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【第二話】『婚約者の裏の顔』リリーからの手紙

 『ヴィヴィアン様へ

 元婚約者ハロルド様の裏切りを見抜かれたと聞き、わたくし、心より感服いたしました!

 実は、わたくしにも婚約者がおりますの。けれど、最近どこか様子が変なのです……

 どうか、わたくしにも浮気の見抜き方を教えてくださいませんか? リリー・ド・エヴァンドールより』


 「……ぷっ」


 テオドールが思わず笑いを漏らした。

 のぞき見するなんて、行儀が悪いわよ!


「なるほど、浮気探偵として名を馳せてしまったらしいですね、お嬢」

「いいじゃない! モンテローズ探偵事務所でも開こうかしら?」

「やめてくださいよ! おかしな肩書きができると、面倒ごとに巻き込まれるじゃないですか」


 だって……面白そうじゃない。

 リリー嬢が婚約者の浮気で困っているなら、助けてあげたいわ。

 だけど、見抜き方と言われても困るのよねえ。

 一応、私の能力のことはお父様からも他言しないように言われているし……


「そうね。リリー嬢にはなんて説明したらいいかしら? 特殊眼で見えたんですとは言えないし……」

「そこは……観察眼ってことにするしかないのでは? 鋭い直感力があるということにして」

「テオったら、また適当なこと言う……私に直感力なんてないに決まってるじゃない」

「……ま、お嬢がニブいのは、俺だけが知ってたらいいことなんで」

「失礼ね!」


 まあ、一般的に女の直感で浮気は見抜けることが多いって言うわね。

 視線が不自然だったとか、いつも時計を気にしているとか……

 そういうよくある話でごまかすしかないかしら。

 リリー嬢だって、何かおかしいと気付いている点があるはずよ。

 まずは話を聞いてみてからよね。


「とにかく! これはリリー嬢の婚約関係の危機だわ! 放っておけないでしょう?」

「いや……放っておくべきでは? お嬢がまたうっかり何かを視てしまうと面倒ですし……」

「だって、面白そうじゃない……スキャンダルの香りがするわ」

「……はぁ……またですか」

 テオが呆れた顔で、天井を仰ぎ見た。

 仕事を増やされるのが嫌なのね?

 そうはいかないわ!

 テオには優秀な調査員として、しっかり協力してもらわないと。


「……分かりました。どうせ止めても無駄ですので。ただし、くれぐれも無茶はしないでくださいよ?」

「もちろん。今回はお茶を飲んで、お話を聞くだけよ?」


 ◇


 リリー・ド・エヴァンドール嬢の屋敷は格式のある造りで、子爵家とはいえ由緒正しい家柄が感じられる。

 テオが調べてくれた調査書によると、リリー様はこの子爵家の一人娘で、跡取りなのね。

 つまり、婚約者は入り婿前提ということ。

 ──それなのに、浮気なんてするかしら?

 

 出迎えた侍女に案内され、私とテオは二階の客間に通された。

 テオはいつものように、護衛として入り口の横に立って控えている。


「ヴィヴィアン様! 本当に、お越しいただけるなんて……!」


 ピンクのドレスに身を包んだリリーが、ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべて頭を下げた。

 可愛らしくて、礼儀正しいご令嬢だわ。

 お辞儀の所作を見ただけで、育ちの良さがうかがえるわね。


「いいえ、困っている友人を放っておくなんて、わたくしにはできませんもの」

「そう言っていただけると……あ、どうぞお座りになってください」


 リリーは少し困ったように眉尻を下げると、ソファーをすすめてくれた。

 侍女が、可愛らしいティーセットを運んできて、お茶を入れてくれる。


「それで、リリー様。さっそくですけれど……お手紙に書かれていた、婚約者の様子が変というのは、具体的にどういう?」

「……何か決定的におかしいということではないんです……ちょっとした表情とか……一緒にいても落ち着きがないというか」

「リリー様の直感、ということですわね?」

「そうなんです。それで、ヴィヴィアン様がどうやって浮気を見抜いたのか、お話を伺ってみたくて……」

「そうですわね……わたくしの場合は、夜会で決定的な出来事がありましたから」


 そう……私の元婚約者は、過去視をしていなかったとしても、いずれ浮気はバレていたと思う。

 あれだけ夜会でも、恋人のほうを優先していたんだもの。

 周囲の人から見ても、おかしいのが丸わかりだったわ。


「わたくしの元婚約者は、ふたりきりのお茶会でもうわの空で……それに、読書などしているのを見たことがないのに、急に書物を持ち歩いたりするようになりましたのよ?」

「まあ……そんなことがありましたの。それは、気付きますわね?」

「リリー様は、何かおかしいと思っていることがありませんか?」

「それが……知人が教えてくれたんですけれど、エルマー様がその……おかしな宿へ出入りしているという噂があって……」

「おかしな、宿?」

「ええ……お恥ずかしいのですが、そういう宿屋があるでしょう? 女性とその……密会するような」

「ああ……そういう」


 なるほどね……火のない所に煙は立たないって言うものね。

 確かにそれは怪しすぎる情報だわ。

 ただ……浮気といっても、単に娼婦を買ったという可能性もあるけれど……

 貴族男性にはよくある話だし、それだけで婚約解消というわけにはいかないでしょうね。

 ここはしっかりと、証拠を押さえなくては!


「では、念のためその宿屋の名前をこちらに書いてもらえるかしら?」

 リリー嬢は美しい文字で宿屋の名前と、住所を書いてくれた。

 そのメモ書きはテオに渡して後で調べてもらうことにする。


「それ以外に、不審な点などはございませんか?」

「それと……エルマー様は最近急に、女性の好みが変わったみたいなんです。痩せている女性が好きだと言って、私にダイエット茶をすすめてくるようになって……」

 

 ダイエット茶ですって……?

 リリー嬢はどう見てもほっそりとしていて、私なんかよりよっぽど華奢だわ。

 これ以上ダイエットなんかしたら、折れてしまいそうな腕よ?

 確かに急に女性の好みが変わるというのは、怪しいわね……


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