102:影を断ち切るフラグ
黒い影の群れが、ソウル町の外壁を覆っていた。
地面から滲み出すように現れ、這い寄る影の化け物。
夜でもないのに、辺り一帯が闇に沈んだかのような錯覚すら覚える。
魔族の指先がゆらりと動くたびに、影は波打ち、獣や人の形をした異形が次々と這い出してくる。
「行け、我が影ども! 人間を喰らい尽くせ!」
紅く光る三白眼に、愉悦の色が宿る。
「くっ……次から次へと!」
ソーマは竜機剣を振り抜き、迫りくる影の魔物を斬り裂いた。
鋭い斬撃が確かに身体を両断する――が、その断面は煙のように揺らめき、すぐに閉じて再生する。
まるで切った瞬間から、もう一度影を塗り直されるかのようだった。
「なっ……斬れてない!?」
「ふふふ……ただの影を裂いてどうなる。核を潰さねば、何度でも蘇るのだ」
魔族は肩を震わせて笑い、足元の影を大きく広げる。
そこから狼の形をした魔物が飛び出した。牙は黒鉄のように鋭く、目は不気味に赤く光っている。
「核……!」
ソーマは思わず後退し、息を呑む。
その時――乾いた銃声が夜気を裂いた。
パンッ、と響く銃声とともに、狼の胸を紅い光弾が撃ち抜いた。
「ギャアアッ!」
狼は断末魔をあげ、今度は霧散して二度と再生しなかった。
エルーナが竜眼照準を光らせ、銃口を下ろす。
片眼鏡に宿る紋様が淡く輝いていた。
「……見えるわ。あいつらのコア……全部、透けて見えてる」
彼女はすっと笑みを浮かべ、照準を次の影に定める。
「影の魔物は任せて。ソーマは本体を!」
「助かる!」
ソーマは短く叫び返し、魔族を睨みつける。
その時、背後からクリスの声が響いた。
「ソーマ! 私とジョッシュは外壁の魔物を抑えます! このままじゃ町が破られます!」
振り返れば、すでに外壁は黒い影に取り付かれ、じわじわと石を侵食していた。
ジョッシュがバットを肩に担ぎ、口角を上げる。
「おう! 俺の炎で壁ごとまとめてぶっ飛ばしてやるよ!」
クリスは真剣な眼差しで頷く。
「壁ごとはやめてください! ソーマさん、ここは任せます。どうか……負けないで!」
「分かった! 頼んだ!」
ソーマも応じ、二人を見送る。
クリスとジョッシュは並んで外壁へ駆け、外壁に群がる魔物へ飛び込んでいった。
「仲間を散らすか……舐められたものだな。愚かな判断だ」
魔族の唇が歪む。
「では、貴様はここで影の牢獄に沈め!」
瞬間、魔族の影が伸びソーマの足に鎖のように絡みついた。
「なっ……ぐっ!」
影は冷たく、骨まで締め上げるような圧力で動きを封じてくる。
魔族が指を弾くと、闇から狼や腕の形をした魔物が一斉に飛び出す。
「これで終わりだ!」
ソーマは剣を振ろうとするが、足が縛られて動けない。
(動けない……だったら――!)
瞬時に決断し、竜機剣の機構を展開させる。
赤金の刃が軋む音を立て、銃身とグリップへと変形した。
「なら……撃ち抜くまでだ!」
引き金を引くと、紅い魔弾が狼の頭を一閃し、影ごと粉砕する。
「なっ……なんだ、その武器は!?」
魔族が目を剥いた。
ソーマは銃口を突きつけ、低く吐き捨てる。
「剣でも、銃でも……影は断ち切れる!」
その時――外壁の方から、轟音と共に緑の光が町を包んだ。
「……これは」
ソーマが振り返ると、結界のような光が外壁を覆っている。
クリスが樹命杖を掲げ、詠唱を終えたところだった。
結界の力が外壁にへばりついていた影の魔物を一斉に吹き飛ばす。
冒険者たちが歓声をあげ、戦場に希望が差し込んだ。
「あれは……聖女の卵か!」
魔族が憎悪に顔を歪め、怒声を轟かせた。
「ならば――全ての影を我が身に集わせよう!」
町中に散らばっていた影が渦を巻き、魔族の体へ吸い込まれていく。
肉体は膨張し、骨の軋む音と共に数倍の巨躯となった。
漆黒の巨人。
紅い瞳が三つに増え、地鳴りのような唸り声をあげる。
「フハハハ! これぞ影の王! 人間ごとき、指先で潰してくれる!」
ソーマは銃を握りしめ、冷や汗を流す。
(でかすぎる……! でも、やるしかない!)
巨人の拳が振り下ろされた。
地面が裂け、石畳が砕け散る。
「うおおおッ!」
ソーマは咄嗟に左腕を掲げ、魔力を放出。
――バチィッ!
赤金の装甲から展開した魔力シールドが拳を受け止めた。
衝撃が全身を打ち抜き、膝がきしむ。
「ぐっ……重っ……まだ……!」
ソーマは歯を食いしばり、ドラグニルを再び剣モードへ変形させた。
そして引き金を引くと、魔弾のエネルギーが剣身に吸い込まれ、紅いオーラが刃に纏う。
「な、なんだその光は!?」
魔族の三つの瞳が揺らぐ。
「これが……ゼルガンさんの込めてくれた、新しい力だ!」
ソーマは叫び、全身の力で駆け出す。
紅蓮の刃が巨大な影を切り裂き、中心の核を貫いた。
「終わりだァァァァッ!!」
一太刀――影の巨体は断末魔を上げ、眩い光の中に溶け消えた。
黒い影が霧散し、ソウル町に静寂が訪れる。
冒険者や町人たちが顔を上げ、歓声と安堵の声が広がった。
ソーマは肩で息をし、剣を地に突き立てる。
「……ふぅ……倒した……のか……」
クリスが結界を解き、駆け寄ってきた。
「ええ……見事でした」
ジョッシュはバットをぶんと振り、炎を散らしながら笑う。
「ったく……クリスが一瞬で壁を守っちまうから、俺の出番少なかったぜ!」
エルーナは銃を収め、竜眼照準を押し上げる。
「でも、私達がいなかったら危なかったわ。これもゼルガンさんの新装備のおかげ……本当に頼もしい」
ソーマは息を整えつつ、胸の奥に沈む不安を振り払えずにいた。
(また……ギフトを使う魔族。これから、どれだけ現れるんだ……?)
新装備で魔族と渡り合える手応えを得ながらも、未来を覆う影はますます濃くなっていくのを、ソーマははっきりと感じていた。
次回は新装備の説明回です。
男のロマンを詰め込んだ装備を語らせてください。
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