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うまい話には裏がありますのよ?

 ハロルド様は私を放置して、馬車の方へ向かったわ。

 まあ、あの様子では戻ってきたとしても、ろくに言葉も交わせないでしょうね。

 今夜の「主役」は、もう出番はなさそうだわ。

 私は、もう少し情報収集しに行きましょう。


 再び夜会の会場へ戻ると、軽やかな音楽に紛れるように、貴族たちの噂話が飛び交っている。

 ──「オーベルン銀山、再開発が本決まりらしいわよ」

 ──「あそこって、もう採れないって話だったのに?」

 ──「どうも、新しい脈が見つかったとかで、国外の投資が入ってるらしいの」

 ──「へえ……東部交易路を通せば、一攫千金ね」


 ……聞き逃すと思った?

 ふふ、だめよ、そういう話を夜会の隅でしては。


 オーベルン銀山。

 ダルモン男爵領の真上を通る交易路の先にある、国内でも三本の指に入る鉱山。

 再開発の噂をちょっと隣国に流させてもらったわ。

 別に構わないわよね? 私だって噂で聞いたんだもの。

 

 再開発とあれば、資源の価値も跳ね上がる。

 そうなれば、物流も、通行税も桁が違ってくる。

 その高額な通行税が、ローエン家の敵であるダダリオ伯爵家の懐に入るなんて。

 それは、さぞかし面白くないでしょうね、ローエン伯爵様?

 

 どうやら、ローエン伯爵も聞き耳をたてている様子。

 では、もう一押ししにいきましょうか。

 ローエン伯爵の後ろに、ちょうど知り合いがいるわ。


「こんばんは。レアーノ様」

「久しぶりだね、ヴィヴィアン嬢。今日はハロルド君は一緒じゃないのかい?」

「ええ……ハロルド様は……最近他の令嬢にご執心ですのよ?」

「ああ……さっきの。いいのかい? ほうっておいて」

「仕方ありませんわ。ダルモン男爵令嬢とハロルド様は、師弟の関係ですのよ? なんでも……幼い頃から、おふたりは特別だったとか。これは噂ですけどね?」

 

 ぴくり。ローエン伯爵の眉がわずかに動いたわ。

 しっかり届いたみたいね、私の囁きが。

 ふふ。この様子なら、さっきの銀山の話はすでに耳に入っているようね。

 でも、こっちの話はまだ知らないでしょう?

 

「ここだけの話なんですけど……ダルモン男爵家って、ご長男は家を継がないっていう噂が流れてますのよ? そうしたら、あのご令嬢が跡継ぎにスライドしますわよね? 男爵家には他に兄弟もいないそうですし」

「本当かい? それは」

「ええ……確かな筋から聞きましたもの」

 

 あら、ローエン伯爵が慌てたように動いたわ。


 ◇


 さて、仕込みは終わったし。

 そろそろ帰ろうかしら……

 ああ、でもハロルド様が先に帰ってしまったから、馬車を手配しないと。

 こんなことなら、テオに迎えにきてもらえばよかった。

 どうしよう……


 馬車留めのある方へと続く回廊を歩いていると、聞き覚えのある声がする。

 あの声はローエン伯爵? 

 ……とハロルド様?

 

「……いいか、マリアンヌ嬢を口説け」

「父上? それはどういう……」

 

 ハロルド様、まだ帰っていなかったのね。

 中庭でマリアンヌ様でも待っていたのかしら。

 それにしても、ローエン伯爵ってこういうところだけ抜け目ないわね。

 その人、まだ「私の婚約者」なんですけど? 

 その件、お忘れではなくて?


「お前はマリアンヌ嬢と懇意なのだろう?」

「懇意などとは……」

「いいか。マリアンヌ嬢が跡継ぎになれば、男爵家には婚約が殺到する。この噂が広まる前に、お前がマリアンヌ嬢を落とせ」

「えっ、そんな話……僕は、聞いていません」


 うふふ。噂なんて知らなくて当たり前よ。

 今から噂になるんですもの。

 今頃おしゃべりレアーノ様が、良い仕事をしてくれていると思うわ!


「だからお前はダメなんだ! 常に噂には耳をすませておけと言ってあるだろうが! とにかくマリアンヌ嬢を⼝説き落として、婚約に持ち込め!」

「マリアンヌを……」

「ダルモン領を通る商隊から徴収される通⾏税は年間でどれだけになると思っているんだ! その通行税が、そっくりこっちに転がり込むんだぞ? 年にいくらになると思っている!」

「でも……モンテローズ伯爵令嬢は?」

「モンテローズ家?そんなもん、なんとでもなるわ! ヴィヴィアン嬢はお前に気があるわけでもなかろうが。あんな女を嫁にしたら、胃に穴が空くぞ?」

 

 言ってくれるわね。私が胃に穴を開ける女?

 やっぱり、慰謝料請求しようかしら。


 ……まあ、いいわ。

 お望み通り──「口説いて」いただきましょうか、マリアンヌ嬢を。



「お嬢、夜会でなんかやらかしたんですか? ハロルドは?」

 

 連絡を受けて迎えにきたテオが、呆れたようにため息をついた。

 

「ハロルド様なら、マリアンヌ嬢を口説けとローエン伯爵から指令を受けていたわ」

「はあ? 何がどうしたらそうなるんですか」

「まあ、それよりも大事なことがあるの。例の教会への寄付、ちゃんと済んでるわよね?」

「もちろん、ダルモン男爵家のクレメンスには、聖騎士団への正式な推薦状が届いている頃かと」

「なら、いいわ。これでマリアンヌ嬢は跡継ぎ決定ね」

 

 なんだかやりきった感があるわ!

 でも、まだ燃え尽きるには早いわね。

 最後の大芝居が控えているもの。



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