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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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106:見送りと誓いのフラグ

 冬の朝。

 王都の飛竜便乗り場は、白い吐息が幾重にも重なって漂い、空気が張りつめたように冷えていた。


 巨大な影が地を覆う。

 檻から出された飛竜たちが、鞍を背に装着され、翼を広げて準備を整えている。

 翼がはためくたびに風が巻き起こり、周囲の雪を粉のように散らした。


「……何回見てもすげぇな」


 ジョッシュが頭上を仰ぎ、口を開けたまま唸った。


「つくづく、こいつらが敵じゃなくてよかったって思うわ。……まぁ、機械仕掛けの龍ならこの前戦ったけどよ」

「ふふっ、あれはまた別物でしょ」


 エルーナが呆れたように肩をすくめる。だが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいた。


「それに世界には、この飛竜よりもっと大きな龍がいるっていうじゃない。ほんと、広いわね……」

「私は……やっぱり少し緊張してしまいます」


 クリスは杖を抱きしめるように胸に当て、白い息を吐いた。


「でも、アストレアへ向かうためには必要な旅路。飛竜もまた、神の与えた翼のようなもの……そう思えばきっと、恐れることはないはずです」


 三人のやり取りを聞きながら、ソーマは一歩前に進む。

 視線の先――見送りの人々が集まっていた。

 いつも手を振ってくれるメルマ。

 小さな体で寒さに震えながらも、必死に笑顔を作るリン。

 そして今回はカルヴィラとゼルガンの姿までもがそこにあった。


「……カルヴィラさんにゼルガンさんまで」


 ソーマは思わず呟く。


「依頼が停止されている間くらい、こうして送り出すのも務めだ」


 カルヴィラは腕を組み、鋭い眼差しを向けてきた。


「これは国からの正式な依頼。くれぐれも抜かるな。……しっかり果たしてこい」

「はい」


 ソーマは短く、しかし力強く返した。

 その横で、リンが小走りで駆け寄ってくる。


「今年こそ……ソーちゃんと一緒に実家に帰って、のんびりできると思ってたのに……」


 小さな唇を尖らせ、目元に寂しげな影を宿す。


「結局、また遠くに行っちゃうんだね」

「……ごめんなさい」


 ソーマは思わず視線を逸らした。

 本当なら、そんな日常を一緒に過ごしたかった。だが、託された責務がある。


「でも……わかってるよ」


 リンはぎゅっと拳を握り、息を整える。


「ソーちゃんが戦ってるのは、あたしたちの暮らしを守るためなんだって。だから――」


 潤んだ瞳を上げ、力強く言った。


「だから、あたしも王都で待ってる。帰ってきたら、今度こそ一緒に出かけようね♡」

「……ああ、約束する」


 ソーマは真剣な眼差しで答えた。

 その会話を聞いていたゼルガンが、大きな手をソーマの肩に置く。


「お前が行く先に何が待っているかは分からん。だが心配するな。少なくともお前の大事な人たちは俺が守る。……背中を預けて行け」


 その顔は鍛冶職人ではなく、かつて勇者パーティーで剣を振るった戦士のものだった。

 力強い瞳に、ソーマは胸の奥が熱くなるのを感じる。


「……ありがとうございます」


 メルマも涙ぐみながら声を張り上げる。


「みなさん……どうかご無事で! 必ず帰ってきてください!」


 その声は震えていたが、仲間を信じる強さに満ちていた。

 ソーマは振り返り、仲間たちに視線を向ける。


「行こう。……みんな、準備はいいか?」

「おう! 冬の空を飛ぶなんて、滅多にできねぇ経験だろ!」


 ジョッシュが拳を握りしめ、笑う。


「緊張はしてますけど……でも、楽しみです」


 クリスが微笑んだ。


「空から竜眼照準(ドラグスコープ)》で見る景色……想像しただけで胸が高鳴るわ」


 エルーナは風に髪をなびかせながら冷静に言ったが、その目は輝いていた。


 四人は見送りの人々に深く一礼し、飛竜便の乗り場へと向かう。

 巨体の飛竜が低く鳴き、翼を大きく広げた。

 乗り手が鞍を整え、ソーマたちを手招く。


「じゃあ……行ってきます」


 ソーマは振り返り、見送りの人々へ最後の一言を告げた。

 メルマは大きく手を振り、リンは涙声で「約束だよ!」と叫ぶ。

 カルヴィラは無言で頷き、ゼルガンは腕を組んで笑みを浮かべる。


 そして、ソーマたちは飛竜の籠に乗り込んだ。

 竜の鼓動と熱が革越しに伝わり、胸の奥に緊張と高揚が入り混じる。


「……出発します!」


 乗り手の号令が響き、飛竜が地を蹴った。

 轟音と共に巨大な翼が広がり、風が雪を巻き上げた。

 石畳が遠ざかり、見送りの人々の姿が小さくなる。

 リンが最後まで手を振り、メルマが目頭を押さえ、ゼルガンとカルヴィラが黙って見守る姿が下へと沈んでいった。


 空へ――

 飛竜は雲を突き抜け、広大な蒼穹へと舞い上がる。

 王都の城壁が小さくなり、雪化粧した大地が眼下に広がった。


「なぁ、ソーマ!」


 ジョッシュが風に負けじと叫ぶ。


「こうして見ると、なんだって出来そうな気がしてくるな!」

「……確かに。空から見る竜眼照準(ドラグスコープ)》の景色は、息を呑むわよ」


 エルーナは冷静に言いながらも、頬がわずかに紅潮していた。


「わぁ……神の御業のようです」


 クリスの瞳は感動に潤み、祈りに似た微笑みが浮かぶ。

 ソーマは仲間たちの表情を一つひとつ確かめ、胸の奥に強い決意を刻む。


(俺たちは行く。聖大陸アストレアへ――そして、この旅でまた何かを掴むんだ)


 飛竜の翼が空を裂き、一行を北の港町アルトへと運んでいく。

 新たな大陸、新たな出会い、そしてまだ見ぬ試練が、彼らを待ち受けていた。

 ソーマ達が離れている間に王都では何が起こるんですかね?


※作者からのお願い


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