表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/149

109:見失ったフラグ

 白銀の鎧を纏った騎士団長バランは、納品された魔石を手に取り、光に透かして確認すると低く重い声で告げた。


「この魔石は――我らが聖大陸を覆う結界の維持に欠かせぬものだ。聖女の祈りだけで張り続けられていると思われがちだが、根幹を支えるのはこうした供給源だ。ひとつ欠ければ、聖域に裂け目が生じ、魔族が忍び込む危険すらある」


 堂内に、緊張が走った。

 ステンドグラスから差す光が魔石を照らし、虹色の煌めきが祭壇と仲間たちの顔を染め上げる。


(やはり……ただの納品じゃなかったんだ。大陸を守る楔そのものを、俺たちは運んでいたんだ……)


 ソーマは思わず背筋を伸ばした。

 クリスの横顔も、真剣に結界を見据えている。


「……ご苦労であった」


 魔石を受け取ったバランは厳かに頷き、次いで一行へ視線を移す。


「そなたらの名を伺ってもよいか?」


 ソーマたちが名を告げると、バランの表情がわずかに揺らいだ。特にジョッシュとクリスの名を聞いた時、その眉間に影が落ちる。


「ふむ……似た名を持つ知人がいたものでな。気にするな」


 すぐに笑みを浮かべたが、その奥に何か含みがあるのは明らかだった。

 ソーマは心の奥に小さな棘のような違和感を残したまま、深く頭を下げた。


「聖女会議までは一週間ある。聖女の卵のクリス殿と共に聖都を過ごすとよい。信仰の都を知ることも、また旅の糧となろう」


 バランの勧めに従い、一行はクリスの案内で聖都の散策を始めることになった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 聖都アストレアの中心都市は、まさに信仰の結晶だった。

 石畳の大通りには花々が飾られ、清らかな水路が道の両脇を流れる。

 その水には小さな光粒が浮かんでおり、夜になれば星空のように街を照らすのだという。


「わぁ……すごい……」


 エルーナの口から感嘆が漏れる。

 聖都の美しさには瞳を輝かせずにはいられないようだ。

 中央広場では巡礼者たちが膝をつき、祈りを捧げている。

 旅人も商人も、みな白い布を頭に巻き、聖女への感謝を口々に唱えていた。


「ここは……世界で一番、創造神アストリア様に近い場所だから」


 クリスの言葉には誇りと畏敬が込められていた。


 市場に足を運べば、香辛料の芳醇な香りが漂う。

 異国から集められた品々――砂漠の民が織った布、北方の氷原で獲れた魔獣の毛皮、聖女の加護を受けたとされる小瓶の聖水まで並んでいた。


「おいソーマ、これ見ろよ! 聖女の涙だってよ。たった一滴で千年腐らない水になるらしいぜ!」


 ジョッシュが目を輝かせる。


「……高すぎるな」


 ソーマは値札を見て苦笑した。

 庶民には到底手が出ない額だ。


 それでも、活気に溢れる聖都は不思議と人を惹きつける。

 街全体が清らかな空気に包まれているようで、歩くだけで心が洗われていく気がするのだ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 さらに人で賑わう大通りを歩いていたときだった。

 ソーマの視界に、見覚えのある背中が映った。


「……ッ!」


 呼吸が止まる。

 人ごみの向こう、長身にマントを羽織った男。

 その背筋、その歩き方――間違いない。


「ユーサー……?」


 ソーマの口から漏れた名に、仲間たちが振り返る。

 だが彼の耳には届かない。

 ソーマは反射的に駆け出した。


「お、おいソーマ! どうした!?」

「待て!」


 仲間の声が遠のく。

 人々の肩をかき分け、視線を追う。

 確かに――あれは【栄光の架け橋】のリーダー、行方不明と聞かされたはずのユーサーだった。


「待て……待てよ!」


 必死に追う。

 だが――

 辿り着いた先に、ユーサーの姿はなかった。


「どこだ……どこに行った……!」


 鼓動が早鐘を打つ。

 周囲を見渡すが、そこにあるのは祈りを捧げる群衆、楽しげに笑う子供、露店を冷やかす巡礼者ばかり。


 だが、確かに見た。

 幻覚や見間違いなんかじゃない。

 あの独特の歩き方、肩にかかるマントの色、振り返る直前にわずかに見えた横顔――


(……間違いない。ユーサーだった)


 ソーマは歯を食いしばり、さらに路地へ駆け込んだ。

 細い石畳の路地裏、静かな修道院の庭、鐘楼の影――隅々まで探すが、どこにもいない。


「ソーマ!」


 追いついたジョッシュが肩を掴んだ。


「一体どうしたんだよ、そんな血相変えて」

「……ユーサーを見た。ここにいたんだ」

「はぁ!? ユーサーだって? 行方不明なんじゃ……」


 ジョッシュの表情に驚きと疑念が入り混じる。

 エルーナも険しい顔で言葉を重ねた。


「見間違いじゃないの?」

「違う。……絶対に、あれはユーサーだった」


 ソーマの声は震えていた。

 確信と不安、その両方で体が熱を帯びる。


 ふと、背後から風が吹き抜けた。

 振り返った瞬間、遠くの鐘楼の影が揺れ、そこに一瞬だけ人影が重なったように見えた。


(……あれは、偶然か? それとも……)


 冷たい汗が頬を伝う。

 まるで自分の焦りを嘲笑うかのように、影はただ静かに揺れているだけだった。


「ソーマさん……」


 駆け寄ったクリスが心配そうに覗き込む。

 その瞳は、聖女候補らしい優しさに満ちていたが、ソーマはうまく応えられなかった。


(ユーサー……本当にお前なのか。もしそうなら、なぜ姿を隠す? なぜ俺たちの前から消えたままなんだ……)


 胸の奥がざわつく。

 もし本物なら――なぜ俺たちから姿を隠す?

 なぜ、影のように消える?


 再会の喜びよりも、不穏な予感の方が強かった。

 胸を締め付ける焦燥感に、ソーマは拳を強く握り締めた。

 色々な伏線を張りつつ次回聖女会議開幕。


※作者からのお願い


投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、↓の☆☆☆☆☆から評価頂き作品への応援をよろしくお願い致します!


お手数だと思いますが、ブックマークや感想もいただけると本当に嬉しいです。


ご協力頂けたら本当にありがたい限りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ