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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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112/149

112:崩壊のフラグが鳴る時

 聖女会議の最中に現れた影――ツィーナと虚ろな瞳のユーサー、そして苦悩に揺れるシオニー。

 荘厳な祈りの場である大聖堂は、一瞬にして悲鳴と怒号に塗りつぶされた。

 人々の視線は祭壇の前へと釘づけになり、誰もが何が起きているのか理解できずに立ち尽くす。


「シオニー! やめろ!」


 ソーマの声が響いた。

 その叫びは必死で、喉が裂けるほどの力を込めていたが、届いたはずの少女の瞳はなお揺れていた。

 助けを求めるような光が一瞬だけ差したのに、すぐに冷たい影が覆い隠す。

 まるで抗いがたい命令に心を縛られているように。


「……なんで、こんな……」


 ソーマは拳を強く握りしめた。


 その時――大聖堂の大扉が重々しい音を立てて開かれ、金属の軋む音と共に重装備の騎士たちが駆け込んでくる。


「報告! 聖都の各所にて魔物の群れが出現!」


 騎士の一人が叫ぶ声は、場の空気をさらにかき乱した。


「巨大な虫、蛇、さらには動く石像の魔物まで……市民が襲われています!」

「な……!」


 ざわめきが波紋のように広がり、恐怖が人々の顔を染めていく。

 聖なる儀式の場が脅かされるだけでなく、街までもが危機にさらされている――その事実に、祈りを捧げていた群衆の心は一瞬で絶望に染まった。


「くっ……!」


 騎士団長バランは歯を噛みしめた。

 視線は祭壇の聖女と聖女の卵たち、その前に立つソーマたち、そして混乱をもたらした元凶へと揺れ動く。


「この場を……聖女様を死守すべきか、それとも……」


 その逡巡は重く、責任の重さに押し潰されそうな声音だった。


「……俺に任せろ!」


 ソーマが一歩踏み出し、力強く言い切る。


「この場は俺たちが食い止める! 騎士団の皆さんは聖都の防衛を優先してくれ!」

「なに……!?」


 バランの顔が引きつり、騎士たちの間に動揺が走る。


「だが、聖女様をこのまま危険に晒すなど……!」


 その声を遮ったのは、聖女アルマの凛とした声だった。


「……行きなさい、バラン」


 静かに、しかし揺るぎない響きが大聖堂を満たす。


「聖都は今、人々の悲鳴で満ちています。彼らを救えるのは、あなた方しかいないのです。私は大丈夫です。聖女の卵たちと自分の身は私が守ります」


 その眼差しは迷いなく、まるで全てを見通しているかのような神々しさを宿していた。


「……っ」


 バランは一瞬だけ唇を噛んだが、すぐに深く頭を垂れる。


「……御意。必ずや聖都を守って参ります!」


 号令一下、騎士たちは踵を返し、重い足音を響かせながら走り去った。

 残されたのは、聖女アルマと聖女の卵たちにソーマたち、そしてツィーナとその傍らの二人だけ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


「ユーサー! 聞こえるだろ! 俺だ、ソーマだ!」


 ソーマは必死に呼びかける。

 だがユーサーの瞳は深い霧に覆われたように虚ろで、そこにはかつての鋭さも、仲間への信頼も宿っていなかった。


「頼む……目を覚ましてくれ……!」


 声は震え、胸の奥を掻きむしられるような痛みに滲む。


「邪魔をしないで!」


 シオニーが鋭く叫ぶ。

 その声は剣よりも鋭く響いたが、震えを帯びているのをソーマは聞き逃さなかった。


「シオニー……お前、本当にそれを望んでるのか?」


 ソーマは必死に訴える。


「その顔……どう見ても助けを求めてるようにしか見えない!」

「ちが……ちがう……! わたしは……!」


 必死に否定するシオニーの声は途中で詰まり、唇は震え、瞳には涙がにじんでいた。

 ソーマは一歩前へ踏み出し、ツィーナを睨みつけた。


「ツィーナ……お前は一体何者だ! どうしてこんな真似をする! まさか……魔族なのか!?」


 ツィーナは静かに口元を歪めた。

 そしてひらりと手を振ると、その姿がゆらりと揺らぎ、受付嬢としての美しい面影が完全に剥がれ落ちていく。


 現れたのは、冷たい微笑をたたえた謎の女。

 黒曜石のような漆黒の髪が闇に溶け、深紅の瞳が異様な輝きを放ち、血のように赤い衣をまとった美女。

 その存在だけで空気は凍りつき、聖堂の灯火がかすかに揺れた。


「魔族? ふふ……やめてちょうだい」


 女の声は甘美でありながら、刃のような冷たさを孕んでいた。


「そんな下等な存在と一緒にしないで」

「……じゃあお前は、一体……」


 ソーマの問いに、女は愉快そうに首を振るだけ。

 そして視線をシオニーへと向ける。


「わかってるわよね、シオニー?」

「うっ……」


 その一言で、シオニーの顔が苦痛に歪む。

 喉を押さえ、必死に何かを言おうとするが、声は出ない。


「やめろ……! シオニーをこれ以上……!」


 ソーマが叫ぶが、女はただにやりと笑い、渦から蛇の魔物を呼び寄せた後、その姿を闇の中へと溶かすように消えていった。

 残されたのは、虚ろなユーサーと、涙に濡れた瞳で震えるシオニーだけ。


「……ソーマ……」


 シオニーの声はかすれていた。


「邪魔をするなら……倒すしかない」

「くそっ……!」


 ソーマは奥歯を噛み、二人を見据える。


「ユーサー……! 頼む、戻ってきてくれ!」


 その叫びもむなしく、ユーサーは剣を抜き、無言のまま構えた。

 次の瞬間――シオニーもまた短剣を握り、涙を零しながらソーマたちへと飛びかかる。


 聖女会議の祈りの場は完全に崩れ去り、戦いの舞台へと変貌していった。

 いやぁ……筆がのらない……


※作者からのお願い


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