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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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107:裏切りフラグ――破壊しますか?

 北の港町アルト。

 潮風が吹き抜ける埠頭に停泊した大型帆船の前で、ソーマたちは乗船の準備を整えていた。

 船員たちが縄を外し、樽を積み込み、甲板を忙しなく駆け回っている。

 帆が風を孕み、木造の巨体がきしむたびに、海の匂いが一層強く漂った。


「……いよいよだな」


 ソーマは波打つ海を見やりながら呟く。


「初めてのまともな船旅になるといいわね」


 エルーナが半眼でソーマを見やり、口元に意地悪な笑みを浮かべた。


「そ、そんなに心配しなくても……」

「今まで、五分も持たなかった人が何を言ってるのよ」


 図星を突かれ、ソーマは乾いた笑みを漏らした。

 ――船酔い。

 それは彼にとって最悪の天敵だった。

 過去の船旅は常に悪夢。

 数え切れないほど吐き、寝込み、まともに景色を眺めたことすらなかった。


「……でも、今回は大丈夫な気がする」


 ソーマは胸に手を当て、竜機装(ドラグレギナ)の感触を確かめた。


「どういう根拠?」


 エルーナが怪訝そうに眉を寄せる。


「なんとなく……かな。でも、クリスの新しい杖の力が関係してる気がする」


 視線を向けると、クリスは少し驚いたように目を瞬かせた。


「私の……樹命杖(ユグドラシルロッド)が?」

「そう。あれで回復魔法をかけられると、前より体が軽くなってるんだ。魔力の巡り方も違うというか……」


 ジョッシュが大げさに両手を広げた。


「おー、そりゃ朗報だな! これで甲板から顔真っ青でぶら下がってるソーマを見なくて済むぜ!」

「……そんな姿ばかり見せてきたのか、俺は」


 自嘲気味に笑い、ソーマは仲間たちと共に船へと足を踏み入れた。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 帆が風を受け、船が港を離れる。

 潮騒とともに甲板に立つソーマは、初めて船旅を楽しんでいる自分に気づいた。


「……すごいな。海がこんなに綺麗だったなんて」


 夕日を受けて煌めく水面。

 波が寄せては返し、時折魚の群れが飛び跳ねる。

 潮風は冷たいが清らかで、船のきしみさえ心地よい音楽に思える。


「顔色も悪くない。これは……珍しいわね」


 エルーナが感心したように覗き込む。


「うん、本当に大丈夫そうです……」


 クリスが胸を撫でおろした。


「そりゃいい! せっかくだ、今夜は甲板で星を眺めながら一杯やろうぜ!」


 ジョッシュの陽気な声に、ソーマは頷いた。


(……やっと。やっと普通に船旅を楽しめるんだ)


 胸の奥で、じんわりと温かい喜びが広がっていく。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 しかし――その奇跡は一日と持たなかった。

 翌朝。

 ソーマは目を覚ますと同時に、胃の奥から不快な波がこみ上げ、顔を真っ青にしてベッドに突っ伏した。


「……だ、駄目だ……やっぱり来た……」

「ソーマさん!」


 クリスが慌てて駆け寄る。

 回復魔法の光が体を包み、吐き気はすっと消えた。


「……ありがとう。やっぱり……永続は無理か。杖の力で効果は強くなっても、時間が経てば元通りだな」

「……それでも以前より格段に楽になってるはずです。前は一晩で立ち上がることすらできなかったのだから」


 クリスの優しい言葉に救われながらも、ソーマはがっくりと肩を落とした。

 完全克服はまだ遠い――それが現実だった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 昼下がり、船員の歓声が甲板を賑わせた。

 網にかかったのは、めったに獲れないという大魚。

 金色の鱗が太陽を反射し、見る者を魅了する。


「おおっ、こいつは幸運だ! 今日は特別に、客人たちにも振る舞おう!」


 船長の粋な計らいに乗客たちは湧いた。

 だが、獲れた魚は一匹だけ。分け前は一組につき一人前。

 当然――ソーマたち四人は誰が食べるかで争うこととなった。


「こういうのは公平に決めようぜ。……じゃんけんだ!」


 ジョッシュが拳を掲げる。


「異議なし」


 エルーナはあっさりと手を引いた。


「私、魚は苦手なの。三人でやりなさい」

「えっ……ええと……私は、少しでいいです」


 クリスも遠慮がちに譲った。

 結果、ソーマとジョッシュの一騎打ちに決まった。


「……よし! 俺はグーを出すぜ!」


 ジョッシュがにやりと笑い、堂々と宣言する。


 その瞬間。

 ソーマの脳裏に、あの無機質な声が響いた。


《ジョシュアの裏切りフラグが発生しました――破壊しますか?》


「っ!?」


 思わず息を呑む。

 確かに見えた。ジョッシュの頭上に浮かぶ淡い光の文字。


(……裏切り……フラグ?)


 心臓が高鳴る。

 今までも強大な敵を倒した後、不意に頭の中が軽くなったことはあった。

 だが、それがフラグの解放と関わっていたとは、今の今まで気づかなかった。


「おい、どうしたソーマ! さっさと出せ!」


 ジョッシュの声で我に返る。


「……ああ」


 ソーマはゆっくりと拳を突き出した。


「じゃんけん――ポン!」


 ソーマの手はグー。

 対するジョッシュの手はチョキ。


「なっ……!? 俺はグーを出すって言ったのに……!」

「それを信じる程お人よしじゃないつもりだ」


 ソーマは小声で呟き、勝利を収めた魚を受け取った。

 ジョッシュは納得いかない顔で髪をかきむしる。


「おいおい! まさか本当に読まれてたってのかよ!」


 ソーマは苦笑を浮かべながらも、胸の奥で冷たい感覚を覚えていた。


(裏切りフラグ……こんなものまで見えるようになったのか)


 仲間を信じたい気持ちと、目に映る現実の狭間で揺れる。

 しかし、同時に思った。


(必要ない時まで、こんな表示を見ていたら心が持たない……)


 意識を集中すると、頭の中に選択肢が浮かんだ。

『通知を切る』――迷いなく選ぶ。


 フラグの文字はすっと消え、視界は元の静けさを取り戻した。


「……これでいい」


 ソーマは心の中で呟き、仲間たちの笑顔を見渡した。

 たとえ何が見えようと――信じるべきものは、自分が選ぶ。


 船は波を裂き、彼らを聖大陸アストレアへと運んでいった。

 私はあと何フラグを見える様にすればいいんですかね?

 ここまで死亡フラグ以外使いこなせてないと言うのに……


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