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【第七章完結】すべてのフラグを壊してきた俺は、転生先で未来を紡ぐ  作者: ドラドラ
第六章:新年会? いいえ、波乱のフラグです

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101:影に潜むフラグ

 ゼルガンの鍛冶場で新しい武具の説明を受けていたその最中、工房の片隅に置いていた魔道通信機が突如、甲高い音を立てた。

 赤く点滅する光。

 差出人の表示は――メルマ。


「……! 緊急連絡か」


 ソーマが真っ先に駆け寄り、通信機を手に取る。

 胸の奥がざわつき、嫌な予感が広がっていく。


『ソーマさん……! 至急、ギルドに来てください! 緊急依頼を出したいのです!』


 文字だけなのに、切迫した調子が鮮烈に伝わってきた。


『了解しました。すぐに向かいます!』


 ソーマは即座に返信を打ち込み、仲間たちに振り返る。


「皆、行こう! ただ事じゃない」


 クリスは杖を胸に抱くように持ち直し、瞳を固く結ぶ。


「緊急事態なら……迷っている暇はないですね」


 ジョッシュは新しいバットを肩に担ぎ、歯を食いしばった。


「せっかく装備も揃ったばっかだ……なら、これを試すのにゃ上等の場が来やがったな!」


 エルーナは片眼鏡――竜眼照準(ドラグスコープ)を指先で軽く押し上げ、短く息を吐く。


「不吉な予感しかしないけど……行くしかないわね」


 ゼルガンは腕を組み、大きく頷いた。


「行ってこい。武具は実戦でこそ真価を発揮する。……装備の説明書を渡しておく。道中で確認するんだ。――必ず、生きて帰ってこい」


 ソーマは真剣な瞳でゼルガンを見据え、深く頷く。


「はい――必ず」


 こうして、一行は鍛冶場を飛び出し、冒険者ギルドを目指し駆け抜けていった。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 冒険者ギルドに駆け込むと、館内はいつも以上に重苦しい緊張感に包まれていた。

 掲示板は『依頼停止』の告示で覆われ、冒険者たちの姿はなく、受付に立つメルマの表情さえ硬直している。


「ソーマさん……! こちらへ」


 声を上げたのはメルマだった。

 隣にはカルヴィラの姿もあり、その顔には焦燥が浮かんでいる。


「状況を説明します」


 メルマは深呼吸をひとつ置いてから口を開いた。


「南東にあるソウル町が、魔族の襲撃を受けています。町の外では黒い魔物が現れ、町を襲っているとの報告が……!」

「なんだと……!」


 ジョッシュが思わず声を荒げる。

 カルヴィラが険しい声で続けた。


「だが今は依頼受付を停止している。冒険者たちは出払っているし、低ランクの者しか残っていない。奴らに任せれば犠牲は避けられん……だから真っ先にお前たちを頼った」


 その言葉に一行は息を呑む。

 クリスは唇を噛み、強い光を宿した瞳で言った。


「つまり……私たちが行かなければ、町の人々は……!」

「そういうことだ」


 カルヴィラは短く頷く。


「どうだ、ソーマ。受けてくれるか?」


 答えは決まっていた。

 ソーマは一歩前に出て、強い声で答える。


「……はい。俺たちが行きます」


 エルーナは溜め息をつきながらも、片眼鏡を光らせて微笑んだ。


「まったく……危ない橋ばっかり。でも、これが私たち冒険者の役目ね」

「決まりだな!」


 ジョッシュは拳を握り、声を張る。


「町の連中を一人だって死なせねぇ! 全力で援護だ!」


 カルヴィラはすぐに手を叩き、命令を下した。


「よし! 魔獣車を用意してある。最速の脚を持つ疾駆馬だ。急げ!」


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 魔獣車は普通の馬より脚力に優れた飼いならされた魔獣を使った特別車だった。

 疾走感は凄まじく、風が窓を叩き、車体が大きく揺れる。

 その中で、一行は沈黙に包まれていた。


「……ソウル町には、俺も何度か行ったことがある」


 ソーマはゼルガンに貰った新装備の説明書を読みながら、ぽつりと漏らす。


「穏やかな町だった。……あんな場所が、魔族に襲われるなんて」


 クリスは祈るように両手を胸の前で握りしめる。


「どうか、間に合いますように……」

「間に合わせるんだよ!」


 ジョッシュが力強く言い切った。


「俺らが間に合わなかったら、誰がやるんだ?」


 エルーナは目を細め、片眼鏡越しに外を見据える。


「黒い魔物……普通の獣や魔物とは違う。……油断したら即、命を取られる」

「だからこそ、俺たちがいる」


 ソーマは剣の柄に手を置き、強く言い切る。


「新しい装備もある。皆で力を合わせれば、絶対に打ち破れる」


 車内に漂っていた不安を、ソーマの声が断ち切った。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


 夕暮れが町を染める頃、ソウル町に到着した。

 その光景は、息を呑むほど異様だった。


 町の外壁は黒い影に覆われ、何体もの魔物が暴れ回っている。

 人々の叫び、武器のぶつかり合う音、爆ぜる炎――全てが混じり合い、まるで戦場。


「……間に合った!」


 クリスが杖を構え、駆け出そうとした瞬間――


「待って!」


 エルーナが竜眼照準で周囲を覗き、声を張り上げた。

 地面に伸びる夕暮れの影が、不自然に揺らいでいた。

 やがて街灯の下から、ぬるりと何かが這い出す。


「……あれは」


 エルーナの声が低く震えた。

 影から現れたのは、一体の魔族。

 痩せた体躯に漆黒のマント。

 顔は闇に覆われ、瞳だけが紅く光っている。

 その足元からは黒い影が広がり、次々と魔物の形を成していく。


「ようこそ、冒険者ども」


 影から響くような声が辺りに満ちた。


「ここはもう我らの舞台。……逃げ場など、どこにもない」


 ソーマは剣を構え、一歩前へ出る。


「お前が……この町……町民を襲っている魔族か」


 魔族は不気味に笑った。


「町? 人間? どちらでも構わぬ。ただ……影があれば、我は幾らでも生き物を喰らい続ける」


 その言葉と同時に、地面に伸びる影が一斉に蠢き、魔物の群れを生み出した。

 蠢く黒の狼、翼を持つ鳥、鎖のように絡みつく触手――


「……影から魔物を生み出している……!」


 クリスが息を呑み、杖を振り上げる。


「クソッ、厄介だぜ!」


 ジョッシュが炎を纏わせたバットを振りかざす。


「足元に気を付けて! 日が落ちるにつれて奴の影の範囲が増えるわ!」


 エルーナが警告を飛ばす。


 ソーマは深く息を吸い、赤金に輝く剣を抜き放った。

 ――竜機剣(ドラグニル)


 刃に宿る紅の光が夕暮れを切り裂き、仲間たちの心を奮い立たせる。


「ここで止める! 俺たちが、この影を断つ!」


 叫びと共に、ソーマたちは影の魔族との戦いに挑んだ。

 黒く染まる町を背に――

 守るべきものを胸に――

 所詮新装備のお試しキャラ。

 名前なんか必要ないでしょ。


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