11:フラグブレイカー
《――破壊しますか?》
空間に突如浮かび上がった問い。
それはまるで、ゲームの選択肢のようだった。
けれど前世の記憶が戻ったソーマには、もう迷いなどなかった。
「……ああ、壊してやるよ。そんな未来、くれてやるかよ……ジョッシュが死ぬなんて、絶対に許せない……何度でも言う……絶対にだ!」
破壊する。
決意を示した瞬間、空間がきしむような音を立てる。
《スキル:フラグ破壊 が解放されました》
《破壊対象:『ジョシュアの死亡フラグ』》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:ジョッシュアの説得、もしくは結界の維持をしてください》
(これは……スキルが俺にどうすればいいのか教えてくれている? だったら――)
「ジョッシュ、落ち着け! 今、結界を解除したら三人とも終わりだ!」
「兄さん、私ならまだ……! 結界は維持できます。だから……どうか冷静に!」
顔を真っ赤にし、肩で息をしていたジョッシが、ソーマたちの言葉にハッと目を見開いた。
「……ソーマ、クリス……ああ、そうだな。俺……少し、取り乱してた」
《ジョシュアの死亡フラグが破壊されました》
(よし……!)
心の中でガッツポーズを取った直後、再び脳内にフラグが表示される。
《ソーマ、ジョシュア、クリスティーナの死亡フラグが発生しました――破壊しますか?》
(くっ……! まだ死亡する運命自体は変えられていないって事か……!)
だが、ソーマの答えは迷いなく出た。
(……やるしかないだろ。全部、ぶっ壊してやる!)
《破壊対象:『ソーマ、ジョッシュア、クリスティーナの死亡フラグ』》
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:結界の維持もしくはゴブリンの掃討をしてください》
(……! わかってるよ、そんなの。出来ないから死亡フラグが立ってるんだろ……でも……今はやるって決めたんだ!)
そんなソーマの決意に応える様にフラグが反応する。
《了解――魔力を消費し死亡フラグへの干渉を開始します》
その瞬間、ズシン、と頭に衝撃が走る。
脳が締め付けられる痛みとともに、全身から魔力が抜かれるような感覚が襲った。
今まで魔道具に魔力をチャージしていた時とは桁違いの魔力の消費だ。
(これが……死亡フラグへ干渉するって事か……体が重い……でも、生き延びるためなら)
《構造解析開始……因果ポイントを特定……》
《提示:ゴブリンを迎撃しつつ結界を維持し耐えてください》
スキルの提示の結果未来がどう変わるのかは分からない。
だが今のソーマには頼るしかなかった。
「ジョッシュ、クリス! 俺が外で迎撃する! ジョッシュは結界内から魔球で援護を! クリス、絶対に結界を切るな!」
「でも、それじゃ……ジリ貧になるだけですよ!」
「待て、それなら俺が囮になるって話だろ!」
「時間を稼ぐんだ! ここは……俺に任せてくれ!」
二人は一瞬、迷った表情を浮かべる。
しかし、すぐにうなずいた。
ソーマは剣を抜き、結界の外へと飛び出す。
外気に触れた瞬間、雰囲気が一変した。
殺意と暴力だけが凝縮したような群れが牙を剥いて襲いかかる。
「こいよ……死にたい奴から、順番にな!」
刃が閃き、ゴブリンの喉を裂く。
血が噴き出し、地面を赤く染める。
次いで、二体目、三体目。
殺到するゴブリンを、ソーマは休む間もなく斬り捨てていく。
「ッ……はぁ、はぁっ……!」
重い。
全身が鉛のように重い。
そのとき、背後からの殺気。
「っ……!」
反射的に飛び退く。
ゴブリンナイトの盾を構えての突進になんとか反応する。
「ちぃっ……!」
剣を下から振り上げる。
狙いは、脇腹、だが――
「くそ、硬ぇ……!」
鎧に刃が弾かれ、逆にゴブリンナイトの拳がソーマの腹を抉る。
「ぐっ……!」
肺の空気が押し出され、視界が歪む。
「ソーマ! 魔球ストレート、くらえ!」
ジョッシュの魔球が、ゴブリンナイトの後頭部に炸裂。
怯んだ隙に、ソーマはなんとか距離を取った。
(倒し切る必要はない。今はスキルを信じて耐えるんだ! 時間を稼げ――)
斬っては避け、避けては斬る。
一瞬の油断が命取りになる状況で、ソーマは自分自身に言い聞かせる。
「耐えろ……耐えろ……!」
喉が焼ける……目が霞む……だが、足は止めない……止められない。
だが――
ゴブリンジェネラルが、耳を劈くような咆哮を上げた。
群れがさらにクリスの結界へ殺到する。
「ソーマさん、もう限界です……!」
「俺の魔力も、もう……!」
(ここまで……なのか……)
三人が諦めかけたその時だった。
――ズドン!
視界の端で、ゴブリンの頭が弾け飛んだ。
二体目、三体目、次々と、鮮血が飛び散る。
「何だ……!?」
「ソーマ! 援軍だ!」
ジョッシュの叫びに振り返ると――
部屋の入り口から、駆け込んでくる複数の影。
それは――
「生きてるかい! ソーマ!」
Bランクパーティー【オクトヴィア】。
先頭を走るラチーナの拳が、ゴブリンを粉砕する。
「よく耐えたね、あんたたち! ここからは【オクトヴィア】に任せな!」
《干渉起動――オクトヴィアの援護》
《ソーマ、ジョッシュア、クリスティーナの死亡フラグが破壊されました》
(俺たちは、生き延びたんだ……! まだ終わっちゃいない――でも、運命は変えられるんだ!)
胸の奥で先ほどまでの絶望が、少しだけ軽くなるのを感じた。
眼前の戦場はまだ終わっていないが、確かに何かが変わったと実感していた。
これが今の私にできるフラグを使った戦い方です。
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