逆ハーレムですわ!
王女と侍女が、用意された部屋に。
侍女が手伝って、王女のドレスを着替えさせている。
脱ぎ捨てられた王女の、異国風のドレスにそっと近づく。
そして、胸元の大きなリボンの端に触れてみた。
──ふっ、と視界がセピア色に染まる。
王女が、鏡の前に立っている。
そして──後ろから現れた、あの男。
黒髪の男が、やさしく後ろから抱きしめて──
その指が、すっと胸元にすべりこむ。
王女の頬が染まり──
うっとりとした表情で……
──ひえっ!?
思わず声を出しそうになったけど、今回は耐えたわ!
危なかったけど、こういうシーンをあらかじめ警戒していたのよ!
それにしても……
何してんのよこの王女!!
最後にこのドレスに触れたときの過去ってことは、ついさっきじゃない!
王女があの男とこんなことをしていたときに、テオはどこにいたのかしら……
なんとか平静を保ちながら、他にも情報が得られそうなものはないか、探してみる。
「シャルロット殿下、このブローチ……とても素敵ですわね。ラルシアにはないデザインだわ」
「まあ! わかります? 異国の騎士様からいただいたものなんですの。ふふっ」
王女が着替えに夢中になっている間に、次は金細工のブローチに触れてみた。
また、視界がセピア色に染まる。
王宮の中庭。
王女が手を差し出し、それにイケメン騎士のひとりが口づけをしている。
イケメン騎士は、王女を抱き寄せ、今度は唇を……
──ちょっと! また違う男じゃない!
しかも、このドレスを着ているということは、今朝だわ!
ツッコみたい衝動を堪えて、次のターゲットに意識を移す。
「殿下、こちらの髪飾りも素敵ですわね。これは……?」
「ああ、これは別の方がくださったのよ。枕元にこっそり置いていってくださって。ロマンティックでしょう?」
──王女枕元に男がこっそり来る時点で、セキュリティどうなんってんのよ!
もはや覚悟を決めて、髪飾りに触れてみた。
今度は、王女がソファにごろんと寝そべって、膝枕をしている。
これも、ここの王宮の部屋だわ。
壁の飾りに見覚えがあるもの。
王女はイケメンの膝の上で満足げに目を閉じている。
青年は恍惚とした表情で、王女の身体をまさぐっていて……
顔の筋肉がひくひくするのを堪えながら、ぎこちない笑みを作った。
こんな男たちの中にテオを加えようとしているなんて、許せないわ!
おかしいんじゃないの……この王女!
隣国の王族教育はどうなっているの?
「ヴィヴィアン様! どうですか? 似合います?」
「ええ……とってもお似合いですわ! サイズもぴったりでしたわね」
ドレスを身につけて、くるりと回ってみせる王女様。
そうやっていると、無邪気な少女に見えるんだけど。
次にそのドレスを脱がせるのはどなたかしら?……と下世話な想像をしてしまったわ。
ドレスを着替えた王女は、ご機嫌で男たちの待つ謁見室に戻った。
皆にちやほやと褒められて、頬を染めているわ。
これが、この王女の日常なのね。
誰もおかしいと思わないのかしら。
「……テオ。少しだけ時間を稼いでほしいの……ここに王女を足止めしといてくれる?」
さりげなくテオに近づき、こっそり耳元で囁いた。
「あと十分でいいわ。王女殿下のご機嫌取りをしていてちょうだい」
「……了解。なんとかします」
テオが王女殿下を囲む輪に加わり、私はオスカー師匠と目配せをして謁見室を後にした。
◇
王女の私室。
侍女は王女に付き添っているので、部屋には誰もいない様子。
ドアに鍵はかかっていないわ……不用心ね。
ドアを開けてまず目に入ったのは──
すぐ横の壁に飾られていた『聖獣のいる庭』
「……ちゃんと飾られてますわね」
「うむ、これでよい」
オスカー師匠は、満足げに頷いた。
室内を見回し、散らかったベッドの周りに目を向ける。
ベッドのサイドテーブルに、リボンやブラシ、ヘアピンなどが散らばっていた。
あまり視たくないけれど……仕方ないわよね。
意を決して、小さなリボンに触れてみる。
──セピア色の光景。
ベッドに腰かけた王女が、また別の男に身体を預けている。
笑いながら、甘えるように顔を近づけて、じゃれ合っている……
「師匠、もうこれ以上、視たくないですわ……」
「……うむ。まあ、もういいじゃろう。ベッドでしていることなど、そう重要ではない」
約束の十分が過ぎたら、王女が戻ってきてしまうわね。
師匠と部屋を出て、『観測所』へ向かおうとしていたら、通路の先から足音が聞こえた。
誰かが走っているようだわ。
「……静かに。こっちに向かっているぞ」
オスカー師匠が隣の小部屋のドアを開けて、静かに手招きをする。
ドアの隙間から外の様子をうかがっていると──
やってきたのは、さっきの黒オーラの男だった。
……ひとりだわ。
王女の側を離れて、何をしているのかしら?
ひとりきりであたりを見回しながら、王女の部屋に入っていった。
これは……何かあるわね。
オスカー師匠は、飾られた絵のある壁の前に行き、目を閉じた。
──クレアビジョン。
その言葉とともに、師匠の瞳がかすかに光ったように見えた。
「……視えた。あの男……机の引き出しを開けて……中から何か取り出したようだ……」
「ドロボウ?」
「いや、戻したようだ……いや、すり替えたのかもしれんな」
師匠の声が低くなる。
「……あの形は印章かもしれん……王女であれば国王代理として印章を持っていても不思議ではない」
「そんな大切なものを、鍵もかけずに引き出しに入れます?」
「あの王女なら、やりかねんよ」
「それが事実なら、あの男……」
「うむ。おそらく隣国のスパイじゃろうな……となると面倒なことになりそうじゃ」
「……そうですわね」
足音がしたので、オスカー師匠はクレアビジョンを止めて、再び隣の部屋に隠れた。
コツコツと足音が遠ざかっていく。
目的を果たしたのかしら。




