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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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110:祈りの夜に潜むフラグ

 聖都に到着してから、あっという間に一週間が過ぎた。

 十二月三十日――ついに聖女会議の日がやってきた。


 朝の聖都は、前日までとは明らかに違っていた。

 空気は冷たく澄み渡り、街中に祈りと祝祭の香りが満ちている。

 人々は白衣を纏い、道には花びらが散り、鐘楼の鐘は朝から幾度も鳴り響いた。

 街の全てが、まるで創造神への祝福のために整えられたかのようだった。


 クリスが静かに告げる。


「聖女会議は、毎年十二月三十日から年明け一月一日にかけて行われます。聖女様と、聖女候補である卵たちが、夜を徹して祈りを捧げるのです」

「……夜通し祈るってことか?」


 ソーマは目を丸くした。


「はい。それが、この大陸を覆う結界を強め、新しい一年を迎えるための儀式です。今年は特に重要です」


 エルーナが小さく問い返す。


「千年目……だから?」


 クリスは穏やかに頷く。


「アストリア歴は来年、千年を迎えます。創造神の導きが千年続いた証です。だからこそ、今年の聖女会議は特別な意味を持つのです」


 街全体が張りつめた空気に包まれている理由が、少しずつ理解できた。

 人々は千年の節目を目前に、不安と期待を混ぜながら祈りに臨もうとしていた。


(千年の節目……世界が何か大きく変わるのかもしれない。だが、俺の胸にあるのは……)


 聖都全体が祝祭と祈りの熱気に包まれる中、ソーマの心だけは重苦しい影を引きずっていた。


(……もう一週間も探しているのに、手がかりすら掴めない)


 あの日、雑踏の中で確かに見た――ユーサーの背中。

 それからソーマは毎日、聞き込みを行った。

 露店の商人、宿屋の主人、巡礼者――誰に尋ねても「知らない」と返されるばかりだった。


 王都のギルドにも魔道通信機で確認したが、返答は変わらず「行方不明」のままだった。


 胸に苛立ちと不安が絡みつく。

 手元の地図を見返し、街の路地や広場のあらゆる可能性を頭に描きながら、ソーマは何度も人波を見つめた。


「……ソーマ、大丈夫か? 顔がこわばってるぞ」


 ジョッシュが気安く肩を叩く。


「あぁ……悪い。気にしないでくれ」


 言葉ではそう返すが、拳には知らず知らずのうちに力が入っていた。

 焦りが、知らぬ間に体を緊張させていたのだ。

 エルーナはため息をつきながら、少し冷ややかに言った。


「祭りの日に影を追い続けるのは不毛よ。今日はクリスが主役なんだから」

「……わかってる」


 ソーマは返事をしたが、胸の奥の焦燥は消えない。

 クリスがそっと囁いた。


「ソーマさん。……大丈夫です。祈りの日に不安を抱える必要はありません。きっと導きはありますから」


 その言葉に、ほんの少しだけ心が和らぐ。

 だが、完全に解けたわけではなかった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 聖都の大通りは、巡礼者で溢れていた。

 白衣を纏った人々が道を埋め尽くし、花びらを撒き、讃美歌を口ずさむ。

 露店では香辛料や聖水、奇跡の小物が並び、鮮やかな旗や飾りが街を彩っていた。


「すごいな……」


 ジョッシュが思わず呟く。


「幻想的……」


 エルーナは瞳を潤ませ、聖なる空気に包まれていた。

 だが、ソーマの視線は常に人波を探していた。

 背の高い影、マントの揺れ、振り返りそうな横顔――そのどれかを求め、無意識に首を動かしてしまう。


(いない……今日も、いないのか……)


 落胆と苛立ちが交互に胸を締め付ける。

 仲間たちの足取りを乱さないよう必死に取り繕うが、気づけば拳に力が入っていた。


 彼は人々の肩を押し分けながら、視界の隅々まで探した。

 聖堂の尖塔、鐘楼の影、路地裏……何度も振り返り、全ての人影に目を走らせた。


(……ユーサー、どこにいる……?)


 心臓が早鐘のように打ち、焦燥が全身を駆け抜ける。

 思わず立ち止まり、目を見開くが、視界には花びらにまぎれた巡礼者たちしかいなかった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 夕刻。

 聖女と聖女候補たちが大聖堂に集う時間が近づいた。

 空は茜色に染まり、鐘楼が荘厳に鳴り響く。

 街の人々は大聖堂前に集い、広場には祈りの歌が重なり始めていた。


 人波に押されながら歩むソーマの視界に、ふと見慣れた姿が映る。


「……あれ?」


 紅髪のツインドリルに、かつて見た露出の高い扇状的な服装。


「ツィーナさん……!?」


 思わず声が漏れる。人混みの向こうでツィーナは振り返った。

 驚きに目を見開き、やがて信じられないものを見たように微笑む。


「ソーマ……久しぶりね」


 ソーマは我を忘れて駆け寄った。


「なんでここに……!? いや、それよりユーサーは!? シオニーは……!」


 矢継ぎ早の質問に、ツィーナは一瞬たじろぐも、すぐに落ち着いた声で答えた。


「安心して。大丈夫よ……実はアスエリスの森で魔物に襲われて少し遭難したけど、どうにか切り抜けたの。ユーサーも、シオニーもここにいるの」

「……っ!」


 胸の奥で、長く締め付けられていた鎖が外れるような感覚。

 ソーマは深く息を吐き、安堵の笑みを浮かべた。


「生きてたのか……」


 ジョッシュが大げさに胸を撫で下ろす。


「見間違いじゃなかったんだな! あーよかった!」


 エルーナも肩の力を抜いた。


「なら、もう探す必要はないってことね」


 クリスも微笑む。


「良かったです……ソーマさんも、少し安心できますね」


 ソーマはツィーナに真剣な声で告げた。


「ツィーナさん、すぐにでもギルドへ報告してくれ。行方不明のまま扱われているから」

「……えぇ、そうね」


 ツィーナは微笑むが、その目にはどこか影が差していた。


 一行は人混みに押されるように大聖堂へ歩を進める。

 その背中を、ツィーナはじっと見つめ続けた。


 唇がわずかに歪む。

 ――優しい受付嬢の笑顔の裏に、冷ややかで鋭い意図が宿っていた。


(……やっぱり来てたのね、ソーマ。ふふ……今夜は、きっと忘れられない夜になるわ)


 鐘の音が一層強く鳴り響く。

 いよいよ聖女会議の幕が上がろうとしていた――

 久々登場のツィーナさんを覚えている人はいるのかしら?

 作者も読み返して姿や口調を確認しています。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


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ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

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