1:パーティー追放は新しい物語の始まりフラグ
「ごめん、ソーマ。君には──このパーティーから、出ていってもらう」
それは、クエストを無事に終えて宿屋へ戻った直後のことだった。
打ち上げパーティーだと思っていた部屋で、ユーサーはそう言って、一枚の紙を差し出した。
今日は俺達のパーティー【栄光への架け橋】を結成してちょうど1年。
──だから、俺は昨日、ちょっといいミノタウロスの肉を奮発して、おかみさんに料理を頼んでおいたのに。
突き出された一枚の紙と、リーダー・ユーサーの真顔。
場の空気が、静かに重くなる。
金髪がさらりと揺れる。
いつも通りの姿のはずなのに、やけに遠く見えた。
(──まあ、いずれこうなる予感はあったけどさ。いざ言われると、やっぱり……ちょっと堪えるな)
俺──ソーマ・フラハは、出された言葉の重みにちょっと遅れて反応しながらも、平静を装って問い返す。
「今さらどうしてそんなことを?ここまで一年、うまくやってきたじゃないか」
「そんな事も分からないんですか?だからですよ」
皮肉まじりにそう言って、メガネをクイッと上げたのはクールビューティーな頭脳担当・エーデルだった。
「リーダーは前衛の要。シオニーは回復、アイムは斥候と補助。ジェラウドは盾役で、私は攻撃支援。全員、明確な役目があるわ。……でもあなたは?」
まるで“何もしていない”とでも言いたげな物言いに、さすがの俺も反論する。
「俺だって戦ってるし、援護やサポートだって──」
「それだけなんだよ」
遮ったのはユーサー。
表情はあくまで穏やかだけど、声には明確な決意がにじんでいた。
「僕たちのパーティー【栄光への架け橋】の目的は、いずれ復活する魔王を封じること。そのために、全員が自分の力を磨いてる。──だけど、ギフトを使いこなせていない君を、これ以上連れていく余裕はないんだ」
「はぁ……ほんと、優しいユーサーが回りくどい言い方するから、私が代わりに言ってあげるわ」
ため息をついてそう言ったのは、ヒーラーのシオニー。
いつも俺にだけ当たりが強い。
「アンタがやってることなんて、誰にでもできるのよねぇ?剣ぶん回して、素材拾って、荷物持って、魔道具に魔力チャージして、料理とか雑用こなしてるだけ。そーんなの、わざわざ“選ばれたパーティー”に必要だと思う?」
言いたい放題のシオニーをなだめながら、ユーサーが静かにまとめに入る。
「……そういうことだよ、ソーマ。悪いけど、ここでお別れだ」
俺は──もう、何も言えなかった。
この世界では、10歳になると全員が教会へと向かい、神から“ギフト”を授かる。
【剣】や【弓】、【斧】といった武器系のスキル、あるいは【火】や【水】、【風】など属性を操る魔法系のスキル──それらは戦闘向きのギフトとされている。
一方で、【鍛冶】や【裁縫】、【錬金】といった生産向けのギフトも存在していて、どんな人間にも必ず何かしらの力が与えられるのが、この世界の常識だ。
ギフトを理解し、使いこなしていくことで、剣なら【スラッシュ】、鍛冶なら【早打ち】など、スキルも得られるようになる。
──そんな中、俺に与えられたギフトは。
【フラグ】
意味不明な名前の、そのギフト。
教会の人間ですら初めて見ると言って驚いていた。
レアな力ではあるらしい──だが、それだけだった。
どんな能力なのかは誰にも分からず、スキルも発動すらしない。
珍しくても、使えなければただの無用の長物。
まさに宝の持ち腐れだ。
俺たちが暮らす”勇大陸アスヴァル”では、このギフトを授かる儀式を“入学式”と位置づけ、そこから15歳で成人するまでの6年間、王国の学園で義務教育を受けることになる。
1~2年目は共通の基礎を学び、3年目以降はギフトに応じた専門教育と実技訓練が行われる。
全寮制で費用はすべて王国が負担──これは、貧しい家庭や孤児でも平等に教育を受けられるようにという配慮だが、もちろん理由はそれだけじゃない。
それは、いつか復活する“魔王”に備えるためだ。
魔王を封印するためには、ギフト【聖女】の力が必要不可欠。
そしてその聖女を支える仲間たちを育てるため、王国は全力で支援しているのだ。
ユーサーは、そんな“勇者”の素質を持つ【勇者の卵】。
シオニーは、【聖女の卵】だ。
勇者や聖女の“卵”は複数人おり、魔王の復活に合わせて、もっともふさわしい者がその称号を受け継ぐとされている。
──そんな彼が、今、俺の前で申し訳なさそうに頭を下げた。
「君が普段から努力してるのは、学園の頃から知っていた。だからこそパーティーに誘ったんだ。でも……魔王の復活が近づいている今、僕たちは“ふさわしい存在”になるために歩みを止めるわけにはいかない。Cランクに昇格した今、これからはさらに過酷な任務が待ってる。だから……ソーマ、君のことを思っての決断でもある。どうか、わかってくれ」
──まさか、あの優秀なユーサーがここまで俺のことを考えてくれていたなんて。
頭を下げさせてまで……俺はいったい、何をしてるんだろうな。
きっと、覚悟を決めるべきなのは──俺の方なんだ。
「……こんな、自分でも使えないギフトしかない俺と、ここまで一緒に戦ってくれてありがとう。もう君たちの邪魔はしない。……魔王を封印するその日まで、心から応援してるよ」
「……わかってくれてよかった。それと、装備や資金は君の正当な報酬だ。持っていってくれて構わない。僕たちは、必ず“勇者”に覚醒し、魔王を倒す。誓うよ」
仲間たちもそれぞれ、言葉をかけてくれる。
「ま、雑用とか色々助かったよ。おかげで楽できた」
軽く手を振ったのは、斥候のアイム。
チャラそうに見えて、実は一番仲間想いだった。
「スキルを使わず、あそこまで立ち回れるのは普通じゃない。……お前なら、きっとどこかで活躍できる」
頼れるタンク、ジェラウド。
常に前線で皆を守ってくれた男だ。
「ま、世界の命運はこの聖女シオニー様に任せておきなさい。……それより、ここまで迷惑かけたんだから、もっと謝罪してほしいくらいだけど」
相変わらず高飛車な物言い。
でも、実力も資格も本物だ。
俺も何度、彼女の回復魔法に救われたことか。
「脱退手続きは、ソーマさんの方でお願いします。脱退届にはリーダーのサインと、魔道認証も済ませてありますので。……私たちは、これからの方針を話し合いたいので」
眼鏡を直しながら事務的に伝えるエーデル。
もうすでに、次の未来に目を向けているようだった。
──何か言おうとしたけど、言葉が喉で詰まった。
『……今まで、ありがとう』──その一言が、どうしても言えなかった。
言ってしまったら、本当に終わってしまう気がして。
俺はただ、黙って一礼し、脱退届を受け取った。
……どこかで、『やっぱり冗談だよ』って誰かが言ってくれるんじゃないかと、そんな期待をしてたのかもしれない。
でも──誰も、何も言わなかった。
その沈黙が、何よりの答えだった。
部屋を出ると、廊下の先には夕焼けが差し込んでいた。
けれど、その暖かな光さえも、今はなぜか冷たく感じる。
(……さて、これから、どうするか)
宿の女将さんに頼んでいた“昇格祝い”の料理。
……キャンセルしとこう。今食べたら、きっと涙の味しかしないから。
だけど──落ち込んでるヒマなんて、ない。
確かに、今の俺には“何もない”。
だけど、それでも、生きていくしかないんだ。
ギフト【フラグ】
まだ力は分からない。けれど、きっと意味はあるはずだ。
神様がくれたギフトに、無意味なものなんてあるはずがない。
そう──信じたい。
脱退届の紙を見つめながら歩く。
そこには、ユーサーの署名と、彼の魔力で刻まれた魔道認証の紋章が淡く輝いていた。
「……必ず、使いこなしてみせる。このギフトを」
誰にも聞こえないように。
けれど、確かに自分には届くように。
俺はそう、そっと呟いた。
これは終わりなんかじゃない。
むしろ──ソーマ・フラハの物語は、ここから始まるんだ。
そう心に決めて、俺は脱退届に自分のサインと魔道認証を施し、静かに部屋をあとにした。
はじめまして。読む専でしたがこの度初投稿してみました。
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