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【第五話】『消えた貴婦人たち』他人の不幸は蜜の味、ですわ

「見つからないわね……あの教本、どこにしまったっけ……あら?」


 学生時代の古い教科書を探して、倉庫の私物入れをひっくり返していたら、妙なものが出てきた。

 ひまわりの形をした、子ども向けの安っぽいオモチャのペンダント。

 なんでこんなところに紛れてたのかしら。

 懐かしくて、つい拾い上げてしまった。

 

 あまりに古いから、触れても過去視は発動しないけれど。

 これをもらったときのことは、覚えているわ。

 

 ──ヴィヴィたん、これ、あげる。

 ──くれるの?

 ──うん、だから、僕のお嫁さんになってくれる?

 ──いいわ。テオのお嫁さんになる!


 うふふ。

 そんな無邪気な頃もあったわね……

 テオが私の遊び相手として、子爵家から連れてこられて。

 初めて会ったときは、まだテオが五歳だったかしら。

 捨ててしまうのも忍びなくて、おもちゃのペンダントを拾い上げた。

 

 

 部屋に戻ってくると、すぐにテオが現れた。

 相変わらずのイケメンっぷりね!

 可愛かった頃の面影は、どこにも残っていないわ。


 「おはようございます、お嬢」

 「おはよう、テオ。今日は公爵夫人のお茶会よ! 失礼のないようにお願いね?」

 「お嬢こそ、噂話に夢中になってトラブル起こさないでくださいよ?」


 笑いながら玄関へ向かうと、すでに馬車が待機していた。

 手際が良くて、気分がいいわ。

 馬車に乗り込んでテオと向かい合わせに座る。

 なんだか、この配置にも慣れてきたみたい。

 

 「そういえばシャーロット王女殿下の件、聞いた?」

 「ああ、聞きましたよ。修道院送りになったとか」

 「まあ、あの性格だものねえ。修道院がちょっと気の毒じゃない?」

 「外交問題に発展しなかっただけマシじゃないですか」


 馬車は公爵家へ向かってガタゴト揺れている。

 噂好きで評判の、マルグリット・ド・ラモーシュ公爵夫人。

 今日はどんな面白い話を聞かせてくれるのかしら。


 「今日はほとんどの令嬢が呼ばれてるそうよ。情報収集できそうで楽しみだわ」

 「ほどほどにお願いしますよ……と言っても、聞かないでしょうけどね、お嬢は」


 テオったら、まるで保護者みたいね。

 そんなに心配しなくても大丈夫よ。

 たぶん。


 ◇


「ほら、公爵夫人。何かお話を聞かせてくださるんでしょう? 噂話がしたくて呼んでくださったのではなくて?」

「まあ、ヴィヴィアン嬢。そんなに急かさないでくださいな?」


 周りの令嬢たちはクスクスと笑っている。

 みんな期待しているのよね、夫人の暴露話。

 貴族にとって、情報は命綱ですもの。

 オーラ視を軽く発動させて、周囲の人たちを観察してみることにしようかしら。


 「最近、少し物騒な噂を聞きましたの。リチャード卿の奥様が旅行に行ったきり戻ってないとか?」

 「ああ、あれは奥様がご機嫌斜めで旅に出られたって聞きましたわね……」


 夫人のオーラは灰色。困惑しているのかしら。

 それとも……何か隠してるかも?


 「そういえば……領地に戻ったきり音沙汰なしの方もいらっしゃるわよね?」

 「それって……もしかしてクレメント男爵の後妻に入られたあの若い奥様かしら……」


 こちらの若い方たちは、黄色とオレンジのオーラだわ。

 純粋に好奇心のオーラよね。これは。


「最近、王都でも若いご婦人が行方不明になる事件が起きたと聞きましたのよ」

「まあ……恐ろしいですわね? そのお噂はどこで……?」

「私の主人が、王宮の騎士団で耳にした噂ですのよ……確かな情報ですわ」


 公爵夫人は声をひそめて話しているつもりみたいだけれど、丸聞こえよ。

 それにしても……オスカー師匠から行方不明者が出ていることは聞いていたけれど、思っていた以上に噂が広まっているわね。

 しかも、既婚者ばかりが行方不明になるというのが、なんだか不審だわ。

 

 噂話をまとめると、行方不明になった人たちには、共通点があったらしい。

 みんな香水が好きだった。そして、最近になって香水を変えていた。

 『香水業者と浮気していたのかしら?』なんて噂になってるみたい。


「そういえば、最近いなくなったあの男爵夫人……香水だけじゃなくて、変なお茶にもハマってたらしいですわよ? おかしなニオイのするお茶だとか」


 マルグリット夫人の言葉に、思わず私はカップを置いた。

 変な香りのお茶。

 なんだか引っかかる。

 なんだったかしら……


 ──あの変なお茶……脳に効くとかなんとか言ってたじゃない。


 「あっ……」


 思わず声を出してしまっていた。

 テオがびくりと反応する。


 「……なにか、思い出しました?」

 「うん。リリー様の元婚約者よ。あのヘンタイ男。アイツが買ってたお茶、あれも変な香りがするとか言ってたじゃない」

 「グレイ・ティー商会……か。確かに言ってましたね」

 「でもあの商会って、潰されたはずでしょ? 関係者全員、捕まったわよね?」

 「……表向きは、ね」


 テオが小さくため息をついた。

 すぐに私が何を考えているか、気付いたらしい。

 

「で?」

「調べてちょうだい。あの商会の仕入れ先──確か隣国経由って話だったわよね? 今でも裏で売ってる人間がいるなら、そいつが今回の黒幕かもしれないわ」

「……了解。ただ、くれぐれもお嬢はひとりで突っ走らないでくださいよ?」

「わかってるわ」

「本当ですかねえ……」


 まだ貴婦人たちは盛り上がってるけど、私はもう十分。

 いいネタも拾ったし、テオにはさっさと動いてもらわないと。


 

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