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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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104:新たな旅路と失踪のフラグ

 王都の石畳を走る魔獣馬車の車輪が、乾いた音を響かせて止まった。

 見慣れた尖塔と白壁の街並みが視界に広がり、一行の胸にようやく安堵が訪れる。


「……帰ってきたな」


 ソーマが馬車から降り、冷たい冬の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 遠征の疲れはまだ体に残っていたが、王都に戻れたことで心の芯に火が灯るようだった。


「でも、まだ休めないわね」


 エルーナが肩を竦め、風で乱れた髪を指先で整える。


「ギルドへの報告が残ってるわ。ギルマスが待っているでしょうし、すぐに向かった方がいい」

「だな。腹は減ってるが、まずは仕事だ」


 ジョッシュが苦笑し、腰のバットを軽く叩いた。


「では、行きましょう」


 クリスが穏やかに微笑む。

 四人は街の人々の往来に混じりながら、冒険者ギルドへと足を運んだ。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 ギルドの重い扉を押し開けると、館内は以前と変わらず閑散としていた。

 依頼掲示板には『依頼受付停止中』の札が張られたまま。

 冒険者の姿はほとんどなく、帳簿を整理する音と靴音だけが広い空間に響いていた。


「……まだ、停止が続いてるのか」


 ソーマが思わず呟く。

 その声に反応するように、カウンターの奥からメルマが顔を上げた。


「ソーマさん……! 無事に戻ってきてくれて、本当にありがとうございます」


 彼女の表情には、疲れと同時に心からの安堵が滲んでいた。


「俺たちは、できることをやっただけです」


 ソーマは淡々と答えたが、心の内では緊張が解けていくのを感じていた。

 その横には、ギルドマスターのカルヴィラが立っていた。

 腕を組み、鋭い視線をこちらに注いでいる。


「……礼だけで済ませるつもりはない」


 カルヴィラが低い声を発した。


「君たちに、新たな依頼を任せたい」


 一行に緊張が走る。


「依頼……ですか?」


 ソーマが問い返すと、メルマが小さく頷いた。


「これは国からの正式な依頼です。以前、アスガンドから持ち帰ってもらった魔石――覚えていますか?」

「ええ……あの、膨大な魔力を帯びた石のことですね」


 クリスが記憶をたどりながら答える。


「そう。その魔石を、聖大陸アストレアに納品して欲しい」


 カルヴィラは言葉を区切り、重みを込めて続けた。


「新年に聖女会議が開かれるのは知っているな? その会議に間に合うよう、年内には出発してもらう必要がある」

「……聖女会議、か」


 ソーマは小さく呟き、眉を寄せる。

 世界中から聖女の卵と呼ばれる聖女候補者たちが集う、一年で最も神聖な集会。

 そこへ届ける役目を託されるということは――それだけ国が重要視している証だった。


「でも……なぜ、俺たちに?」


 ソーマは一歩踏み出し、疑問をぶつけた。


「こういう大役なら、ユーサー達【栄光の架け橋】に任せるのが普通じゃないですか?」


 その瞬間、場の空気が一段と重くなった。

 カルヴィラの顔が険しさを増し、メルマも唇を噛んで俯く。


「……彼らには頼めない。理由は――行方不明だからだ」

「……え?」


 一行は一斉に息を呑んだ。


「ユーサー達が……行方不明?」


 ジョッシュが信じられないという声を上げる。


「最後に受注した依頼は、アスエリスでのものだった。だが、その後の報告が途絶えた」


 カルヴィラの声は低く、重い。


「依頼先からの連絡もなく……加えて、同行した担当受付嬢のツィーナからの報告もない」

「ツィーナさんまで……」


 ソーマの表情が揺らぐ。

 かつて担当してくれていた受付嬢――対応はぶっきらぼうでも、確かにギルドの一員として支えてくれていた存在。

 その彼女までが行方をくらませていると知り、心の奥に冷たい影が広がった。


「……」


 ソーマは拳を握りしめた。

 ギルドを支える柱のような存在が、同時に消えた。

 それは偶然にしては出来すぎている。

 胸の中に、不安が針のように突き刺さった。


「アスエリスに……捜索に行きます! 今なら、エーメル女王にも協力を……!」


 焦燥を抑えきれず、ソーマは思わず口にした。


「ソーマ君」


 カルヴィラの声音が鋭く、しかし同時に優しさを帯びていた。


「心配する気持ちは分かる。だが、今君たちに求められているのはアストレアへの納品だ。この魔石は各国も注目している品。失敗すれば、国際問題にすら発展しかねない。【栄光の架け橋】の件は、既にアスエリス側のギルドにも捜索を依頼している」

「……そうですか」


 ソーマは目を閉じ、深く息を吐いた。

 胸の奥で葛藤が渦巻く。

 だが、やるべきことは一つしかなかった。


「……分かりました。俺たちが、アストレアまで魔石を届けます」


 カルヴィラは深く頷き、その瞳に確かな信頼を宿した。


「助かる。君たちなら必ずやり遂げると信じている」

「……出発は?」


 ソーマが問う。


「早いに越したことはない。準備に残された時間は多くない。だが、君たちにはできるはずだ」


 カルヴィラの声音には、力強い信頼と同時に、どこか不吉な響きがあった。

 ソーマは仲間たちを見回した。

 ジョッシュは口を固く結び、クリスは静かに頷き、エルーナは深く息を吐いて目を伏せた。


(ユーサー達の失踪……ツィーナさんまでいなくなった……)


 胸の奥に不安の影は残ったまま。

 だがソーマは剣を握る手に力を込めた。


「……行こう。俺たちがやらなきゃならない」


 こうしてソーマ達は、国から託された新たな大役を引き受け――聖大陸アストレアへの旅路に挑むこととなった。

 まぁ流れで魔石の納品もしますよね。

 なんか知らんけどユーサー達いなくなったんだし。


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