103:機械竜の力と不安のフラグ
戦いの直後、ソウル町はまだ煙の匂いに包まれていた。
砕けた壁、焼け焦げた瓦礫、倒れた屋根――
町の至る所に、昨夜の影との戦いの爪痕が刻まれている。
だが、町人たちの表情は絶望ではなかった。
むしろ、そこに宿っていたのは希望だった。
影の魔族は討ち倒された。
外壁を覆っていた闇は、クリスの結界で祓われた。
「みなさん、本当に……ありがとうございました!」
瓦礫を片づけていた若者が、ソーマたちに深々と頭を下げる。
「いや、俺たちはやれることをやっただけだ」
ソーマは手に持った木材を積み直し、額の汗をぬぐった。
ジョッシュは子供たちにせがまれ、炎で薪を燃やして仮設のかまどを作っていた。
「へっ、腹が減ってちゃ復興もできねぇからな! ほら、よく燃えるだろ!」
「すごい!」
「あったかい!」
子供たちの歓声に囲まれ、ジョッシュは得意げに鼻を鳴らした。
一方、エルーナは治療所で負傷者の応急処置を手伝っていた。
「動かないで。……はい、これでしばらくは持つわ。ちゃんと安静にしてなさい」
患者の肩を叩く手つきは冷静だが、その表情はどこか柔らかかった。
クリスは祈りを込めながら回復魔法を施し、人々の疲れを癒していた。
光に包まれるたび、患者の顔には安堵の笑みが広がっていく。
町全体が痛みに呻きながらも、確かに前へ進もうとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――復興の手伝いを終えた一行は、中央広場に近い宿屋に泊まることになった。
戦いで消耗した体は鉛のように重く、湯と食事でようやく人心地がつく。
宿の主人は涙を浮かべ、ソーマたちに厚く礼を述べた。
「皆様がいなければ……ソウルはもう影に呑まれていたでしょう。本当に……ありがとうございます」
夕食の卓に並んだのは、簡素ながら温かな料理だった。
焼き立てのパン、野菜のスープ、煮込んだ肉。
その一つ一つが、戦いを生き延びた町の今を示していた。
「うんめぇ……! やっぱ戦ったあとは肉に限るな!」
ジョッシュは骨付き肉を豪快にかじり、満足げに唸った。
「こんなに温かい食事……当たり前のことが、こんなにありがたいなんて」
クリスはスープを口に運び、思わず目を細める。
エルーナはワインを一口含み、窓の外を見やった。
「町の灯り……消えなくてよかったわね」
「俺たちは……ちゃんと守れたんだな」
ソーマは仲間たちを見回し、静かに言った。
その夜、一行は柔らかな寝台に身を沈め、久方ぶりの安らかな眠りを得た。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
翌朝。
町の人々に見送られながら、一行は王都への帰路についた。
ギルドが用意した魔獣馬車に乗り込み、車輪の音が石畳を叩いて遠ざかっていく。
馬車の中は、穏やかな揺れと木の軋む音だけが響いていた。
「……なぁ、せっかくだし新装備の説明、ちゃんと聞かせてもらうぜ?」
ジョッシュがバットを撫でながら口火を切る。
「昨日は戦いっぱなしで、詳しいこと聞けなかったからな」
「そうだな」
ソーマは頷き、膝に置いた竜機剣を見下ろした。
赤と金に輝くその剣は、まだ僅かに熱を帯びているように思えた。
「まず……この剣は銃にも変形する。昨日使ったように、魔力を込めた弾丸を撃ち出すこともできる」
ソーマはグリップ部分を示し、説明を続ける。
「それだけじゃない。剣モードで引き金を引けば、弾丸に込められた魔力が刃を纏うんだ。昨日、最後に影を断った一撃……あれはその機能を使った」
「つまり、弾丸を変えれば……属性攻撃ができるってことね」
エルーナが目を細め、片眼鏡を押し上げる。
「ああ。炎の魔弾を込めれば炎を纏った斬撃になる。氷なら氷、雷なら雷。使い方次第で戦術は無限に広がる」
「すっげぇじゃねぇか!」
ジョッシュは感嘆の声を上げる。
「そりゃあ昨日の魔族も一撃で斬れるわけだ!」
ソーマは新たな鎧へと視線を移す。
「それと……竜機装のことも話しておくな。魔力を込めれば左腕から魔力のシールドを展開できる。昨日、巨大な拳を受け止める時に使ったやつだ。それだけじゃない。脚部に仕込まれた魔力駆動で、一瞬だけ速度を跳ね上げられる。間合いを詰める時や、逆に緊急回避に使える。ただし、魔力の消費は激しいから乱発はできない」
「守りと速さ……まさに盾と翼の役割ですね」
クリスが感嘆の息をもらす。
ソーマは一瞬言葉を止め、真剣な顔になる。
「……でも、まだ一つ切り札がある。俺としては……使うことがないことを願ってる」
その声音には、重い響きがあった。
仲間たちは詮索せず、ただ静かに頷いた。
「クリス。世界樹の杖はどうだった?」
ソーマが問いかける。
クリスは樹命杖を抱き、目を閉じて微笑む。
「今まで以上に……聖なる力が増幅されるのを感じました。祈りを込めたとき、まるで世界樹そのものが私の背を押してくれるようで。……あの結界の広がり方は、私自身も驚きました」
「クリスがいてくれたから、町は救われたんだ」
ソーマは穏やかに言った。
「俺の竜炎撃棒もよ、炎の威力が増したぜ。殴ったときの火力が前より強ぇ。おかげで影の群れも一気に蹴散らせた」
ジョッシュがおニューバットを掲げ、ニヤリと笑う。
「少しでも強くなってるのなら、それで十分よ」
エルーナが冷静に返しながら、片眼鏡を指で軽く叩いた。
「私は……この竜眼照準から流れ込んでくるの。敵の魔力の流れ、距離、風速……狙撃のための情報が鮮明に流れ込んでくる。正直、少し怖いくらい。まるで……世界のすべてを見通すような気がして」
「でも、それがあるから影の魔物を倒せた。……昨日、あれがなかったら俺たちは押し潰されていた」
ソーマは真剣な眼差しでエルーナを見つめ、言った。
「……そうね。じゃあ、ありがたくこの眼を使わせてもらうわ」
エルーナは一瞬目を逸らし、そして小さく笑った。
馬車の車輪がゴトリと音を立て、外の景色は徐々に緑から石造りの街並みへと変わっていく。
それぞれの武具は確かに力を増しており、一行の心には新たな自信が芽生えていた。
だが同時に、ソーマの胸の奥には小さな棘が残っていた。
(これだけの力を与えられても……魔族はさらに恐ろしい力を持って現れる。俺たちがどこまで抗えるのか……)
揺れる馬車の中、ソーマは剣を見つめ、静かに心に誓った。
「必ず……この力で、皆を守る」
こうして、一行は王都へと戻っていくのだった。
個人的に設定説明する回が楽しい。
読者の方の反応が少し怖いですが……
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