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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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108:聖女の結界と安心フラグ

 水平線の向こうに、白銀に輝く陸地が見え始めた。

 聖大陸アストレア――全世界の信仰が集う聖地。


「……見えてきたな」


 甲板に立つソーマは、潮風を受けながら目を細めた。

 今まで数々の大陸を渡り歩いてきたが、そのどれとも違う気配を放っている。


 島のように小さい。

 大陸と呼ぶには違和感すら覚える規模。

 だが、その小さな大地を虹色に輝く巨大なドームが覆っていた。


「聖女様の結界……相変わらず美しい……」


 クリスが静かに呟く。

 その横顔には、憧れと誇りが入り混じっていた。


「だな……島まるごと宝石みたいだな」


 ジョッシュが口笛を吹き、感心したように腕を組む。


「魔族が寄りつけないのも納得だわ」


 エルーナは冷静な声で言ったが、その瞳にはわずかな感嘆が浮かんでいた。


(これが……世界中の信仰が支えてきた力……か)


 ソーマは息を呑む。

 魔族の侵攻で世界が揺らぐ今、この聖域だけが揺るがぬ砦のように輝いていた。


 やがて船が港に近づき、虹色の結界へ突入する瞬間が訪れた。

 光の膜は厚く、まるで固体のように見える。


「突っ込むのか……?」


 ソーマの不安をよそに、船は結界へ滑り込んだ。

 一瞬、全身を圧迫するような感覚が襲い、息が詰まる。

 だが次の瞬間、温かな光に包まれ、肌に心地よい風が吹き抜けた。


「……通れた」


 ソーマが胸を撫で下ろすと、クリスが小さく微笑んだ。


「信仰を持たぬ者でも、悪しき存在でなければ拒まれません。こうして私たちが港に降り立てる時点で、すでに入国審査は終わっているのです」


「つまり俺たちは合格ってわけか」


 ジョッシュが豪快に笑った。

 だがソーマは、笑いながらも背筋に汗が伝うのを感じていた。

 確かに通れた。

 それは認められた証。

 だが、もし心のどこかに僅かでも歪みがあったら――そう思うと、結界の温かさが逆に恐ろしく思える。


 船を降り、港に設けられた関所へと進む。

 白銀の甲冑を纏った騎士たちが整列し、来訪者を迎えていた。


「名を」


 形式的な確認だけだった。

 ギルドカードを差し出す必要もなく、ただ身元と随行者を伝える。


「……ギルドカードは見せなくていいのか?」


 ソーマが問うと、門番の騎士は淡々と答えた。


「通行を決めるのは結界そのもの。我らは記録を残すだけだ」

「……そういう仕組みか」


 ソーマは頷く。

 冒険者の世界にどっぷり浸かってきた自分にとって、それは奇妙で、同時に息苦しい世界のようにも思えた。

 胸の奥に、小さな不安が芽生える。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 関所を抜けると、石畳の道がまっすぐ市街へ伸びていた。

 両脇には白壁の建物が立ち並び、遠くから鐘楼の音が響いてくる。


「じゃあ早速、魔石の納品を……」


 ソーマが言いかけたところで、クリスが首を振った。


「ここには冒険者ギルドは存在しません。納品は直接、教会の総本山にて行う必要があります」

「総本山……教会か」


 エルーナが目を細める。


「つまり、あの結界を維持してる中心ってわけね」

「ええ。依頼書によると納品先は教会の騎士団――その長であるバラン団長に渡すことになっています」


 ソーマは少し眉をひそめた。


「……でも、俺たち、教会の人間でもなんでもない。すんなり入れてくれるのか?」

「心配はいりません」


 クリスは真っ直ぐにソーマを見た。


「私は聖女候補――卵です。その身分を示せば、同行する皆さんも問題なく通れるはずです」

「……そっか」


 ソーマは胸を撫で下ろす。

 だが同時に、心の奥がざわめいた。


(結局、俺たちを導いてるのはクリスだ。……守られてるのは、俺たちの方かもしれない)


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 教会の総本山は、港町から馬車で一時間ほどの丘の上にあった。

 白亜の大聖堂が天に向かってそびえ、巨大なステンドグラスから差し込む光が石畳を染めている。

 門前で騎士たちに止められるが、クリスが名乗ると空気が一変した。


「――聖女の卵殿!」


 騎士たちは慌てて片膝をつき、恭しく頭を垂れる。

 その視線が一斉にクリスへ向けられ、彼女は一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐに真っ直ぐな瞳で応えた。


「随行者と共に、魔石の納品に参りました。案内をお願いします」

「はっ!」


 騎士たちは即座に門を開き、彼女たちを通した。


(……クリスがいなければここまですんなりいかなかっただろうな)


 ソーマは心の中で呟いた。

 彼女の背は小さいのに、不思議と誰よりも大きく見える。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 教会内部は荘厳そのものだった。

 高い天井には神々を描いた壁画、中央には金と白銀で飾られた祭壇。

 空気は澄みきっていて、足を踏み入れるだけで背筋が伸びる。


 そこで待っていたのは、一人の壮年の男だった。

 銀の鎧を纏い、背には巨大な剣。

 燃えるような赤銅色の髪を持ち、その眼差しは鋭くも温かい。


「聖女候補クリス殿、よくぞ参られた」


 低く、重厚な声。

 ソーマは直感した――この男こそ、騎士団長バラン。


「こちらが、アスヴァルから託された魔石です」


 ソーマは魔石の入った収納袋を差し出した。

 重みを確かめたバランは、頷き、深く礼をする。


「確かに受け取った。遠路はるばる、ご苦労だった。本来なら聖女様にも立ち会って頂くのだが、あいにく聖女会議が近くてな」


 その一言で、ソーマの胸に溜まっていた緊張が解けていった。


(無事に……納品完了か)


 聖大陸アストレア――その門は、確かに開かれた。

 だが、そこに待つものが祝福か災厄かは、まだ誰にもわからなかった。

 聖大陸アストレアのイメージはバチカン市国の大陸版で。


※作者からのお願い


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