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国王様、お怒りですわ

 王宮の謁見の間。

 重々しい空気の中、私はオスカー師匠と並んで、国王陛下の前にひざまずく。


「カステリオン侯爵、モンテローズ嬢、頭を上げてよいぞ。今日は非公式の会見である」


 国王の隣には宰相と記録係だけ。

 オスカー師匠が立ち上がったので、私も横に並んだ。

 玉座の上で宰相が隣国の王太子からの書状を読み上げる。


「シャルロット・アーデン・ユーレンベルク王女の強い要望により、テオドール・ラングレーに縁談を申し込む。ついては、現在雇用関係にあるモンテローズ家とテオドール・ラングレーの契約解除を──」

「──国王陛下! 発言の許可を」

「モンテローズ嬢、許可する」


 そこで、私は一歩前に出た。


「僭越ながら、モンテローズ家を代表して申し上げます。当家は、テオドール・ラングレーとの契約を解除する意志は、微塵もございません!」


 玉座上の国王が、面白そうに目を細める。


「理由を、聞こうか?」

「……王女殿下の素行に問題があると判断しております。詳細は、スコープの調査報告をご確認いただければ」

「ふむ。カステリオン侯爵」


 隣に立っていたオスカー師匠が、一礼して報告書を取り出した。


「簡潔に要点のみを。王女殿下の同行騎士のうち、複数名との私的な関係が確認されております」

「……私的な関係?」

「はい。たとえば──騎士Aとは中庭にて抱擁および口づけ、騎士Bとは化粧室裏の廊下にて頬への接吻、騎士Cとは舞踏会前の控え室で膝枕、騎士Dに至っては……室内での着衣の乱れ等が記録されております」

「……ふむ」

「なお、肉体関係があると見られる人物は、合計で七名」

「七名だと……?」


 国王の顔がぴくぴくと引きつった。


「……うち、二名は同日に重複していた可能性がございます」


 淡々と報告を続けるオスカー師匠を見ると、わずかに笑みが浮かんでいる。

 ……ちょっと楽しんでません? 師匠。


「さらに問題なのは、同行していた人物のうち、使節団名簿に名前がない男が一名おりました。この者が王女殿下の部屋に単独で出入りしていたことを確認。後の調査により、隣国で指名手配中の容疑者である可能性が高いと判明しております」


 国王の顔が、みるみる赤く染まっていく。

 頭から湯気が出そうだわ。


「王女が……使節団に登録されていない男を……? 王宮内にか?」

「はい。警備記録および護衛の証言から、王女殿下の個人的判断であることが明らかとなっております」

「…………っ!」


 王は、ダンっと音を立てて立ち上がり、低く命じた。


「──シャルロット王女を、呼べ」



 しばらくすると、謁見室の扉が開き、シャルロット王女が花のような笑顔で入ってきた。

 その後ろから、テオが渋々と付き従って入ってくる。


「国王陛下! 本日はお招きいただき光栄ですわ! あら、モンテローズ伯爵令嬢もいらしていたの?」


 ──ご機嫌そのものね。

 空気を読むなんてこと、この王女は知らないのかしら。

 国王は厳しい表情で、テオをまっすぐに見た。


「テオドール・ラングレー。貴殿への王命──王女殿下の世話係としての任を解除する。本日より、モンテローズ家へ戻るように」

「はっ、謹んで拝命いたします!」


 テオの顔が、ぱっと晴れやかになった。

 よかったわ。

 一瞬目が合って、テオが軽くうなずいた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!!」


 王女が、椅子を蹴りそうな勢いで前に出てきた。


「どうしてですの!? 私のテオドールを奪うなんて、国王様ったら酷いですわ!!」


 謁見の間に、びりっと張り詰めた空気が走る。

 この王女、礼儀もなってないわね……

 国王陛下に文句を言うなんて!


「シャルロット・アーデン・ユーレンベルク王女。貴女が王宮に連れ込んだ男の中に、不審者がおる。その男は使節団に属しておらず、身分も不明じゃ」

「え……? 誰のことかしら……?」

「それが事実であれば、貴女の行動は──我が国への反逆行為である」

「そ、そんな……っ!」


 王女は納得がいかないという顔で、唇を尖らせた。


「だって! そういえば護衛がひとりいなくなったけど……それなら代わりにテオドールを連れて帰ろうと思って」


 ──バカなの? この王女。

 国王は呆れたように目を見開いているわ。

 さすがに王女殿下の発言とは思えないわよね。

 

「……今すぐ、帰国せよ。おまえには、王族としての分別が足りぬ。この国の名誉を守るためにも、これ以上は許しておけぬ」

「え、え、でも──! 私は、テオドールと──」

「衛兵、連れて行け!」

「いやああああああああああ!! テオドール~!!」


 王女の絶叫が、宮殿中に響き渡る。


 ──ああ、いい気分。

 大人しく自分の国へ帰ってちょうだい。

 もう、二度とこの国には来ないでもらいたいわ!


 ◇


 こうして──

 シャルロット王女は即座に祖国へ送り返された。


 ラルシア国王は『今後、我が国の王族および貴族と、ユーレンベルク王国の王族との婚姻は、一切認めない』との通達を、隣国の王太子に送りつけたらしい。

 友好国としては、かなり厳しい処遇よね。

 ──まあ、当然だと思うけど。


 だけど、問題はまだ終わっていないわ。

 王女についてきていた、あの黒髪の男。

 使節団には登録されていなかった、密入国者……

 今も、まだ足取りがつかめていないらしいわ。

 『観測所』には、引き続き調査依頼が届いている。


「……あら、オスカー師匠、こっちの依頼書はなんですの?」

「ん? おお、それか……忘れておったわ」


 『優先』と赤で書かれたファイルを手渡す。

 オスカー師匠は紅茶を片手に、書類を読み返した。


「少し前から、不審な出来事があってな……王女の一件ですっかり後回しになってしまったが」

「不審な出来事とは?」

「貴族女性の失踪事件じゃ。王都ではなく地方領地で、人妻が消えるという報告が数件。どれも不倫相手に呼び出されて、そのまま戻らないという内容での。貴族は世間体を気にするから、なかなか捜査が進まないんじゃよ」

「……不倫失踪事件。王女の次はそれですの?」


 私はため息をついた。

 もうしばらくは、男女のアレをみたくないんだけど。

 オスカー師匠がぽい、と投げ出した書類に目を通す。


 ──失踪した女性は、屋敷を出た後二度と目撃されていない……か。

 なんだかいやな予感がするわ。



 【第四話】『隣国からの縁談』 ー完ー

 


 

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