ! お前の心はまだ……繋がってる!」
その瞬間、解析ウィンドウが点滅する。
《因果ポイントを特定……》
《原因:ユーサーのマントに込められた■■■■■■の魔力》
《提示:ユーサーのマントの破壊》
「……その旗を汚す鎖を……俺が断ち切ってみせる!」
ソーマの声は、大聖堂の残響にすら打ち勝つほどの確信と誓いに満ちていた。
次回ユーサーとの戦いを決着させます。
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